「おい、ものすげー顔色だぞ」
はびくりと肩を震わせた。ゆるゆるとオレを見つめた瞳は涙で滲んでる。真一文字に結んだ唇は、涙を堪えようとしてのことであるのがすぐに判った。
「クロウー!」
がしっと飛びつかれ、慌ててを受け止める。オレより少し背が高いだけで、ひょろいを受けるなんて朝飯前だ。
オレにすがりついたままぐするの背中をさすってやりながら、オレは静かに尋ねた。
「どーしたんだよ?」
「お願いがあるんだよ、クロウー……」
「何だ?」
堪えきれない涙をぽろりと零しながら、は言った。
「ずっと俺の傍にいて!」
は!?
いきなり何言ってんだコイツは!
涙目で、そんな、告白じみた台詞を恥ずかしげもなくどうして言える!?
火がついたみたいに体が熱くなったが努めて冷静を装う。
こんな発言をしてしまうほどには追い詰められてんじゃねーのか? けど、どういう追い詰められ方をすればこうなるんだ……。
「まあ落ち着けって。いきなりんなこと言われてもどうしたら良いかわかんねえから」
はこくりと頷き、話し始めた。
「最近、眠りたくても眠れないんだよー……邪魔ばっか入るんだ……。何があったかはとても言えないけどお陰で寝不足なんだ。頼むから、一寝する間そばにいてくんないかな?」
とりあえずは納得した。
の睡眠を妨げるものから守り抜けば良いらしい。
「判った。そんくらいなら良いぜ」
「ありがとうクロウ!」
「だからとりあえず離れろな?」
「うん」
くっつかれるのは構わねえけど、歩くには不便だからな。
素直なはオレから離れると、ご機嫌そうに鼻歌をうたいながらソファーに寝転がった。
「部屋じゃなくて良いのかよ?」
「一眠りしたいだけで、明日まで爆睡するわけじゃないからね」
ほら座るー、とがソファーを叩いてオレに促してくる。
はいはいと頷いてオレがソファーに腰を下ろすと、なんとはオレの膝の上に頭を乗っけてきた。
真下にあるの瞳はすでに眠たそうで、ぼんやりした眼差しが妙な色気を放っていた。
「おい、……」
「だってソファー狭いべ? 少しでもコンパクトにー……」
「判った判った、眠たいんだろ? ほら寝ろ」
頭を撫でてやると、やっぱり素直なは頷いて目を閉じる。
……そう時間が経たないうちに、は規則正しい寝息を立て始めた。どんだけ眠かったんだ。
とりあえず、が目を覚ますまで一緒にいてやんなきゃならねえ。別に嫌じゃないが、オレじゃなくても遊星とかなら引き受けてくれたんじゃなかろうか。
というかは遊星をよく頼りにするから、真っ先に遊星に頼みそうなもんだ。
(まさか遊星がの安眠を邪魔したとか……。いや、そんな奴じゃねーよな遊星は)
あどけないの寝顔を見たら、誰も邪魔する気なんて起きねえはずだ。
オレはつい頬が緩んだのに気づいた。
「、いるか?」
自分たち以外の人間の登場にオレは何故か慌てた。顔を上げると、デッキを持った遊星がこちらを見ている。オレとの状況に、うっすら目を見開いていた。
「悪ぃな遊星。はしばらく起きねーと思うぜ」
「どういうことだ?」
「寝不足が続いてるから、誰からも睡眠を妨害されないように見張っててくれ、って頼まれたんだよ」
何となく棘のある遊星の視線。
そうか、と呟きながらも、あまり納得していないのは目に見えていた。
「何かに用だったのか?」
「ああ、この前、デュエルを覚えたいと言っていたから……。用意してきたんだが」
「そっか。……何時起きるかな、コイツ」
無防備な寝顔をオレの膝の上で晒し続けるの眠りは深そうだ。
「……何故俺のところに来なかったんだろう」
「オレも同じこと考えたぜ。大概遊星頼みなのによ。何かしたか、遊星?」
遊星は目を丸めた。
しばらく沈黙してから、静かに首を振る。
……まあ良いか。
遊星はオレたちの正面に腰を下ろした。まるで見張るかのような視線がさすがに痛い。
「あんま見てっと、が起きちまうぜ?」
「だが、気になる」
頑固な遊星は何言ったって聞かねえだろう。オレは気にしないことにした。
また足音が近づいてくる。今度は誰だと思って顔を上げたのと同時に部屋に入ってきたのは、ジャックだった。
「おかえり、ジャック」
「うむ、……む!? クロウ……!!」
ジャックはオレの状況を見るなり眉をつり上げた。何でお前までそういう反応なんだよ! けど眠るを気遣っているのか、声を荒げはしない。
「なにやら安眠のために、はクロウを指名したそうだ」
「何故クロウなのだ」
「頼られなくなるようなことを、お前らがしたんじゃねーのか?」
遊星とジャックが黙った。
お前ら妖しすぎるぞ。が寝てる手前、今は追求しねえで置くけどよ。絶対何かしたろ、お前ら。
こないだふらりと消えたと思ったらポッポタイムの前で倒れてたのも、疲れが祟ってのことだったかもしれない。あの時はとにかく心配で頭ごなしに怒っちまったけど、オレ、間違ってたな。
が起きたら謝ろう。
「……クロウ、貴様、見過ぎだ」
「え?」
「の寝顔を」
「あ」
いけねえ。あんまり見てたら起こしちまうな。
それにしても……ジャックと遊星の視線がいい加減煩わしくなってきた。
「お前ら、とりあえず睨むの止めろよ」
「だが」
「睨まずにおれるか」
「まずはの信頼を無くした自分に怒れよな」
テキトーなオレの台詞に、二人はまた黙った。
本当に何したんだよお前ら。
三時間ぐらいでは跳ね起きた。顔色もまずまずで、起きるなり「ありがとうクロウ!」と全開の笑顔を見せた。
とりあえず安心だぜ。
それからは遊星とジャックにデュエルのレクチャーを受けてたんだが、何だか遊星とジャックが喧嘩を始めて、結局ブルーノのとこに逃げ込んでいた。
……結局、遊星とジャックがに何をしたのかは判らずじまい。けどまぁがもう気にしてねえみたいだから、それ以上首を突っ込むのは止めておいた。
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