月夜に響いた慟哭。火に呑まれ絶叫する同胞たち。赤い。抉られた眼。引き抜かれる牙。鱗を削がれた皮膚から赤い血が噴き出して。血が。血が。血が。血が。血が。止まらない。とめどなく溢れて。血。血。血。叫びは続く。血。赤い。赤い。生きたままに皮を眼を牙を羽をもぎ取られて行く。止めて。止めて。止めて。止めて。止めて。止めて。赤い。痛い。僕等が何をしたって言うんだ。赤い。僕等は静かに暮らしていたのに。人間は何時もそうだ。人間は“輪”を乱す。お前等がいなければ僕等はこんな目に遭わなかったのに。僕はこんな思いしなかったのに。僕は。僕は。僕は。僕は。僕は。赤い。赤い。赤。赤が。ずっと。全部。僕は。
にんげん、なんて。
「いや、だ」
震えて呟く小さな竜に、レグナは鼻で笑ってみせた。
「嫌と言う割に、貴様は人間の面倒事に首を突っ込むのが好きでは無いか」
「……貴方だって」
「儂の目的は人間と戯れることに無い。段階のひとつに過ぎぬ」
黙るの頭にレグナが顎をのせた。何か言いたげには瞬きしたが、結局されるがままになっている。
「僕だって、仲良しごっこがしたいわけじゃない」
「母とやらの為か」
「知ってるなら意地悪しないで下さいよ」
は不貞腐れた声で返し、そっと瞳を閉じた。
そう。僕は母様の為に生きるんだから。いつか母様が自由になりますようにと、少しずつ静かに咎を重ねていくんだ。
過ぎた時間も。
これから迎える時間も。
全部、ぜんぶ。
大好きな母様の為に。
『』
だいすきな、母様のために。
捧げるのに。
ささげたいのに。
「……レグナ様、僕の名前を呼んで下さいますか」
「」
「もっと、もっと」
今しがた思いを馳せ、が求めたはずの呼び声は、何故か愛する母でもなければ失った仲間のものでもなかった。
『凄いだろ?』
の中で笑ったのは、嫌いなはずの人間。響いたのも、人間の声。子供みたいに笑って、いっぱいの花を僕に押しつけた人間の。
はそれを掻き消すように、レグナに懇願した。
「名前、呼んで下さい」
レグナは頷き、何度もの名を呼んだ。
意味のないやり取りだと気付きながらも、幼く愚かな同胞の願いを無下には出来なかった。
「、情は捨てろ。それは熟れた果実と同じだ。すぐに腐る上、そのまま溜め込めば己に害を為す」
レグナ自身がに向けているものもまた情であった。それを判った上の、矛盾した言葉だった。
「情なんて、ありません」
拗ねた子供のように、はそう返した。
レグナはまた笑った。そして、ようやくから頭を退ける。
「何にせよ、深入りはしないにこしたことはない。程々にしておけ」
「仮にもノウェの父である貴方が言いますか」
「軽石頭に惚れ込んでおるお前が言えた義理ではあるまい」
「っ、レグナ様!」
声を荒げて羽をばたつかせたを、レグナは尾で一打ちする。すぐには黙り込んだ。瞬く間に大人しくなったを、レグナは“可愛いものだ”と笑って言った。
――だか、よりにもよって奴とはな。全く見る目の無い子供だ。
咎を重ねると誓った故に、己で己の首を絞めることになるであろうを、彼は心から哀れんでいた。
(過去も未来も、全てを人間によって苦しめられて終わるのだろう)
幼い竜は、無自覚でそれを望んでいることに何の疑問も持たない。
「滑稽だな」
レグナの呟きに、は遂に答えなくなった。
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