「え? 昨日の放課後? 真田先輩と海牛行ってたけど?」
「けど? じゃねえよ……」

 が悪びれる様子もなく言ってのけたことに、俺はがっくり肩を落とした。

「お前な……。アキはお前が好きなんだぜ? 判ってんのか?」
「でも友達だし」
「友達付き合いなら良いけどよ……」

 のこの社交性には困ったもんだ。誰にでも同じぐれえの深い情を向けて関わるんだからな。

「あんまり仲良くし過ぎて、アキに期待させるだけさしといてフるような真似は止めろよ……?」
「何それ。俺、そんなつもりは……」

 は自覚がねえんだ。だからこんな言い方をするのも気は引けたが、言わないと判らねえからな。
 俺は心を鬼にした。

「じゃあ言うがな。手作りの弁当をホイホイ渡したり、通学から放課後まで一緒にいたりすんのは、友達にしちゃ行き過ぎじゃねぇか?」
「……そう、なのか」
「俺がアキの立場だったら、確実に期待するぜ」

 見るからに凹んだの頭にぽんと手を置いて、俺は続けた。

「お前にとってアキが“友達”なのは判る。けどな、アキにとってお前は“好きな奴”なんだ」
「うん……?」
「それから俺も……お前のことが好きな訳だ」
「う、うん……」

 の顔が徐々に赤くなっていく。
 俺まで赤くなりそうなのを必死に堪えて、囁いた。

「……妬けんだよ」

 は真っ赤な顔で俺を見上げてきた。口を半開いて、瞬きも忘れたみてぇに固まってる。

「ご、ごめんなさい」
「判ってくれりゃ良いんだ」
「本当にごめんなさい」

 向けられた情には、同じぐらいの情で返していく。
 それを悪い事だとは言わない。
 打てば響くの人柄は、長所であり短所であることも、受け止めてある。
 ……って、それっぽい理屈ばっか並べてみたが、本当はもっと単純な理由だ。
 好きになっちまったら、もう、関係無えんだよな。

「ちっとばかし考え足らずなとこも含めて、お前を好きになったんだ」
「は、恥ずかしいんですが」
「俺もだいぶ恥ずかしいってんだよ」

 呟く俺に、は小さく笑った。
 心なしか、距離が詰まる。

「ありがとう、荒垣さん」
……」
「もっと気をつける」

 だって、とは続けた。

「俺も、荒垣さんが好――」
「シンジー! いるかー!?」

 遮るようなタイミングで、アキの声が響いて来た。ばたばたと忙しない足音も一緒に近付いてくる。
 脱力したががくりとくずおれた。慌てて受け止める。拍子抜けしたは、笑いをこらえ、無言でぴくぴくと震えていた。

「……って、シンジ! ラウンジでとナニを……ッ!?」

 ご立腹らしいアキを見つめ、俺は盛大な溜息を吐いた。

「……本っ当に空気読めねぇ奴だよテメェは…」
「はっ?」

 ――嗚呼、コンチクショウが!

「折角珍しくが『好きだ』とか言ってくれようとしたってのに遮るんじゃねぇよ馬鹿野郎!」
「な、何だって!? 俺も言われたい!」
「バス停持ってくっからソコで待ってろや」
「ちょ、荒垣さん、真田先輩死んじゃう死んじゃう!」

 が腰にしがみついて抑えてきたので、俺は大人になって怒りを押さえ込んだ。

「……あのなぁ、アキ。悪ぃがは譲らねぇぞ? いい加減諦めろや」
「まだ数日しか経っていない。それに、天谷が言っていたぞ!」
「何をだよ」

 良い笑顔で、親指を立てた左手を突き出し、アキは高らかに言った。

「“略奪愛がある”!」
「ターゲット変更だ。天谷シメてくる」
「駄目だめダメ!!」

 再度ぎゅっとしがみついてくるの必死さと愛くるしさに、怒りやら何やらを押さえ込み、俺は深呼吸した。
 そして、アキに向き直る。

「略奪愛だぁ? アキ、寝言は寝て言えや」
「起きてるぞ」
「……大体な、無理繰りを持ってったって、を辛い目に遭わすだけだろ。略奪なんて気安く言うもんじゃねえよ」

 アキが眉を顰めた。

「俺だって判ってる。を悲しませたりしたくない。たとえ自分のそばにいてくれても、が幸せでなくては意味が無い」

 そういや、そうだった。
 鈍いアキでも、そういう本質は判ってんだったな。
 俺の方が馬鹿じゃねえか。
 ふっと、自然と笑みが……

「だから俺は俺のやり方で、を俺のものにしてみせる!」

 零れるとこだった。
 畜生、アキめ。
 どんだけしぶといんだよ!
 俺とが既にデキてんだよ!
 お前に渡してたまるかってんだよ!!

「はっ、無理だな」
「何ッ!?」
「お前がにどんなアプローチを仕掛けようとな、俺はその上を行くぜ?」
「ま、負けん!」

 アキは拳を握り締めながら食い下がってきた。

「そんなシンジより2倍はすごい愛情を、俺はに向けてみせよう!」
「じゃあ俺はお前の5倍はカテェな」
「ふんっ、ならシンジの8倍だ!」
「まだまだ。……10倍!」
「いーや俺は20倍だな!」
「そんなもんかよ、ハッ。30倍だ!」
「なんの、50倍!!」

 俺達が倍率合戦を繰り広げているうちに、はいつの間にかいなくなっていた。
 が戻って来たのは、俺達が息切れし始めた頃。
 コロちゃんを連れて逃げるように寮から出て行ったらしい、ととすれ違った山岸が話していた。

「荒垣さんと真田先輩の馬鹿!」

 帰ってくるなりが、真っ赤な顔で怒鳴ってきた。
 拍子抜けする俺達をよそに、はコロちゃんと戯れ始める。
 その日はそれきり、口さえ聞いて貰えなかった……。

(くそっ、アキのせいでにシカトされた……。とんだとばっちり喰ったぜ)
(シンジのせいで……。だがは何で口を聞いてくれないんだろうか)

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