「、おはよう」
「おはよ、真田先輩」
よし、シンジより早く起きてに挨拶したぞ!
昨日の一悶着のことなど忘れたかのように爽やかなの声に、内心複雑な俺。
若干投げやりだったとはいえ、一世一代の、告白だったんだが……。
もうシンジの言葉じゃないとには届かないのだろうか?
(諦めないからな!)
意気込む俺に、は不思議そうな顔で首を傾げた。
「ん? ……あ、今先輩の分の朝ご飯持って来ます。折角だし、一緒に食べましょう」
「ああ、ありがとう」
の言葉に甘える事にした。
どうしたことか、シンジは来ない。好都合だが……怪しい。
と向かい合う形で食卓につく。何だ、このドキドキは。まるで――新婚夫婦みたいじゃないか!
あまりにときめき過ぎて、折角の食事の味が判らないうちに食べ終えてしまった……。
◆◆◆
不謹慎な考えだとは思ってる。
だがシンジが自主休学であるということは、つまり、学校では俺がアタックする隙が存在するということだ。
二人並んでモノレールの座席に座り、駅へと下り、学校へと向かう。
「真田先輩のファンが見てたら大変ですねぇ」
「むしろ見せつけて行ってやる」
「え? 何てチャレンジャー……」
が苦笑した。
安心しろ、俺がしっかり守るからな! ファンとやらに邪魔はさせない。
俺はの手を握った。が目を丸めて俺を見る。
「ちゃんと教室まで送る」
「良いですよ、そんなの……」
「出来る限り一緒にいたいんだ」
はほんのり頬を染め、しかし、誤魔化すように笑った。
「こ、困りますよ。だって俺は……」
「シンジとどうなっていようと、俺はお前が好きだ」
の声を遮り、俺はしっかりとした口調で話した。
「俺は諦めないからな。絶対、振り向かせてみせる」
きゅっとの手を握り直す。は終始赤い顔で、困ったように視線を泳がせていた。
宣言どおりにを教室まで送り届け、自分も教室に向かう。
昼休みと放課後も、に会いに行こう……。
自然と頬が緩んでいた。
「!」
昼休み。2‐Eの教室に行くと、周りから一気に視線を浴びてしまった。と話していたらしい山岸も目を丸めている。
俺はずんずんとに歩み寄り、言った。
「昼、一緒に食べないか?」
「良いですよ」
「やった!」
は快諾してくれた。周りの視線など気にしていないようだ。暢気に山岸を振り返って小首を傾げている。
「風花ちゃんもどう?」
「あ、私は夏紀ちゃんと食べるから……。その、真田先輩と二人でどうぞ!」
「? うん」
グッジョブ山岸!
山岸の気遣いに甘え、俺はを連れて屋上に向かった。
並んで椅子に腰を下ろす。
「……真田先輩、昼飯それ?」
「ああ」
は顔をしかめた。
俺の昼飯は購買のパンである。
至近距離で見るのしかめっ面は、なかなか新鮮だ。
「ボクサーって体重調整したり大変じゃないの?」
「ま、まあ……そのあたりはどうにかしてる」
「は? 主将がそれじゃ駄目だろ!」
は叫びながら俺からパンを取り上げた。
「確保ー! あんたはこっちを食えぇ!」
「なっ!?」
代わりに差し出されたそれは、紛れも無くの弁当。手作りの――弁当だ。
今までにない緊張とドキドキが俺を襲う。
良いのか。本当に?
俺が食べても、……良いのか?
「んぐ。カツサンドうまー」
はパンを食べ始めている。なら、これは……俺が食べて良いんだ!
感動しつつ弁当を開く。野菜の彩りが豊かなヘルシーメニューの数々が俺を見上げている。
喜々として頬張る。……無論、美味しい!
「やべっ、カツサンドはまりそー……弁当よか良いなコレ」
「何処がだ!? 、この弁当旨すぎるぞ! 何だこの野菜炒めは、旨すぎだぞっ! んぐっ、お前は魔法使いか?」
「お、大袈裟な……」
はもごもご恥ずかしそうに呟いた。
大袈裟なものか。本当に旨いぞ。なんだこれ……、これが手作りの愛情なのか……。
「夕飯の残りと、有り合わせのもんでこしらえたんですけど……喜んで貰えて良かった」
「ん、本当に嬉しいよ」
「荒垣さんも“アキの食事は栄養が偏り過ぎだ”って心配してたからね」
俺はぴたりと箸を止めた。
此処でか。此処でシンジが出て来るのか…ッ!!
凄く好調だと思っていたが、俺は甘かったようだ。
すんなりとが俺について来たのも、の中でシンジが絶対的な存在で、揺らがないものだからなのかも知れない。
つまり俺は……『友達』という圧倒的に不利な枠にまとめられているのだ。
(手強いな……)
だが、友達だからこそのこの無防備。決して逆転できないと決まった訳では無い筈だ!
発想の転換に成功した俺は、食事を再開した。
今はこれからのシンジとの戦いに備えて、エネルギーを充電しておこう。
の笑顔と、美味しい手作り弁当の味を噛み締めつつ、俺は有意義な昼休みを過ごした。
「帰りは海牛に寄らないか? 弁当の礼だ、おごらせてくれ」
「やった、お言葉に甘えます!」
……勿論、放課後の約束も取り付けて。
俺は――諦めないからな!
prev
Top
next