なんで、ワシはまたコイツとたこ焼きを食っとるんや。
ジンはひっそりと溜め息をついた。
隣に座るコイツ――は、のんびり嬉しそうに次々とたこ焼きを頬張っている。
「暑い中で熱いものってのもいいねぇ」
「化粧落ちると違うんか自分」
「落ちるほど塗ってないよ」
笑うに、ジンは苦笑いを返す。
早く立ち去るべきだった。しかし、足が動かない。何故か席を立ちづらかった。
――楽しいんか、ワシは。
片手で足りる数ほどしか会ったことのないに、ジンは不思議な感情を抱いていた。
なれ合うつもりは無い。きっかけは偶然だったし、上手く情報を引き出せたら儲けもの、程度の接触だった。だから、もう会うことは無いだろうと思っていたのに。
はジンを見つけ、声を掛けてくるのだ。
警戒心の欠片もない姿に、何故か心がチクリと痛む。
(何で、コイツにそないなもん感じとるんや)
今夜は満月。
タカヤの提案により、彼等と接触することが決まっていた。
シャドウを、影時間を消そうとしている彼等に、警告するために。
「……もう5時か」
腕時計を見つめ、がぽつりと呟く。
ジンはそんなを見ながらぼんやりと思った。
――こんな談笑も、これで終いや。もう昼間に会うことも無いやろ。
そして今夜で、正体の判らないこの迷いも消えるはず。
「ワシはそろそろ帰るわ」
「うん、またね」
に手を振り返し、帰路につく。
その時ジンは、自分でも驚くほど綺麗に笑えた気がした。
◆◆◆
巌戸台、湾岸北部にある地下施設。今回、満月のシャドウが探知された場所だ。
元は陸軍の軍事に関わる所だったために、日常生活では見ることが無いような兵器の残骸がそこかしこに転がっている。人を殺めるためのそれらからは、いやな冷たさを感じた。
――しかし、一行がそこで見つけたのは、シャドウでは無かった。
「お目にかかるのは初めてですね」
影時間であるはずの今、目の前にいるのは間違いなく人間だった。象徴化せず、自分たちと同じように影時間を体験している。
相手は二人いた。白く長い髪を垂らした上半身裸の痩身の青年と、アタッシュケースを提げた青い髪の少年である。
痩身の青年は、薄い笑みを浮かべたまま口を開いた。
「私はタカヤ、こちらはジン。“ストレガ”と、我々を呼ぶ者もいます」
青年、タカヤの視線が一同をとらえる。どこか狂気じみた金の瞳に、奏夜たちの肌は粟立つ。
「皆さんのご活躍は知っています。聞けば、人々を守るための“善なる戦い”だとか。ですが……今夜はそれをやめて頂きに来ました」
影時間やシャドウの問題を解決しようとしている特別課外活動部の面々にとって、自分たちの行動を真っ向から否定しに来た彼の発言は衝撃的であった。
タカヤは静かに口角を上げる。
「お仲間が随分と急に増えたようですね。きっと、ここが罪深い土地だからでしょう。タルタロスは今宵も美しくそびえている……」
「それと、戦いをやめろってのと、何のカンケーがあんだよ?」
不機嫌を露わにした順平の言葉に、ジンが答える。
「簡単なこっちゃ。シャドウや影時間が消えたら、“ペルソナ”かて消えるかもしれん。そんなん、許されへん」
「まさか、ペルソナ使いなのか!?」
美鶴のみならず誰もが驚いた。
自分たち以外の、ペルソナ使い……。恐らく自分たちと相容れない志を持った彼等に、動揺を隠せなかった。
タカヤは淡々と語った。
「貴方がたは、力が消えてもいいのですか? ペルソナは誰もが使える力ではないのです。影時間は、その私たちに開かれたテリトリーだ。そして“滅びの塔”もね」
「だって、シャドウを放っといたら、どんなことが起こるか分んないのよ!?」
ゆかりの叫び声にさえ、彼等は一切動じなかった。
「シャドウのもたらす災いですか……。そんなもの、放っておけばいい。災いなど、常にあるもの。シャドウでなくとも、人が人を襲う」
タカヤのその言葉は、ある意味真実だった。
自然と口ごもるゆかりたちに、タカヤは更に言い募る。
「それよりも……貴方がたは気付くべきだ。自身が、影時間を知る前よりも、今の日々に一層の充実……楽しみを感じていることにね」
その言葉にいち早く反応したのは奏夜だった。何時もは表情を変えない彼の顔も僅かに歪んでいる。
「そんなことはない」
タカヤは可笑しそうに笑うだけだ。
奏夜たちを見ながら、ジンは吐き捨てるように言った。
「お前らには“個人”の目的しかあらへん。どいつも本音はその為に戦っとる」
ふたりは踵を返した。ゆっくりと奏夜たちから距離を離す。
「お前らの正義は、それを正当化する為の“言い訳”や。そんなんは“善”やない。ただの“偽善”や。そんなもんに邪魔されとうない」
ジンが侮蔑のこもった眼差しで奏夜たちを捉え、吐き捨てる。
鈍く、重たい音がした。
施設の入口が、隔壁が閉まっていく音であった。
「せいぜい、あがきや」
ジンの一言ともに、遂にその扉は閉ざされた。
真田や順平たちが開こうと試みるが、施錠された扉はびくともしない。
閉鎖された空間、今から待っているであろうシャドウとの戦闘。
否が応でも緊張は高まっていく。
しかし、の脳内は全く違うことで混乱していた。
「ジン、くん?」
夕方、笑顔で別れた彼だった。
またね、と自分が言った相手だった。
見知った人物が“敵”として目の前に現れたことを、は受け止めきれずにいた――。
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