最近、あの少年の姿を見かけない。
他の店員にそれとなく訊ねてみても理由は判らないと言う。
役に立たん。
大して飲めもしないコーヒーをわざわざ頼んで居座り、いつか来るだろうと少年を待つ自分の健気さが笑える。
一週間ほど通ってみたがやはり見かけない。店への連絡も無いそうだ。
……さぼるような人間には見えなかったのだがな。
「……馬鹿馬鹿しい」
自分が情けなくなる。しかし、少年を一目でも見たいという不可解な感情を押さえることができなかった。
――そんな時だ。
見覚えあるパーカーと帽子が、視界に映った気がした。
慌てて顔を上げる。
「すいません店長ぉぉお!」
間違いない。
慌ただしく店内に駆け込んでいくあの姿は――だ。それにしても騒がしい。
どうしたことかは、それから10分ほどで店を出て行ってしまった。心なしか顔色が芳しくない。げっそりしているように思えた。
声を掛けることもできなかった。オレのことなど気づきもしなかっただろう。
何故か気が沈んだ。
こんな感情は、もう味わいたくないと思っていたのだが。
「――あの、お客様?」
呼ばれて顔を上げると、店のウェイトレスがいた。
「……何か?」
「あの、よく判らないんですけれど……くんから、コレをお客様に渡すよう頼まれまして」
ウェイトレスが差し出してきたのは、ノートの切れ端のような紙だった。一体なんなのだ。
「これは……」
「さっき、慌ててくんが書いていった手紙です。それじゃあ失礼します!」
そそくさと下がっていくウェイトレス。
とりあえず手紙とやらを受け取ったものの、オレは悩んだ。何故がオレに手紙などを書くのか。こんなもの……と思いつつも、オレは手紙を開いた。
元気が取り柄のが、あんな顔色で走り去ったのが気になって仕方なかった。その手掛かりが、この中にあるような気がしたのだ。
手紙と呼ぶには拙い、走り書きの文字がびっしりと並んでいる。ただ事ではない何かを感じた。
“プラシドさんへ。いきなり手紙を書いてすいません。実は困り事があって、勝手ながら頼れるのが貴方しかいませんでした。
この中に入っているもう一つのメモを、セキュリティの牛尾さんか、ポッポタイムにいるクロウという人に届けて貰いたいのです。
どうか、お願いします”
もちろんオレは、もう一つのメモとやらも引っ張り出した。
そのメモには、予想だにしないの現状が記されていた。
“です。俺はいま、遊星とブルーノに監禁されています。部屋には何重にも鍵がかけてあって、いつも二人が見張ってて、外には出れません。
今日なんとか頼み込んで、バイト先にちょっとだけ顔を出すことが出来ました。
監禁されていることをみんなは知らないかもしれないし、もしかしたら遊星たちに言いくるめられているかもしれない。
でも、牛尾さんやクロウならそんなこと無いんじゃないかと思って何とか言伝を頼みました。
途中まで目隠しされてたので、監禁部屋までの道のりの情報は、初めてあの部屋に連れてかれたときに見たものしか判らないですが、覚えている限り書いておきます。
本当に迷惑をかけてすみません。どうかお願いします”
絶句した。
がこんなたちの悪い冗談を言うはずがない。騙されることはあっても騙すことは出来なさそうな馬鹿な人間だ。
だとしたら、不動遊星たちに監禁されているというのも、まごうことなき事実。
だが――何故オレなのだ。
セキュリティに連絡する程度のことだ、この店の連中では駄目だったのか? もしかすると店の連中にも既に手が回っているのか? しかしこんな事、セキュリティに行ったところで信用される内容だとは思っているのか? オレがポッポタイムとやらに赴くと本気で思っているのか?
ぐるぐると頭の中を巡る思考を、オレは淡々と並べ片付けていく。
セキュリティなど役に立つのか? 使おうと思えば使えない訳ではないが……しかし。
「逆に煩わしいな」
そんな駒など使わずとも、オレ一人で何とでもなるだろう。
決めたならば行動はなるべく早く、だ。
会計を済ませ、オレは店を後にした。
意地でもの居場所を突き止め、部屋から引きずり出してやる。の監禁が解けるだけではなく、あの不動遊星に一泡吹かせてやることが出来るのだ。一石二鳥とはまさしくだな。
文面から察するに、はオレを相当信頼しているらしい。がもう少し賢く嘘のうまい人間ならば、不動遊星たちと仕組んだ罠の可能性も考えられたが……無いだろう。不動遊星はともかく、は限りなく平凡でお人好しの馬鹿だ。そんな器用な真似はできまい。
「待っていろ、」
不動遊星の愚かな目論見など、オレが蹴散らしてくれる。
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