の連絡を受けてすぐ、アキはポッポタイムにやって来た。
駆けつけるなりアキはに駆け寄り、の両肩を掴んだ。目の前のの存在が嘘ではないことをその手で確かめ、ホッと胸を撫で下ろす。
「良かったわ、無事で……」
「し、心配かけてごめん」
「本当に心配したわ……本当に」
それ以上は言葉にならないかのようだった。
そんなアキに、は静かに説明し始めた。
自分が遊星とブルーノに監禁され、プラシドに救出されたことを。
その衝撃的な事実を聞き、アキはまた言葉を失った。無理もねえぜ。オレだって目ん玉飛び出るかと思ったからな。
だが時間が経つと、次第にアキのなかで安堵以外のものが込み上げ始めた。顔つきがどんどん怖くなってく。その感情はみるみるうちに膨らんでいき、そして……弾けた!
「だって……友達が拐われて監禁されていただなんて、普通考えつかないもの!」
が忽然と消えてから、オレやジャックたちと一緒に、アキもの手ががりを探していた。ひたすらに龍亞と龍可と一緒に、と仲の良い子供をあたって回ったこともあった。
それだけアキはを思いやってくれてんだ。感情が高ぶるのも仕方ねーよな。
「遊星とブルーノが二人がかりでを捕らえていたなんて、信じられないわ!」
「アキちゃん、落ち着いて……」
「逆にどうしてはそんなに落ち着いてられるの!? あなた、監禁されていたのよ? 挙げ句に……」
アキの眼差しが一気に鋭くなる。その双眸が捉えているのはプラシドだった。
何杯目か判らぬ紅茶を啜りながら、自慢げかつ悠々と椅子に腰掛けているプラシド。
そのプラシドを睨み付けながらアキは叫ぶ。
「あいつが助けてくれたですって!? 逆なら納得よ。監禁したのがプラシドで、遊星たちが助けたと言うなら。寧ろその方がしっくり来るわ!」
「生憎だがオレの愛情表現の手段には監禁の“か”の字もない」
「あなたの愛情表現なんて誰も聞いてないわよ」
アキがぴしゃりと言い放つ。
明らかに剣呑さの増した空間で、は身の振り方に悩んでいるらしかった。ひとまず成り行きを見守るオレの傍に来て、自分もそれらしい顔をしてる。お前、それはどうなんだよ。
ふとプラシドは、空になったカップをテーブルに置いて、席を立った。ポッポタイムを見渡し、オレ、アキ、の顔を見て、ニヤリと口元を吊り上げる。
「オレは不動遊星たちの目の前でを連れ出してきた。今ごろ大慌てで街中を捜索し、策も尽きた頃だろう。オレが絡んでいることを理由に、貴様らへ助力を乞うため、ここへ来るはずだ」
「え? そうなの?」
「、貴様は本当に間の抜けた奴だな」
きょとんとするに、プラシドがそう言った。あいつは誉め言葉のつもりで言ったみたいな顔してる。誰がどうすれば、間の抜けた奴って言われて喜ぶと思うんだよ!
もプラシドの台詞に「ええっ!?」と目を丸めて驚く。そこは怒っていいんだっての! どんだけお前はお人好しなんだ!
「お前――」口を開きかけたオレより先に、アキが叫ぶ。
「それもの良いところよ! 周りの空気を和ませてくれるじゃない」
「オレもその点には同意だ」
「えぇぇっ!?」
「話がずれてんじゃねーか! も怒れぇぇえ!」
「ごめん! なんかごめん!」
「は悪くねえんだよ! こっちこそ悪ぃ!」
なんなんだ、こいつら。放っておけば話がズレにズレて戻ってこれなくなりそうだ。
こいつら全員がボケ役で、俺だけツッコミ役の、疲労困憊必須の漫才状況だ。
だがそんなオレの場違いな困惑も、すぐに中断されることになった。
勢い良く開け放たれたポッポタイムの扉。
そこからなだれ込むような勢いで入ってくる二人の男。
「! 無事か!」
「! ようやく見つけたよ!」
件の遊星とブルーノじゃねえか!
