は、よくひとりで散歩に出ていた。
最初はノウェたちに色々と心配されたが――中でも旅を急ぐマナは快く思う訳もなかった――、レグナの口添えもあり、容認されていた。万一一行が先に出立しようとは竜だ。直ぐに追い付ける。何より自身、足を引っ張らない範囲の行動は心得ている。
――まず、人間と同じ尺で計るのが間違いなんですから。
は、ひとりの時間が好きだった。心を許せる存在を失ってからは、ひとり過ごすこの時間が唯一の安らぎであった。
はよく花畑に行った。花を見るのは好きだった。特に赤い花が好きだった。言葉を持たない生き物といるのは、楽だから。それに綺麗で、見ていて飽きない。だから、は花が好きだった。
ひとりでひっそり、忍ぶように繰り返していた散歩。――だったのに。
「花が好きだなんて、可愛いところもあるんだな」
からかうような台詞に、は不機嫌を隠さずそっぽを向いて答えた。
「ユーリックさんこそ、人の憩いの一時に水をさすなんて素晴らしい趣味をお持ちですよね」
困ったような笑い声が聞こえて、はますます機嫌を損ねる。自身、何故こんなに不機嫌になる必要があるのか判らなかった。そして失礼な態度を取る自分を窘めることがないユーリックの考えが判らず、ますます混乱していく。幾ら辛辣に当たろうと彼は揺らがなかったのだ。
そんな一風変わった関係の散歩が始まり、回数も重なって。
いつの間にか二人で散歩することは「自然」になってしまっていた。
「信じられない……」
は呟きながら葉を千切った。いつものように花畑に来て、久しぶりに冷静になった頭で考え込みながら、また葉を千切る。
「どうしたんだろう、僕……」
ちなみに今日もついてきたユーリックは、「向こうに行ってみる」と言い残して一時間ほど戻らない。いい加減帰ろうとも思ったが何時なにが起きるか定かではない現状だ、置いていく訳には行かなかった。
それに大抵、こうやって考えている時に帰ってくるものなのだ。……と思っていたら本当に戻ってきたらしく、気付けば足音はすぐ近くにあった。
「」
俯いていたを呼ぶユーリックの声。なんてタイミングだろう、と顔を上げた瞬間、は固まった。
「――何事ですか、それ」
ユーリックは、大量の花々を抱えて立っていた。そのまま、唖然とするの前に屈んで、子供のように笑った。
「凄いだろ?」
「凄い、ですけど」
が返すと、ユーリックは「ほら」と花をに押しつけた。慌てては花を抱えたものの、持ち切れない花ははらはらと周りに落ちてしまう。白、黄、赤。様々な色の花がの細い腕の中で、ひしめきあっているかのようだ。
「あの、これって、一体」
「俺の気持ちだ。……っていうのは駄目かい?」
は更に戸惑った。予想だにしない返答だった。
どういう意味だろう?
僕は、どうしたらいい?
気持ちって、何?
ぐるぐる頭の中を駆け巡る混乱は、の口を閉ざしてしまう。
それを見たユーリックが、苦笑いを浮かべてみせた。
「参ったね、そんなに困らせることになるとは思わなかったんだが」
「あ、あの、よく、判らなくて」
は訳も判らず、憎まれ口を叩くことすら忘れ、ただ受け取った花はしっかり抱き締めていた。花が言葉を持っていたなら、苦しいと叫んでいることだろう。
「ごめんなさい、僕どうしたら……」
花に顔をうずめるようにして、はユーリックから視線を逸した。胸の奥があたたかいような、くすぐったいような感覚に、じっと耐える。
「判らないなら、今はそれでも構わないさ」
そっと髪を撫でる大きな手も、諭すような声も、ひどく優しい。
「だが……判ってくれるまで、気長に待たせてもらうからな」
は顔が赤くなるのを感じた。なんとかこの情けない顔が、花たちで上手に隠れていることを祈る。
(変、だ)
――嬉しい、なんて。
(そんなこと、どうして)
悩むの気持ちを知ってか知らずか、ユーリックは「いい加減戻るか」との手を引く。
少しずつ腕の中から零れ落ちていく花を、は“勿体ないな”とぼんやり見つめていたのだった。
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