8月21日、今日も今日とて暑い。まだ夏休みは続いている。
 宿題を無事に終えたは、ポートアイランド駅に来ていた。只今この駅にある映画館・スクリーンショットにて、映画祭りが開催中なのである。
 今日のテーマは“悲恋大特集”であった。入っていく客も男女の二人組が多く、ひとりでは何となく入りづらい。

「やっぱ帰ろうかな……」

 そう思い、が踵を返した時だった。

「え」

 ……変な人がいる。
 一言で表すなら、青い服のベルボーイ。銀髪に白い肌、眼差しは金色で、異様な出で立ちではあるが間違いなく美形の部類に入る。
 外国人観光客だろうか。それにしても目立っている。青い服が鮮やかだから、というより、この炎天下で上下長袖の服だということがかなりのインパクトだ。
 外国人はじっとスクリーンショットの看板を見上げながら立っていた。たまに困ったように視線を落としたり、何だか落ち着きが無い。
 もしかしたら何かあったのだろうか?
 お節介かとは思いつつも、は外国人へと近づいた。

「あのー、何か困り事ですか?」

 声に反応した外国人が顔を上げる。話し掛けてから気付いたが、日本語は通じないかもしれない。
 そう思い、冷や汗が滲みかけたの心配は、杞憂に終わることとなる。

「ご親切にありがとうございます。……実は、エイガマツリに来たは良いのですが、私は作法を知らないのです」

 流暢な日本語で外国人が話した。かなり日本語が達者なようだ。
 は内心ホッとしながら、外国人の質問に答える。

「作法……入り方かな? 良かったら教えますけど」
「本当ですか? お手数お掛けいたします」
「いえいえ」

 映画館の入り方を知らないなんて、一体どんな国から来たのだろうか。本当にただ入るだけだというのに。もしかしたら異国の貴族で、一般の常識を知らないのかもしれない……。
 などとが勝手に想像しているうちに、受付を過ぎ、二人は館内に入った。

「……あれ? 何で俺まで入ってんだろ?」
「そういえば、エイガを楽しむ際に必須のお菓子があると聞いております。どういったものなのでしょうか」
「お菓子? あ、ポップコーンのことですか? あっちに売ってたような」

 聡いは理解した。この外国人の話した“作法”とは、映画の見方やらなにやら全てを含めたもののことらしい。
 会ったばかりの人間と映画を見るという不思議なことこの上ない現状に戸惑っているのはだけのようだ。外国人は端正な顔にうっすら笑みを滲ませている。
 ぱっと見は冷静沈着、静かそうなのだが、中身は思ったより幼いのかもしれない。

(まあ悪い人じゃなさそうだし、良いかなー)

 そんなの見守る横で、外国人はポップコーンを購入し、どことなく得意げに佇んでいた。

「それでは参りましょうか」

 外国人がすっと片手を差し出してきた。もちろん意味が判らずは首を傾げる。
 外国人は、ああ、と何か思い当たった節があるように笑ってみせた。

「そういえば、うっかり失念しておりました」

 恭しく頭を下げ、外国人は話した。

「今まで名乗りもせず、大変失礼致しました。私はテオドアと申します。テオ、とお呼び下さい」
「あ、え? ああ、 です。どうも」
「なるほど、あなたが……。……それでは改めまして様。お手を」

 何となくテオドアの反応が気になりつつも、は理解した。
 これはいわゆるエスコート。傍目は女の子な自分のことを、彼はエスコートしてくれるようだ。
 見た目のみならず中身まで異様な気合いの入った人だなぁと思いつつ、面白い事が大好きな年頃であるは、テオドアの手に自分の手を重ねる。

(お嬢様みたいだぜ!!)

 周りの視線など、気にも止めなかった。
 滅多にお目にかかれないような超のつく美形と共に、はじっくりこの時間を楽しむことに決めた。

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