起きるのだるい。
 悪いとは思いながらも、ソファーを独占して俺は眠っていた。
 あてがわれた部屋まで向かう気力が無かったのだ。みんな出掛けているので、しばらく大丈夫なはず。
 体は寝ているのだが、意識はなかなか眠りに落ちない。瞼を閉じてからだいぶ経った。
 妙な気分だ。疲れてるはずなのになぁ……。

「ただいま」

 あ、誰か帰ってきた。
 この声は遊星だ。
 ジャックやクロウはともかく、遊星なら怒らないよな。俺は眠り続ける。少し意識がふわふわしてきた。もうすぐ本当に眠れそうだ。

……? こんな所で寝たら風邪を引くぞ」

 遊星の声が、すぐそばでする。
 仰向けに眠る俺の頭を撫でながら、「起きないか……」と困ったように呟いて、遊星が離れていくのを感じた。
 少しして、人の気配がした。体にふわりとした何かが掛けられる。多分、遊星が気を遣ってブランケットでも持ってきてくれたんだろう。ありがたやありがたや。

「……疲れてるんだな」

 また遊星の声。頬に何か触れた気がした。……手、だな。遊星が俺の頬を撫でている……? 不思議な状況だ。

「お疲れ様、

 遊星の手が、俺の額に触れる。優しく前髪をかき分けられて、くすぐったい。思わず身じろぎかけた俺の額に、何か柔らかいものが押し当てられる。……この感触って……まさか。

(ちゅ、ちゅーされた……)

 俺は焦った。何で、どうして!? そういやぁ今は懐かしい彼女も、俺が寝てるときにちゅーすんの好きだとか言ってたなぁ。別れてだいぶ経つけどどうしてるか……いや違う、そうじゃない! 思い出に耽る場合と違う! どうしたらいい。どうしたらいいんだ?
 とりあえず今ここで跳ね起きたら絶対気まずい。気合いで動揺をねじ伏せて、さもぐっすり眠っていますという様を演じるしか俺には無かった。
 髪を撫でる遊星の手がやたら気持ちいい。
 ああ、遊星。早く何処かに行ってくれ! そうでなきゃさっさと眠れ俺!
 なんでキスなんかしたんだ遊星。この世界では、眠る友人を労るためにキスを送るものなのか?
 頭を撫でられながら悶々とする俺に、思わぬ形で救いの手は差し伸べられた。

「ただいまー」
「ああ、ブルーノか。おかえり」

 他の住人の帰宅だ。流石に俺を撫でるのを止めて、遊星はブルーノに応じていた。

「あれ? ったらこんな所で寝てる」
「起こすのも可哀想でな」
「確かにね」

 今度は遊星とブルーノが二人して俺の観察を始めたようだ。俺は動物園のパンダじゃないんだぞ!
 不意にまた髪を撫でられる。さっきの手より大きい。ブルーノの手なんだろう。

「思ってたより、柔らかい髪なんだね。気持ちいい」

 声音に笑みが滲んでいて、恥ずかしさに赤くなりそうだった。それも頑張って耐える俺の健気さはすばらしい。

「ブルーノ。が起きてしまう」
「あ、そうだね。ごめん」

 いやさっき散々撫で回してくれた遊星が言えた義理じゃないぞ、それは……!

「そうだ、遊星。Dホイールのプログラムの改良についてなんだけど」
「判った。あっちで聞こう」

 ようやく二人が部屋を出て行った。Dホイールの話となればしばらく来ないはず。俺はゆっくり体を起こした。
 なんだか、どっと疲れた。
 のろのろとブランケットを畳み、戻し場所が判らないのでソファーに置いておく。
 俺は自室に引き上げることにした。
 額や髪には散々触れられた感触がまだ残っている気がして、今度は抑えることもなく、ひとり赤面した俺だった。


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