はベッドの前に座ったまま、遊星とブルーノの話を聞いていた。

は、イリアステルに目を付けられてるんだよ。は気付いて無いだろうけど、イリアステル側からに、遠回しな接触が繰り返されてる」
「巧妙に変装してはいたが、以前のバイト先に来た男……あの執事風の男だ。あいつは間違いなくイリアステルだ」

 ふたりが話してくれたことで、は少しずつ自分が置かれていた状況を受け止めていった。
 イリアステルは、このネオ童美野シティを壊し、歴史を変えようとしている組織のこと。バイト先の常連となり始めていた男性がその組織の一員であることなど、だ。

「執事みたいな人……確かに来てたなぁ。でも、プラシドさん、悪い人にゃ見えなかったけど」
「悪い奴がいちいち自分から“悪い奴です”と言うわけが無いだろう」
「……ちょこちょこ来てくれてたし、大事なお客さんのひとりだし。いいひとっぽかったけどなぁ」

 がそうごねると、遊星とブルーノは血相を変えた。

がここまで気を許すほどに接触を繰り返していたのか、あいつ……。やはりバイトは辞めてここにいるべきだ、。何時あちらが強行手段に出るか知れたものじゃない」
「やっぱり何時も見守ってあげなきゃいけなかったんだね。ごめんね、互いがひとりになる時間も必要だと思ってた僕が間違ってた。これからはずっとずっと守ってあげるからね」

 二人に気圧され、は何も言えなかった。
 やや行き過ぎな二人の行動や言動は、すべてこれが原因だったのだろうか。しかしにはまだ納得がいかない。

「俺は確かに異世界から来たけど、だからどうしたっていうのさ。俺別になんもないよ」

 特殊な能力や知識がある訳でもない。ただ、異世界から迷い込んだ。それだけなのである。
 しかし、遊星とブルーノは眉をひそめた。

「異世界から来た……。それだけで十分理由になるじゃないか」
「僕らとは違う世界、違う知識、違う能力……。はね、が思ってるよりずっと特別な存在なんだよ」
「特別?」

 ふとは二人に言いくるめられそうになっていることに気付いた。
 ――よくよく考えたら色々おかしくて意味わかんねえぞ。
 自分の平凡ぶりを自覚しているは、考えた。
 デュエルで閃光をきらめかせたり、奇跡に近いカードドローを行う遊星たちのほうが、よっぽど特別に思える。百歩譲って自分に特別な力があるとしても、シグナーの方がよっぽど凄いのではないか。
 赤き竜の力で遊星は時空を飛び越えたこともあるらしい。イリアステルも未来から来た人間である。既にとはスケールが違う。何かに巻き込まれていつの間にか異世界にいた自分とは違う。
 何が出来るか判らない……というか何も出来ないの力など無くても構わないだろう。
 遊星たちが話すようにが必要なのだとしたら、常連客になるなどとまだるっこしい方法は取らずにさっさと連れ去ってしまうはずだ。多分プラシドは普通の客として癒しを求めてコーヒーを飲みに来ていたのだ。

(あくどい奴ならそんくらいすっだろ! 俺強くもないし!)

 此処で負けてしまっては、恐らく自分は此処で一生を終えることになる。遊星とブルーノの目的は「守る」という皮を被ってはいるがいわゆる「監禁」なのだ。
 どうしてこうなった。
 過去の経験から、はそう分析していた。分析はできるが、心情までは理解できないレベルにあった。
 鎖で繋がれ閉鎖空間に放り込まれた時点で、の胸中に余裕はなく、破裂しそうだった。

(こうなったら、一か八かだ)

 は決心して口を開いた。

「……此処にいたらクロウやジャックやアキや龍亞や龍可たちに会えなくなるよな」
「そうだな。すまない……。いつかイリアステルを倒したらきっと大丈夫だから」
「いつ倒せるかもわかんないからいちいち俺を隔離すんだろ? じゃあ俺ここで骨になっちゃうんだな」

 の自嘲めいた呟きと乾いた笑みに、遊星が目を丸めた。
 こんなを初めて見たせいだった。言いようのない戸惑いが頭を巡る。

が、こんな顔をするなんて……どうしてだ?)

 何があってもは明るかった。自分がに迷惑を掛けてしまったと感じた時も「気にするなよ」と笑って励ましてくれていた。
 さすがのも自分が狙われる恐怖に耐えきれないんだろうか。活発なは、やはりこの空間だけでは足りないのだろうか。
 しかし、此処に慣れて貰わなければならない。
 遊星は気遣うように口を開いた。

。お前が安心してまた外に出られるように、頑張る。だからそんなに落ち込まないでくれ」
「俺のせいで二人に余計に迷惑かけちゃってるし。俺この町に来ちゃいけなかったな」
「そんなこと言わないでよ

 今度はブルーノがに話しかけた。うつむき、視線を合わせようとしないに戸惑いが隠せないようだ。

に会えなかったら、今頃僕は自分を見失ってたに違いない。に会えたから今の僕があるんだ。だから、大事なを守るのは当然のことなんだよ」

 はうつむいたまま顔を上げはしなかった。抱えた膝に顔を埋めて押し黙る。
 遊星とブルーノは、落ち込んでしまった想い人の様子が何時もと全く違うことに戸惑っていた。
 ――これこその決死の作戦であることを、気付かなかった。

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