暗闇を漂う意識を揺さぶったのは、眩しい赤の閃光。続いて鼓膜に打ち込まれた爆音に、は慌てて体を起こした。

「……何だ、これ!?」

 閃光と爆音は止まない。がいたのは今にも崩れそうな廃墟の中であった。命の危機を察したが飛び出すと同時にそこは崩れ始める。
 反射的に身を屈め、腕で顔を庇った。舞い上がる土埃や細かな残骸をそうしてやり過ごしてから、ようやくは落ち着いて周囲を確認することができたのだった。
 向こうに見えた、特徴的な橋。馴染みある街並み――。

「ここ……ネオ童美野シティだよな?」

 だが、様子がおかしい。絶え間なく揺れる大地と空気に、続く轟音は、まるで戦場のそれだ。
 不意に大きな影が落ちた。おもむろに空を仰ぐ。の視界の先には、空が広がるはずだった。しかし。

「な、なんだアレ……」

 巨大な機械が、いくつもいくつも空を飛んでいた。色や形にはパターンがあるようだったが、共通点がひとつだけある。
 奴らは、街を破壊している。
 熱線を放ち、銃撃を繰り返し、街中の至る所から上がる悲鳴や断末魔さえも抹消せんとしているような無慈悲の殺戮。
 は言葉もなく立ち尽くしていた。

「そうだ、遊星たちは……みんなはどうなってんだ!?」

 我に返り、は叫んだ。自分を奮い立たせるようなそれは、決して誰かの答えを求めている訳ではなかった。
 ――だが。

『このネオ童美野シティは、貴方が知るネオ童美野シティではありません』

 返事があった。
 頭に直接響く、静かな男性の声。この惨劇を嘆くような、ひっそりとした悲しみが滲む声であった。
 驚きのあまりは固まった。
 視界が、砂嵐のようにざわついていく。そして急にブツリと音を立てて、周りの全てがから切り離された。
 我に返ったの前にあったのは、虹色に輝く大きな機械であった。規則的な回転と作動音を繰り返すそれを、は知っていた。

「モーメント……」

 何度か瞬きを繰り返す。
 巨大なモーメントのそばに、四つの人影があるのをは認識した。
 逆光に遮られて顔はよく見えない。しかし人影は、確かにこちらを見つめていた。

『私たちの意識に、貴方は迷い込んでしまったのですよ』

 先と同じ人間の声が、に語りかけてくる。

「……なんか、すいません」
『貴方が謝ることではありません。私が貴方に“会いたい”と思っていたのが要因のひとつでもありますから』
「あ、そうなんですか?」

 間の抜けたの反応は、張り詰めた空間に大層不釣り合いなものであった。

「てか、俺に会いたいって?」

 臆する様子もないに、男は答えた。

『私の同志たちの誰もが、貴方の中に見出したもの。それを私も感じてみたいと思ったのです』
「はあ……」
『……判らない、といった様子ですね。大丈夫、判らないままで結構ですよ』

 穏やかな笑みを含む声。少なくとも男は悪い人間ではないようだ。
 は、自然と歩み出していた。男に向かって。しっかりとした足取りであった。
 男がを止めることは無かった。
 階段を上がり、着実に距離を縮めていく。モーメントが放つ光に目を細めながら、はようやく男のそばに辿り着いた。

「俺は。あなたの名前は?」
『私は――ゾーン』
「ゾーン……」

 視線を感じ、はゾーンの目を探した。
 延命装置と思わしき機械に乗る彼の顔は、ほとんどが金属製の仮面に覆われている。
 そのなかに輝く、青い隻眼。
 誰かに似た色。

「――遊星?」

 ゾーンの眼差しは、遊星に瓜二つであった。
 そして左目を中心に走る、稲妻に似たマーカーを彷彿とさせる仮面の隙間。
 遊星、だ。
 いや、遊星なのか?

「――違う。遊星にそっくりだけど違う」
『何が、違うと?』

 否定も肯定も無いゾーンの声に、は直感のまま答えた。

「遊星よりずっと、大人くさい。大人しくて穏やかっぽい。あと――遊星みたいにバカくさくない」

 バカな俺が遊星をバカって言うのも失礼な話なんだけど。
 そう言っては、頭を掻いた。
 だからは、少しだけゾーンの瞳が揺らいだことを気付けなかった。

『……彼らが貴方に接触した気持ちが、少しだけ判る気がします』

 呟いたゾーンの瞳にはもう揺らぎなどなく、は不思議そうにまばたきを繰り返すだけだった。
 不意に世界はひっくり返った。全てが砂のように崩れ、真っ白な空間だけが残る。
 いつの間にか遠くに行ってしまったゾーンが、に語り掛ける。

『そろそろ帰った方が良いでしょう。貴方のことを心配している人たちがいる』

 返事をする間もなく、の意識は浮上していった。

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