――射的勝負はの勝ちであった。が倒した的は3つ、対する真田が倒したのは2つ。的の大きさでは真田の方が勝っていたので、大きさで勝負していたらは負けていた。
接戦を制したは、優雅に笑っている。
真田はかなり悔しそうだ。
「くそっ……。次は金魚すくいだ」
「金魚飼う設備無いから却下」
「じゃあヨーヨー釣りはどうですか?」
「ナイスだ天田! それで行く」
先の射的で手に入れたガネーシャ貯金箱を抱えながら、真田が目を輝かせる。そしてそのまま、天田の提案によりヨーヨー釣りの屋台へと突き進む。人込みも何のその、な勢いである。
「ちょ、真田先輩慌て過ぎ!」
は当然のように天田の手を引いて、真田の後を追い掛ける。
天田も反射的にの手を握り返して慌てて足を動かす。
少年のもう片方の手では、が預けたままの巾着袋が揺れていた……。
◆◆◆
ヨーヨー釣りを終えた三人は、それぞれ異なる表情をしていた。
真田は落ち込んでいた。
は笑っていた。
そして天田は、その二人の間に挟まれ、ぎこちない笑みを浮かべていた。
は感心したように天田を見つめている。
「天田くんヨーヨー釣り上手いのなー」
「そ、そんな。さんだって釣れてたじゃないですかっ」
「1個だけね。天田くん3個もとってんじゃん。真田先輩はボウズだけど!」
「笑いすぎだ……」
「あはは、ごめんなさい」
悔しさに満ちた真田の呻きを、は笑って流す。
ヨーヨー釣りは何となしに参戦した天田が勝利し、その後に挑戦した輪投げは全員失敗に終わった。
そして今3人は、ようやくのんびり屋台を巡り、食べ歩きを行っているところである。
真田は「勝負」に勝てなかったのが相当悔しかったようで、いささか拗ねているように見えた。
妙なところでこの人は子供くさい。そして微笑ましい。
はひっそり笑いながら、屋台へと視線を戻す。そこにあったのはリンゴ飴の店であった。
「お、リンゴ飴ー! 天田くんリンゴ飴好き?」
「え、あ、はい」
「お姉さん、リンゴ飴3つくださいな!」
は素早くリンゴ飴を購入し、器用に3つの飴を両手で持ちながら二人に差し出した。
「ヨーヨー釣りの勝者と、いじける先輩にプレゼント」
「えっ?」
「別に俺はいじけてない!」
「じゃあそれで良いから、早く飴を受け取る!」
指が死にそうなんだよ、と話すに促され、真田はとりあえず飴を受け取った。
「……ありがとう」
「どう致しまして。さ、天田くんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「どう致しまして、天田くん」
は上機嫌であった。一行の中で祭りを一番に満喫しているのは間違いなく彼だろう。
腹の膨れ具合と戦利品の数からしても、このリンゴ飴が締めで丁度いいだろい。
3人は仲良くリンゴ飴を頬張りながら道を引き返した。人通りもだいぶ少なくなり、夏祭り自体も終わりへと向かっているように思えた。
……が、ふとが立ち止まる。
天田と真田が、不思議そうにを見た。
静かには口を開いた。
「……最後にコレやらして」
彼が指差したのは、くじ引きだった。
「運無いくせにこういうの好きなんだよね」
えへへと笑うに、真田と天田も笑い返す。
「やってみたら存外当たるかもしれないしな」
「僕見てますから、是非当ててみせてください」
「なんと、天田くんも言うねー……」
呟くの横を行き、真田がくじ引き一回分の代金を支払う。それからを見た。がきょとんとした顔で真田を見返す。
真田は笑った。
「リンゴ飴のお返しだ」
「えっ! 明らかにリンゴ飴のが安いんですが」
「良いから、ほら、引いてみろよ」
「ありがとうございますっ!」
は嬉々としてくじの中に手を突っ込むと、すぐに手を引き抜いた。ものすごく早い。五秒も掛からなかった。だがしっかりとくじを握っている。
からそのくじを受け取った店主は、「おお!」と目を丸めた。
「やったねお嬢ちゃん! 大当たりだよ!」
「おお!?」
「ほら、商品のクマのぬいぐるみだ!」
「おおお!!」
店主が差し出したぬいぐるみの大きさには目を丸めた。
受け取ったの姿が、ぬいぐるみの影にすっぽり隠れてしまいそうだ。
真田と天田も思わず声を上げる。
「僕ぐらいあるんじゃないですか、それ。いや、流石に僕のが大きいけど」
「まさか本当に当てるとはな」
「うひゃー、リンゴ飴食いきってて正解だったぁ! 食べ物食いながらじゃ持ってらんないわ!」
こういうところで運を使うせいで、は探索中にやたら不運を発揮しているんじゃないだろうな。
のはしゃぎように水を差さないようにと口にはしなかったものの、真田はそう思った。
「そいつは俺が持とう」
真田はそう言ってからクマのぬいぐるみを取った。
本当に大きい。埋もれそうなぐらいに大きい。真田は何度かぬいぐるみを抱え直すと、ゆっくり歩き始めた。
思わぬ真田の気遣いに、は恥ずかしそうに礼を言う。
「あ、ありがとう先輩」
「気にするな。浴衣じゃ大変だろ。代わりにこっちを頼む」
真田がに差し出したのは、射的で取ったガネーシャ貯金箱であった。
かなり個性的なデザインセンスのそれをまじまじと見つめながら、は真田に訊いた。
「……これ先輩どうすんの?」
「それもお前にやるよ。俺が持っててもどうしようもない」
何となくの運を使わせてしまった罪悪感めいたものを覚えながら、真田はクマのぬいぐるみと共に人込みを割っていく。ガネーシャ貯金箱をにプレゼントしたのも、少しでもが消費した運が戻るようにという、彼なりの思いだったのかもしれない。
「真田先輩太っ腹だね」
「ですね」
そんな真田を見ながら、と天田は呑気に笑っていた。
夏祭りで沢山の思い出を作った三人の絆が、何となく深まった気がする夜となった……。
ちなみに、が真田から引き受けたガネーシャ貯金箱は、から風花へとプレゼントされ、今では風花の部屋に滞在中である。
の頭に「風花ちゃんはガネーシャが好き」という役に立つのか判らない情報が刻まれたのであった。
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