眠れない。
瞼を閉じ、無心になろうとしても、色々とぐるぐるしてなかなか頭は眠ってくれない。
(すまん皆。今日は俺このままベッドから動かないぜ……)
寝返りを打っても状況は変わらない。やっぱり仰向けが一番いい気がする。
あ、ちょっと良い感じに眠気が来たような。この調子……と思ったその時、部屋の扉が勢い良く開け放たれたのだった。
「まだ寝ているのか、」
やっぱりジャックかよ!
何回言ってもドアを静かに開けてくれた試しがない。けれど声量は何時もより控え目だった。
遊星あたりから、「疲れてるようだ」とか聞かされたのかもしれない。
歩み寄る足音にも気遣いが込められているような気がして、俺は慌てて笑いをこらえて眠り続ける。
「夕食の時間だぞ、起きんか」
肩をぽんぽんと叩いて、ジャックは俺に起床を促す。けれど俺は今日はもう起きないと誓ったばかりだ。まず眠たすぎてお腹も鳴りゃあしない。
それにしてもジャックの優しいこと。こないだ寝ながら飯食ってたブルーノを殴って起こした人と同一人物だとは思えないくらいだ。
「ニヤニヤしながら眠りこけおって……このオレが直々に起こしに来てやったというのに」
痺れを切らしたジャックの呟きさえ微笑ましく感じてきた。いい加減諦めて戻るかな。仮に殴り起こされても、俺が諦めて飯を食いに行けばいいだけだし。
しかしジャックの行動は、どちらでもなかった。
さわさわと、髪を撫でられた。
何だ。何か今日はやたらと頭撫でられる日だな。
「柔らかいな」
何なんだ。俺はそんな剛毛に見えるのか? 血筋的に髪質は良い方だと自負してるぞ。癖っ毛ではあるけどお前らほどじゃない。
胸中で色々反論しながら、ひたすら眠りのために瞼を閉じる俺。
頭を撫でる手が止まった。代わりに、何故かベッドが軋んだ。
え? 何事?
思わず目を開いた俺の目の前には、何故かジャックの顔。誰が見てもカッコいいと言うであろう端正な顔が、視界いっぱいにある。
ジャックは、俺に覆い被さるようにベッドに両手をついて、俺を見下ろしていた。
理解に苦しみ固まる俺を見て、ジャックは不敵な笑みを浮かべた。
「オレに狸寝入りが通じると思ったか」
「いや、あの」
「ニヤニヤ笑いを堪えるぐらいならばさっさと起きれば良かろう」
「てか、近っ――」
俺の言葉は中断された。
何が起きてるのかよくわからない。
何で俺は、口を塞がれたのでしょうか。
しかも俺の口を塞いだのは、ジャックの口なんですが、どういうことなんでしょうか。
数時間前の出来事でだいぶ消耗していた俺の頭はショートしそうだった。
呼吸の仕方も忘れてしまいそうで、唇が微かに離れた時に慌てて息を吸い込む。いつの間にやら両肩を抑えつけられていて、悲しいぐらい平均男児な俺には、抵抗する術が無かった。
「ちょっ、ジャッ、んっ」
唇が離れたと思ったらまたくっつく。半開きになってしまった口は更なる災難を招いた。
ぬるりとした、けれど熱いものが俺の口の中に入り込んでくる。
どうしてこうなった!
ジャックの舌は戸惑う俺を嘲笑うように動き回り、口内を、歯列をなぞる。
本能的に俺が引っ込めた舌さえさらっていく。
ぎしりと軋むベッドの音。ようやく鼻で呼吸することを思い出した。たまに吐き出す息はビックリするほど熱い。
唾液もいつもより粘ついてるような気がする。何回も何回も舌を絡め取られて、唾液が口の端から垂れていった。
唾を飲み込めないってなんだか気持ち悪い。にしても熱い。体じゅうが火照っているみたいだ。頭が眠気とは違う何かでぼおっとしてくる。
視界が涙で霞んで、訳が判らなくなっていく。
ジャックに翻弄されるがままで、俺から抵抗の気力は失われて。
キスに上手下手があるって聞いてはいたけど、まさかこんな形で体験するとは思わなかった。とりあえずジャックは限りなく上手い方に違いない。
息苦しさのせいであってほしい鼓動の激しさと酸欠に、もう限界だった。
それを見計らったかのように、ジャックが唇を離す。離れる最後まで舌を撫でられ、垂れた唾液も舐め取られる。
思わずびくりと震えた俺を、ジャックは大層満足そうに見下ろしていた。
「手間をかけさせた罰だと思え」
意味が分かんないぞ。
返そうにも息が上がってそれどころじゃない。
ジャックは笑って踵を返す。
「あいつらには“今日はもう起きそうにない”と伝えておこう。――良い顔だったぞ、」
嵐は去った。
はぁはぁと未だ整わない呼吸を繰り返しながら、目を閉じる。
なんかもう、考えたくない。というか、考えても答えが出ない。出したくない。
全てを無に帰し、俺はとにかく眠ることにした。
起きたら「全部夢でした」って誰かが言ってくれたらいいのに。
しかし、夢だったらそれはそれで問題であることに、今は触れないでおこう。
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