あれから俺は、龍亞と龍可にも再会した。
 二人に「良かった」と泣きつかれ、俺は改めて監禁生活からの脱出を喜ばしく思った。
 ただ、俺がいなくなった理由をどう説明したらいいのか困った。遊星を慕い、ブルーノを仲間と信じる幼い子供たちに、監禁などというエグい話をそのまま伝えるわけにはいかない。けれど、そのあたりはアキちゃんが何とかしてくれた。
 お礼に今度、アキちゃんには甘いものでもご馳走したい。
 次に俺は、バイトに復帰した。突然辞めた人間を再び雇ってくれるか不安だったが、クロウが一緒に口を利いてくれて、本当に助かった。
 働きづめのクロウが心配なので、お給料が入ったら疲れを癒せそうな何かをクロウにプレゼントしようと思う。
 その間……遊星とブルーノは、ジャックが見張っていた。そしてジャックに、恋愛について色々と説教されたらしい。
 会えない時間も良いものだとか、そういう距離感が気持ちを育むのだとか、お前らはもう少し我慢を覚えろだとか……。何だかジャックはそういうことに詳しいらしい。とりあえず助かった。

「全く何をいつの間に拗らせたのだ、あいつらは」
「何か悪いねジャック」
「構わんがな。あいつらもだが……イリアステルがお前を助けたというのが一番疑問だ」

 ジャックの言うことは尤もだ。俺だって、助けを求めておきながら不思議だった。でもプラシドさんがいない今――バイト先にも来なくなってしまった――、確かめる術はない。

「まあ、今後は敵に助けられるなどという不可解かつ情けない事態にならぬよう努めるまでだ」
「うん、そうだね……。そうしよう」

 ジャック本当に頼もしい。
 そんなジャックが二人を見ている間に、俺は日常を取り戻していった。お礼にバイトをいくつか紹介したけど、ジャックにはどれも合わなかったらしかった。ちょっと申し訳無かった。
 ヤンデレから離れているうちに、俺は以前のようなメンタルも取り戻した。つまりは、ヤンデレな彼らとまた相対する元気を手に入れたのである。
 だが、この間、俺と接触があまりなかった彼らは、病んだ想いを募らせている可能性も大いにあった。そんなことにならないよう、ジャックは二人に「我慢を覚えろ」と言ったのだが。
 ふたりとも、ある意味とっても純粋なのだ。しっかり向き合って話せば判ってくれる。ただ今回は、彼らの思考がぶっ飛んでしまったあとだったから、俺が他所に助けを求めざるを得なくなっただけであって……。
 そんなこんなで俺は一週間、帰ってきた日常を満喫していた。
 バイト楽しい。
 Dホイール楽しい。
 デュエルは、ちょっと難しい……。

「ぎゃーまた負けた!」
、本当に弱いね……」
「うぐぐ……」

 ブルーノの苦笑いに、唸って返すぐらいしかできない俺。
 せっかくだからとブルーノを相手にデュエルの練習をしていたのだが、呆気なく俺は負けてしまった。いまいち魔法カードと罠カードのタイミングが掴めない。あとは突撃したらミラーフォースで全部おじゃんになったりして、本当に初心者から抜け出せない。トランプは好きなんだけどなあ……。ポーカーとかさ。

「獣族に拘りすぎなのかなあ……」
らしいけどなあ、獣族。でも、別の種族デッキを作ってみるのはアリかもね」
「なるほどなー」

 そこに、修理の仕事を終えたらしい遊星もやって来た。

、ブルーノ。調子はどうだ?」
「今のところ俺の三敗」
「そして僕の三勝だよ、遊星」
「そうか。……、まだ慣れないみたいだな」

 遊星は俺たちの傍に座ると、自分のデッキを引っ張り出した。
 まさか俺と戦いたいとでも言うのか……と思ったら、どうやら違うようだ。

「試しに、俺のデッキを使ってみないか?」
「えっ!? い、いや、上手く出来なかったら可哀想だし……」
「大丈夫だ。俺が隣でヒントを出す」

 なるほど、それなら俺が遊星のデッキの力を殺してしまうようなことは無さそうだ。
 だけれど……その話を聞いてブルーノが黙っていなかった。

「遊星だけずるいと思うな、それ。僕のデッキを一緒に使ってみようよ、
「やっぱそう来ますよねー……」
「提案したのは俺だ。だから俺が先で良いだろう」

 頭が切れるイケメンが、どうして途端に子供のような言い争いをしてしまうのか。
 二人にとっては真剣なことなんだろうけれど毎回毎回よく飽きないなあ、なんて俺は思った。渦中にいるの俺なんだけど。いかん、いかん。慣れすぎも問題だ。
 一先ずここは、俺が落ち着いて二人を仲裁するだけである。

「あ、あのさ。二人のデッキの内容知っちゃうとデュエル練習の時、俺がズルできちゃうかもだし……。ここは、二人が俺の獣族デッキに色々ヒントを出してくれないかな?」

 二人はしばらく顔を合わせて黙っていたけれど、納得したように頷いて俺を見た。

「それなら良い。だが問題は対戦相手だ」
「ジャックがいるはずだよ、お願いしてみよう」
「よっしゃよっしゃ、俺呼んでくるわ」

 そう言って俺が立とうとしたら、

「待ってくれ」
「待って」

 遊星とブルーノに引き止められた。
 俺の右手を遊星が、左手をブルーノがいつの間にか掴んでいる。
 ふたりは息を合わせているかのように俺の手を引っ張り、座らせた。そして俺の代わりに腰を上げた。
 ぽかんとする俺を、二人のメカニックが見下ろしている。

「俺たちが呼んでくるから、ここで待っててくれ」
が声を掛けるのは、僕たちだけで十分なようにしたいから」
「ああ、その通りだ」

 真っ直ぐな彼らの眼差しと、静かな声が俺の体を強張らせる。

「すぐ戻るから、何処にも行くなよ」
「僕たちを置いていかないでね」

 何だろう、二人の台詞が重たい。
 冷たいものが背筋を撫でる。
 遊星とブルーノの目があんまりにも据わっていたから、俺は酷く狼狽えた。
 そして思わず、こう訊ねてしまったのである。

「……もし、俺がどこか行くってなったら?」

 二人は少し間を置いてから――ゆるりと笑う。

「もう二度と逃がさないよ」

 声が重なって一つになった、二人の答え。
 思わず凍りつく俺。
 二人は笑いながら、俺を置いて部屋を出ていった。ジャックを呼びに行ったんだろう。そんなにしないで、戻るはずだ。
 ひとりきりの部屋の中、ぽつんと取り残された自分。
 へたりこんだまま、足にも手にも力が入らない。手のひらから滑り落ちたデッキが、ぱらぱらと床に散らばっていく。
 ――もう二度と逃がさないよ。
 頭の中で、ふたりの声が反響する。何度も、何度も。
 まだ記憶に新しい、監禁生活の光景。
 鎖と足枷、そして閉鎖されたあの空間がフラッシュバックする。
 ぞっとした。
 あんな状況が、再びやって来ることはないはずだ。
 それでも俺は、誓わずにはいられなかった。
 もう二度と、彼等から逃げたりしてはいけないのだと――。





枷は外せてなんかいない。
束縛からは逃れられない。
愛しい君がそれに気付くのは、何時の日か。

今度こそ誰にも知られぬよう。
今度こそ誰にも渡さぬよう。
しくじったりしないよう。
今までより上手く、周りを欺く仮面を得て。

じっくりと二人は、
その時を待ち続ける……。



―END―



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