眠たいときに限っていきなりバイトが伸びたり、きっついぜ!
 内心ぐちりながらも、俺はお金のためにもせっせと働く。ふらついて踏ん張ったら足を思い切りひねった。ムチャクチャ痛かったが、辛いのに働いてるのはみんな同じだ。自分にそう言い聞かせた。しかし眠い。痛いもんは痛い。
 またクロウにそばにいて貰って寝ようかなー。いや迷惑だよな……。
 仕事に集中してなんとかバイトを乗り切ると、ようやく俺は帰路についた。

「あ、おかえり」
「遅かったなー
「うんー、いきなし休みの人が出て。ちょい残ってたんだー……」
「大変だったな」

 みんなに迎えられ、とりあえずなんとか答える。
 テーブルにつき、クロウが持ってきてくれた少し遅めの夕飯をつつきながら俺は時計をみた。もう9時だ。
 眠たいながら食欲はあったので、あっという間に平らげる。おいしいチャーハンだった。

「ごちそーさまっ」

 しっかり挨拶してから、空いた食器を手に台所へ向かう。洗った食器を拭いて棚に戻し、その時にはちょっと意識がふわふわし始めていた。
 足が痛い。おぼつかない。まずいまずい。
 こける前に急いで部屋に引き返す。帽子と上着を脱ぎ捨て、ベッドに倒れ込んだ。
 柔らかな布団に包まれ、ついうっとりした。今なら布団と結婚してもいい! というか、させてくれ!
 眠さでネジが飛びかけた頭に、コンコンと何かの音が響く。
 はっと我に返った俺は、それがノックの音であることにすぐ気づいた。

「はいー? どーぞー?」

 首だけ扉に向けてそう返すと、ゆっくり扉が開き、ひょこっと人影が覗いた。

「ごめん、僕だけど」

 ブルーノだ。どうしたんだろう。
 体を起こしてブルーノを見た。ブルーノはおずおずと部屋に入ってきた。

「なんだか、、すぐに部屋に戻っちゃったから。具合でも悪いのかと思って……大丈夫?」
「あー……眠たかっただけだよ? なんか悪いな、変に心配かけて」
「いや、僕こそごめん。眠たいのに邪魔しちゃったね。……あと……」

 ブルーノは俺の足を見た。

「右足、庇ってなかった?」
「えっ」
「痛めたんじゃないかと思って…包帯とか持ってきたんだけれど」
「あー……、うん」

 ブルーノは鋭いなあ。眠たさで鈍った頭でも判る程度に、俺は足が痛かったのだ。
 うやむやに頷く俺に苦笑して、ブルーノはこっちに歩み寄ってくる。

「足、見せて」

 俺はベッドの縁に腰掛けて、とりあえずズボンの裾をまくった。足首をじっと見つめる。
 なんか腫れてるような、腫れてないような。よく判らなくて唸っていたら、ブルーノの手のひらがそっと足首に触れた。ひんやりして気持ちいい。
 ……そういやプラシドの手も……いや、何でもない。
 俺の足首を触りながら、ブルーノが呟く。

「ちょっと熱いね」
「結構捻ったからかな……」
「本当は冷やした方いいんだけど……」
「寝るには邪魔くさそうだなぁ」
「だね。でも湿布持ってきたから、大丈夫だよ」

 穏やかに微笑んで、ブルーノは淡々と手当てを始めた。
 冷えた湿布が足首にぴったり貼られ、包帯で固定されていく。手際の良さに内心びっくりした。

「これでよし。きつくない?」
「おぉバッチリ、ありがとう!」

 全霊のお礼を述べる。眠たさがもうやばい。眠気に抗い、まばたきをしまくる俺を見て、ブルーノはまた笑った。

「本当に眠たいんだね。ゆっくり寝たらいいよ」
「うん……」

 申し訳ないと思いつつ、俺は布団に潜り込んだ。
 ……ブルーノが立ち去る様子はない。もう用事は済んだんじゃないかと思われるんだが。

「ブルーノ……?」

 戻らんの? という気持ちを込めつつブルーノを見上げる。そうしたらブルーノは、頬をかきながら、ぽつりと零した。

「……が寝るまで、いてもいいかな?」
「んぁー、構わんけど……」

 眠たくて、俺はテキトーに返すなり、瞳を閉じた。
 椅子を引っ張ってきて俺の横に座ったブルーノに、そのまま「おやすみ」と声をかける。
 ブルーノが返してくれた「おやすみなさい」の声は、何だかすごく心地いい低さだった。

 ――それにしても、お前らは本当に人の頭撫でんの好きだな。

 意識を手放す直前に感じた感触に密かなつっこみを入れながら、夢の世界へと旅立った俺であった。

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