たくさん、寝ました!
心なしか意識がはっきりとしている。超気持ちいい。
これも、龍亞と龍可とアキのお陰だ。今度ケーキでも買ってこよう。
俺はベッドから抜け出して、テキパキと身支度を整えた。顔を洗うとますますさっぱりした。
どうやら今日一番の早起きは俺のようだ。
折角だし朝ご飯を作ろう!
そろそろっとキッチンに向かう。
冷蔵庫を開けると、何やらメモ書きの付いた皿があった。
“のぶん!”と書いてある。ラップ越しに見える皿の中身はカレーのようだ。
よし、俺の朝ご飯はこれで決定!
とりあえずボキャブラリーの少ない俺は、他のメンツのために味噌汁と卵焼きをこさえることにした。
仮にジャックあたりが文句をつけてきたとしたら、バイト先で身につけた美味しいコーヒーを淹れるスキルを披露し黙らせる!
さほど時間が掛からずに支度は終わった。
足音がする。ちょうど、みんなが起き出してきたみたいだ。
「お? ?」
「はよークロウ!」
「ああ、おはよーさん。調子は良さそうだな」
クロウに笑って頷いて返す。クロウに続いて遊星、ジャック、ブルーノもやってきた。
みんな俺を気遣ってくれたようで、ピンピンしてる俺を見て安心していた。
なんか申し訳ないな。よっぽどグダグダだったんだな俺。
とりあえずみんなで食卓を囲んだ。よくよく考えたらこういうの初めてかもしれない。
によによと笑いながらカレーを食べる俺を、隣に座るジャックはかなり不思議そうに見つめていた。ちなみにカレーはすごく美味しかった。
みんなが食べ終わると、俺は早速洗い物に取り掛かった。
料理を作るのに比べたら洗い物なんて超楽チンだ。鼻歌まじりにスポンジを持った俺の耳に、不意に聞き慣れない言葉が響く。
「オレも手伝おう」
言葉自体は普通だが、一番の違和感はその言葉を発した人物がジャックだということである。
クロウが手伝ってくれたりするのはよくある。が、今日は既に彼は仕事に出ていた。遊星とブルーノは新しいプログラムの話か何かでガレージに行った。
つまりジャックと俺しかこの場にいない訳で。やっぱりジャックの発言だった訳だ。
ジャックが自ら手伝いを買って出るなんて、珍しすぎる。いつもならコーヒー飲みに行ってるだろうに。
しかし有り難い申し出には変わりないので、手伝ってもらうことにした。
「じゃあ、洗い終わった皿、拭いてってくれる?」
「うむ」
ちょっとぎこちない手付きだけど、しっかりこなしていく様はなんだか微笑ましい。やたら真剣な顔だった。
「もう本当に大丈夫なのか」
「あ? ……あ! 大丈夫だって、超寝不足だっただけみたいだし。ピンピンしてるよ」
「そうか」
ジャックは皿から視線を離さずに頷いていた。
「昨日、十六夜たちに言及されたのだ」
「へ?」
「が寝不足になったのはオレのせいではないのか、と」
「なんで?」
「十六夜曰わく、お前が“遊星たちはともかくジャックがいると緊張する”と話していたらしいが」
そんなこと、言ったような。んで、そんなこと言ってしまった理由は……いつぞやの寝込みを襲われかけたアレである。
俺の顔は火がついたみたいに熱くなった。
「じゃ、ジャックのせいで寝不足だった訳じゃないけど! ジャックが変なことすっから、しばらく警戒しちゃっただけだよ!」
「変な――っ、貴様! まさかオレのキスを変だと言っているのか!?」
「ぎゃああ言うなよ忘れようとしてたのに! あと少しで忘却できたのに!」
「貴様が失礼なことを言うからであろう!」
「あああ怒んなよ皿割れるわ! よし、謝るから! ごめん! まずは洗い物済ましてしまおうぜ!」
奇跡的にジャックを従わせることに成功した。すごい不満げだったけど。
俺はとにかく平常心を保つようにして、そして、洗い物は終わった。
バイトまで少し時間がある。
とりあえずソファーに座った俺たち。気まずい。
「」
悩んでいたら、ジャックが口を開いた。やたら真剣な声で、思わず体が強張る。
「確かにいきなりあんなことをしたのは悪かったと思っている」
「あ、ああ」
「だがお前は……変わらんのだな」
「な、何が?」
ジャックが少し怖い顔をしながら俺を見た。
「キスをしてきた男を前にして、嫌うでもなく怒るでもなく何時も通りではないか」
「へ」
「いささか動揺はしているようだが、オレに文句のひとつやふたつ、無いのか?」
どうやらほぼノーリアクションな俺に不満があるようだ。
あれを忘れて今まで通りの友好関係を続けようとしている俺の努力を何だと思ってるんだコイツは!
「そうだね、俺が女だったら落ちてたろうね。でもあいにく男だからね! 友情だということで……」
「友情であんなことが出来ると思うか? オレはそんなに軽くはないぞ」
つまりあれはジャックなりのラブコールだという裏が取れてしまいました。
「……俺のこと好きなんか……ね?」
「ようやく判ったのか」
「俺もジャックを好きだけど、なんかベクトルが違うよね?」
「らしいな」
ジャックがイライラしてる。
ぐたぐた引き伸ばすのも何なので、俺は簡潔かつ丁寧に心境を述べた。
「俺は今、ああいうことがあってもジャックが大事な友達だから、これからも仲良くしていきたい! 愛情は愛情でも、俺のは友愛ってことです! アレは水に流す!」
これ以上は何を言うべきか判らなかった。バイトにはまだ早いけど席を立つ。逃げるようにドアへ向かった。
「待て、」
呼び止められた。おそるおそる振り返ると、ジャックも席を立って俺に近付いてくる。
「お前が友情を望むなら応えてやろう。……だが」
間近にジャックの顔が迫る。
怪しく笑って、俺の顎を右手でくいっと持ち上げた。
「オレは、お前をその気にさせる機会を常に窺っている。覚悟しておけ」
俺は、もっとしっかり拒絶しなかったことを、ひっそりと後悔したのだった……。
本当に俺って、馬鹿だな!!
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