なるべく自然に、のバイト先に立ち寄ってみる。
ミルクを注文し、俺はが働いている姿をじっと見つめていた。
今日は奥の方で作業をしているらしい。最近の手が荒れているのは、そのせいだろうか。恐らく洗い物をするうちに、洗剤でやられてしまったんだ。の手を痛めるような洗剤を置いているこの店に、俺は不信感を募らせた。
第一、に洗い物を任せているのもどうなんだろう。あの眩しい笑顔を見ることができないじゃないか。かといってウェイターをこなすというのも嫌だ。誰これ構わず愛想を振りまく姿は見たくなかった。
あの笑顔は、俺のためだけにあって欲しい。
自分の我が儘ぶりがたまに嫌になるが、しかし、愛しいひとを独占したいのは生き物の本能だと思う。
本当なら、には家にいて欲しい。バイトが見つかる前みたいに、俺の仕事を手伝ってくれるだけで良かった。
俺の役に立ちたい、と言ってくれて。実際、ちょっとしたものなら自身で修理出来るくらいになって。すごく幸せだった。
けれど実際は稼ぎが足りなかった。いつもクロウが頭を抱えているのは知っていた。だからはバイトを始めた。
は人好きのするタイプだと思う。話も上手いし、彼の楽しそうな顔を見る限り、接客業は天職なのだろう。
沢山の見ず知らずの人間の為に、尽くすんだ。
胸の奥がもやもやする。
俺以外の人間に親しげに接するなんて嫌だ。
何時だったか、は話してくれた。
「遊星がいなかったら俺、死んでたと思う……。ありがとう」
俺がを保護したからだろう。は俺には特別気を許してくれていたようだ。
俺は、その言葉が嬉しかった。俺がいなかったら死んでいたくらいに、の中で“俺”という存在は重要なんだと思えたから。
だから、ますますを大事にしようと誓った。
俺だけのものにしたい。
大事にするから。
大切にするから。
誰にも穢されないように、俺が守ってやるから。
だから――。
「あっ、遊星?」
俺はハッと我に返った。
目の前に、がいる。
驚きで一瞬固まったが、想い人の出現に、俺は自然と笑みを浮かべた。
「、お疲れ様。バイトはもう良いのか?」
「あ? うん! 今日はとりあえず上がり。ってか、遊星がいるなんて珍しいなー。しかもひとりで!」
「そうか?」
「そうだよ!」
子供のように無邪気な笑顔が眩しくてたまらない。
俺は手早く会計を済ませると、と共に帰路についた。
恥ずかしくて「一緒に帰ろう」と言い出せずにただ視線を送った俺の意思をくみとり、すぐに隣に並んでくれたの行動が更に俺を舞い上がらせる。
「なんか奥から遊星いんの見えたからさー、ついちゃっちゃと切り上げて来ちまったよ」
「そうなのか。……ありがとう」
は笑いながらこういうことを言うから、いけない。必死に抑えつけている俺の衝動に火をつける。
このまま俺の部屋に連れ込んで、繋いでしまいたい。心身に俺を刻み込んで、俺がいないと何もできないぐらいに依存して欲しい。俺のためだけにその愛らしさを見せて、俺のそばでだけ生きて欲しい。誰にも邪魔されずに、ふたりだけで過ごしたい。
の世界を、俺だけのものにしたい。
「ゆ、遊星」
不意にが俺を呼んだ。
は戸惑ったような、困ったような表情で俺を見ている。
「どうした?」
「や、あの……目が何処か遠くにいってたんで大丈夫かな、と」
俺は小さく笑った。
「すまない。のことを考えていたんだ」
すぐそばに想い人がいるのに自分の思考のせいで蔑ろにするところだった。
まだ戸惑い気味のの手を掴み、俺はまた歩き出した。
ああ、早く俺だけのひとにしなければ。俺がまだ正常でいられるうちに。
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