壊れた指輪の欠片を集めて、は悲しそうに俯いた。彼女にとって、その指輪は特別なものだった。
 それは、ジャパニーズコロニーでたまたま出くわした祭りの最中、見かけた出店で見つけたものだ。青い石の嵌まった子供用のおもちゃの指輪。はそれがフェイクの石だと分かっていてもたまらなく綺麗に思えて、欲しさから共に歩くチップにねだった。安いものだったからチップはすぐに指輪を買ってに渡す。

「もっと高価なモンじゃなくて良いのかよ」
「これがいいの。キラキラして可愛いじゃない」

 右手の中指に早速指輪をはめて、ははしゃいだ。自分で買うことも出来たがあえてチップにねだったのは、彼から贈ってもらいたかったから。ささやかな我儘だ。それを知ってか知らずか、彼は微笑み続けていた……。
 ……その指輪が、今日壊れた。ぱっきり割れてしまった。大切にしていたつもりだったのに。机の上に指輪の欠片を並べて、は溜息を吐いた。イミテーションの石も見事に割れ、リング部分も真っ二つ。不運を通り越して不穏ですらある。

「せっかく買ってもらったのに……」

 毎日この指輪をつけるのが楽しみだった。ちょっと落ち込んだりしても指輪のキラキラとした光を見つめれば元気になれる気がした。買ってくれた時のチップの笑顔が蘇って嬉しくなった。
 チップに対しては申し訳なさを覚える。本当に大切にしていたつもりだったのだ。どこか粗野に扱ってしまったのかもしれない。ねだっておきながら壊したなんて知られたら、どんな顔をされるだろう……。
 気が付くとは泣いていた。欠片になった指輪の前でしくしくと泣いていた。泣いたって叫んだって指輪は元に戻らない。それでも涙が止まらなかった。

「おーい起きてるかー」

 いつもよりテントから出てくるのが遅いと思ってチップが迎えに来た時も、は気付かず泣いていた。

「どうした!?」
「チップ……ごめんなさい」

 驚くチップに、は静かに頭を下げる。歩み寄ってきたチップは机の上との泣き顔を見て、何があったのかすぐに察してくれた。

「指輪、壊れちまったのか」
「うん……」
「まぁ、安物だったし、もった方だろ」

 気にすんな、とチップがの頭を撫でる。撫でられるとますますは泣きたくなって、ぽろぽろと涙があふれるのを止められなかった。自身も止まらない涙に困っていると、チップはを抱き寄せた。

「そんなに泣くなって。大人だろ」
「大人でも泣くよぉ! だってせっかくチップに買ってもらったのに!」

 は遠慮なくチップの腕の中で泣きじゃくった。

「かわいい指輪だったのに、お気に入りだったのに。いくらチープでもおもちゃでも、私にとっては、チップからもらった大切な指輪なんだもの」

 チップはすがりつくの背中をさすりながら、小さく笑った。の主張があまりにも可愛らしかった。それほどまでにあの指輪を特別視していたことも意外だった。チップにとってはの我儘に応えたというよりも気紛れに買って与えたに近いものだったからだ。

「そこまで大切にしてたなら良いだろ。大切にした分使ってやっただろ。俺も気にしてねえから。つーか、そんなに指輪が欲しいならまた買ってやるよ」
「そういう問題じゃないの、気持ちが~!!」
「はいはい、分かった分かった」

 がぎゅうっと抱き着いてきて抗議する。チップは軽くなだめる。どちらが年上か分かったものじゃない。
 がいくら力を込めてもチップにはくすぐったいものだ。

「気が済むまでこうしておいてやるよ」

 チップがそう言うと、は大人しくなった。
 素直なを見て、チップは、今度は何を買って送ろうか、何をねだられるのだろうか、と楽しい物思いに耽った。


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