周囲の空間は表現に困る色をしていて、ぐねぐねしていて天井も床も何もなくて、SF映画とかで見るワープゾーンとかワームホールとかいう場所のようだった。
ガチで見るとおっそろしいものである。誰かこの恐怖を分かち合ってくれ。
その中を超高速で進む見知らぬ男の小脇に抱えられながら、俺はいた。
「くわばらくわばらなむあみだぶつなんみょーほーれんげきょー」
必死に己を落ち着かせんと半端なお経を唱えてみる。自分でも何をどうしたらこんなメンタルでこんなことぼやくのか訳がわからない。限界を超えた脳のなせるわざなのか、それとも俺がただバカなのか。
「何を口走っている? まさか不動遊星に頭の中まで弄られたか」
「何か別の場所弄られた前提みたいな話は勘弁してくださいよおおお!」
「……それは悪かったな」
聞き覚えのある声で男は話す。パニクっている俺の叫びに、やや引き気味で謝ってくれたりした。
何だろう、やや既視感があるんだけど誰だこの白くて赤目で変わったス○ウターつけてる方は……。
現状は兎も角して、形的には俺は助かったことに変わりない。あの監禁部屋から逃げ仰せたのだ!
こんな空間にいながら“助かった”と思えるポジティブさを我ながら素晴らしいと思う!
「よく判んないですけど、あそこから出してくれてあんがとうございます」
「フ、ああも頼られては放っておけん」
頭のなかに疑問符が浮かんだ。どうやらこの人、俺を知ってるらしいぞ。しかもすごく嬉しそうだ。
「オレが誰なのか……。そう聞きたそうな顔をしているな、」
「お、俺の心を読んだんですか!?」
「いや、顔に出ていると言っただろ。馬鹿か」
「容赦ねえ!」
思いきりリアクションをしてからでは遅かったが、この人の喋り方は馬鹿にするというより案じてくれているような感じがした。
気分を害したのでは、と急に黙りこくる俺の心配を他所に、彼は語り始めた。
「貴様の慣れ親しんだ姿とは違っているが、オレはプラシドだ。貴様の手紙を受け取った男だ」
「えっ、えぇぇえ!?」
俺のリアクションに彼もといプラシドは、自慢げにフフンと鼻を鳴らした。
「不動遊星らに捕まっていると言うのでな、このオレ直々に助け出してやったのだ。オレは奴に屈辱を与えることが出来、貴様は奴の束縛から逃れられる……。利害の一致とはこのことだな」
話しながら彼は、俺の足についていた枷をすっかり取り払ってくれた。どうやったのかは判らない。感覚的に枷が外れたってのが判っただけで、足元を見る余裕は無かった。高所では視線を落としてはいけない理論が頭のなかで働いていたのである。あっ待て! そう考えたらいきなり怖くなってきたぞ! うっかり落ちようものならどうなっちまうんだ!? ああーダメだ考えるな俺!
大丈夫大丈夫、プラシドさんがわざわざ助け出した奴を此所に投げ捨てるなんて無意味なことする訳がない!
ちなみに根拠はない。
「あの、俺は一体何処に連れてかれるんでしょうか」
「貴様の本拠地、ポッポ何とかだったか。……あそこにだ」
ボスキャラが勇者の家訪ねるみたいな、そんな型破りっぷりを感じるぜ。痺れるぜ。
「っていうかプラシドさん、ポッポタイム行って大丈夫なんだぜ?」
「貴様の混乱ぶりよりは問題無い」
「いちいち正論なのだぜ!」
確かに俺は大混乱してます。
だってプラシドさんはイリアステルとか言うやつでぶっちゃけ遊星たちとは敵で、魔王イリアステルと勇者遊星一行みたいな関係なんだろ!?
その敵に助けを求めた俺ってどんだけなんだって話だけどその辺りは散々考えたし致し方ないって結論出したから良いや。
ただプラシドさんがこのままポッポタイムにホイホイ行ったら、ジャックとかクロウがびっくりするよな……。一触即発かもしれないぞ。
「フフ、案じることは無いぞ。今回ばかりはオレも戦うつもりはない」
「え?」
俺はきょとんとした。
まるで俺の考えを見透かしたようにプラシドさんは言ったのだ。
「、貴様は本拠地に着き次第、貴様の仲間らに事情を説明しろ。誰が貴様を拐かし、縛ったのかをだ。オレの話はともかく仲間である貴様の話ならば無下にはできまい」
「は、はい」
「あくまでオレの目的は貴様の救出と、不動遊星の愚行を突き付け貴様の仲間たちに混乱をもたらすことだ! ハハハ、奴等の反応が今から楽しみだな……!」
おわかりいただけるだろうか。
プラシドさんの語り口調は悪者そのものだというのに、その内容は真っ当すぎることを……。
この人オオカミの皮被った只のいい人じゃね?
いい人過ぎて気苦労で白髪になったんじゃね?
……いや、その割には我の強い方だから、単純に素なんだろうな……。
「そろそろ着くぞ」
プラシドさんの呼び掛けに、俺の思考は中断される。
ワープゾーンの先に見える一筋の光。そこに向かって、プラシドさんは抱えた俺もろとも飛び込んでいく。
――形容しがたい妙な感覚がし、懐かしい重力に襲われた。
べちりと足の裏全体で着地する。靴下だけだったから直に衝撃が来て痛かった。次いで眩しい日差しと青空を仰ぎ、俺は思わず泣きそうになった。
「そ、外じゃーーーい!!」
ばんざーい!
ばんっざーい!!!!
狂喜乱舞な俺を見て、プラシドさんは誇らしげな面持ちで腕組みしている。
なにこのイケメン! なにこのヒーロー! いやこの世界的には悪者なんだけど!
今の俺にとっては神様ですわ!
「ありがとうプラシドさん! ありがとう! まじ神! あなたは神だ!!」
「ハハハ、感謝してもしきれぬという貴様の想いが十二分に伝わってくるぞ。悪くない」
「ははーっ!」
まるで例の印籠を前にしたかのようにひれ伏す俺。何だか調子を合わせて答えてくれる優しいお兄さんプラシドさん。周りの目なんて気にしないぜ!
「誰だー! 人んちの前で騒いでんのはっ!!」
そして突如響いた怒号! ポッポタイムから飛び出してくるやや物足りない背丈の人影!
聞き覚えのある声に俺はがばりと顔を上げた。
つんつん頭にマーカーだらけの顔……。な、懐かしい。懐かしいよ!
「うおおおおクロウー! クロウじゃー!!」
「うるっせぇな! って……なっ、!? お前どこ行ってたんだよ!」
「くろぉぉぉおう!!」
男泣きで飛び付く俺を、クロウは嫌な顔せずに、っていうか久々に帰ってきた家出少年を迎えるオカンみたいに情たっぷりに受け止めてくれた。
クロウは俺に色々聞きたいことがあったろうし、俺はクロウに色々説明しなくちゃいけないことがあった。
「なっ、イリアステルか!?」
佇むプラシドさんに気付いたクロウが、敵意たっぷりに叫んだことでハッとする。
今にも決闘しだしそうなクロウに、俺は慌てて言った。
「待って待って! その人はオレを助けてくれたの!!」
「何だって!?」
ポッポタイムから飛び出してきたのがクロウで良かった。多分ジャックとかだったら話を聞いてもらうどころじゃなかっただろう。
驚くクロウに説明するため、俺たちはひとまずポッポタイムの中へと入ったのだった……。
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