バイトになかなか身が入らなかった。ミスをしなかったことは幸いだけど、何時もより元気がないってことを常連さんに言われたりして内心焦った。
 ようやくバイトを終え、帰路につく。

「なんか、今日のブルーノはヤバかったな……」

 ヤンデレ度は何時も通りとして、我慢がきかなくなっていると自覚していたくらいだ。いきなり馬乗りされた時はどうしようかと思った。それでもブルーノなら、俺に危害を加えたりしないと思ってたから。
 ある意味、殴る蹴るより精神的ダメージを被りそうな手段に及ぼうとしていたようだけれど……。
 それでもやっぱり、ただ拒絶するのは怖かった。だから約束をとりつけて、何とかブルーノの気持ちを宥めてきた。

「俺、本当に情けない……」

 今まで散々「そういう気はない」とか「君にはもっとお似合いな人がいる」とか何回も何回も言ってきたのに、聞いてもらえないんだから。どうしたら良いんだろう。
 あまり直接的なただの否定だとヤンデレスイッチオンでこちらが悲鳴を上げることになるし。「恥ずかしがり屋」として片付けられることもある。
 なんかもう八方ふさがりだよ。
 結局あの二人に挟まれたままで頑張るしか、今の俺には手段がなかった。
 ――よし、気合復活。
 何の解決にもならないかもだが、俺さえ気を付ければいいんだ。
 もともとブルーノと遊星はメカニック同士で気が合うんだし、二人とも良い奴だからずっと友達でいたい。
 あんまり深いことを考えると頭が痛くなるので思考を打ち切る。
 俺はのんびり歩いた。

「女だったらなー。イケメンに板挟みされてキャー幸せーってなれたんだけど」
「何が幸せなんだ?」
「どわぁあぁ!!」

 情けない絶叫と共に跳ねる俺。心臓痛い、痛いよ。はねたよ。肋骨にぶち当たったんじゃないかってぐらいだよ!
 そろりと振り返ると、目を丸めた遊星が立っていた。
 俺は、神出鬼没というものを肌で感じた。

「おっ、驚かすなよ遊星!」
「すまない、そんなつもりじゃなかったんだが……」
「あっ、ごめん……」

 遊星は本当に申し訳無さそうな顔をしていた。なんかもう、こういう時は可愛いよなお前……。
 とりあえず復活した俺と遊星は並んで歩き始めた。遊星も帰るところだったらしい。
 沈黙が耐え難くて、俺はとにかく何か言わなきゃと必死になった。

「なぁ遊星」
「何だ?」
「どうして俺が好きなの?」

 遊星が歩みを止めた。
 ――あれ、俺何言った?
 ああ……とんでもないこと言った!
 ありえないこと言った!
 思春期の乙女よりもすごいこと言っちゃった!!
 遊星がむちゃくちゃ俺を見てくる。どうしよう。いくら話すことが無いからって何でこんなこと。
 馬鹿が下手に緊張するからこうなるんだ!
 俺は頭を抱えたくなった。つうか逃げ出したい。



 遊星はゆっくりと口を開いた。固まる俺の手を掴んで、まっすぐ俺を見つめたまま。

「俺は、が真っ直ぐに俺を見てくれるから好きになった」

 なんと遊星は俺の発言を真に受けて、本当に理由を語り始めた。

はこの世界に染まっていないから、そのままに俺を見てくれるから」
「遊星……」
「前に、ゼロ・リバースの話をしただろう?」

 俺は頷いた。遊星のお父さんが、危ない実験を止めようとして、このネオ童美野シティが二つに分かれてしまうぐらいに凄い出来事だったとか、そんな話だった。
 クロウやジャックたちが両親を失ったのもそのせいだって……。

「最初は正直、に嫌われるんじゃないかと不安にもなった」

 その話で遊星を嫌う要素が何処にあるんだろうか。こんなに辛そうに目を伏せる遊星を責める気になるひとがいるんだろうか。
 少なくとも俺には、大事な友人である彼を責めることはできない。
 ――こんな感じの話、前の世界でも経験したなぁ……。

「だが、はそんな奴じゃないと判ったから」
「判ったの?」
「ああ。のことを好きだから……いや、愛しているから、判った。現には、全てを知っても変わらなかった。真っ直ぐ、俺の大好きなままので接してくれてるじゃないか」

 恥ずかしい。あっさり告白してくる遊星が恥ずかしい。
 結局遊星がどうして俺を好きなのかはよく判らんけど、遊星が俺を大変気に入ってくれてるのは判った。
 俺は馬鹿だから単純なだけなのに、遊星はそれを特別なことのように言う。
 ああ、なんか火照りそう。

「ありのままに接してくれるに失礼じゃないよう、俺もありのままでいなくちゃならない。そう思った。だが……」

 不意に遊星は言葉を濁した。
 俺を見つめる表情も何だか苦しそうである。

「本当にありのままでいたら、多分俺は……に迷惑を掛ける」
「なんで? 平気じゃね?」

 反射的に聞き返してしまう俺。
 遊星は苦笑いを零した。

「……が他の誰かと関わるのが許せない。そんな姿を見るくらいなら、誰かと関わることのないよう、閉じ込めたい」

 これは、スイッチオン?
 引きつった笑いを零す俺の手を掴んだまま、遊星は歩き始めた。
 俺は、何も言えなかった。

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