プラシドの読み通りに来ちまうあたりとか、のことしか目に入ってねえとことか、色々あるが……。
こっちに向かってくる二人に、オレもずかずかと歩み寄っていった。
「ようやく見つけたじゃねーよ、お前ら! お前らがを捕まえてたのか?」
「クロウ、何言ってるのよ! 絶対にプラシドの罠よ、あんな話!」
アキもハッとしたようにそう割り込んでくる。
オレとアキ、ふたりに詰め寄られ、遊星とブルーノは……遂に口を開いた。
「何か誤解しているようだが、俺たちはを守っていたんだ。の為に防衛設備を完備した居住空間を作り、そこに住まわせ、俺とブルーノが二人で守っていた。そこにプラシドが現れ、を連れ去っていった……」
「僕達のセキュリティが万全じゃなかったみたいで……。そのせいでには怖い思いをさせてしまった。本当にごめん、」
……捕まえてたことは否定しない、と。オレは絶句した。
アキも相当ショックらしい。「嘘でしょ……」と口許を手で覆って青ざめている。
は……ショックやら何やらはとっくに過ぎた、悟りの表情だ。
立ち尽くすしかない俺たちにが歩み寄ってきて、遊星たちとの間に立った。
「まあ、落ち着いてくれ皆! ふたりに悪気が無かったのも事実だし」
「お前が言うのかよ……」
「ここで今一番落ち着いてるの、俺かプラシドさんだろ? そしたら俺が話すしかないじゃん」
とは言うもののの目の悟りすぎてる感じが何か不安だ。
遊星とブルーノの様子もおかしい。なんかもう、を凝視っていうか、突き刺さんばかりのぎらぎらの眼差しというか、視線が……。こいつら、こんなヤバイ目ぇすんのかよ。
そんなに思い詰めて、にも迷惑かけて……。
言葉にならなかった。
その間も、たちは話し続ける。
「怪我はないか? プラシドに何かされなかったか?」
「監禁などという愚行に及ぶ貴様らとオレを一緒にして欲しくはないな」
「何を……! 僕のを誘拐しておきながら偉そうに……」
「ブルーノ、お前のじゃない。俺の……俺たちのだ」
「あなたたち何言ってるの? を誰のだなんだって、今はそういう話じゃないわ!」
「ああー……皆お話聞いてくれませんー……?」
どんどん熱くなる遊星、ブルーノ、淡々とふたりの痛いところを突くプラシド、我に返ったアキ、全員をなだめようと必死な被害者・……。
……オレもイライラしてきたぜ。
冷静に遊星たちを説得してもらうつもりで呼んだアキもそれどころじゃない。
もうこうなったら、やけくそだ!
「お前らいい加減にしろおおおっ!!」
オレは絶叫した。
限界まで張り上げたオレの声に、さすがの遊星たちも全員固まってこっちを見る。
呆気にとられる遊星たちに、オレは言った。
「がイリアステルに狙われてるってのはオレら全員が知ってることだ! んでもって遊星、ブルーノ、お前らがのことが大事なように、オレやジャック、アキに龍可や龍亞たちにとっても、は大事な大事な仲間なんだよ!」
「いや、俺とブルーノはだな……」
「今は黙ってオレの話聞け! こんのバカ遊星!」
そう怒鳴り付けると遊星は黙った。
オレはまだ言った。
「遊星、ブルーノ! お前らがやったのはどんな理由や事情があろうと、監禁っていう悪いことで、そのせいでは精神削られて、追い詰められたんだ!」
「ぼ、僕たちがを……?」
「だからこそ、“自分を狙う敵”だと判ってても、プラシドに助けを求めた方がマシだと思ったんだろ! お前らがやばいと思ったから、イリアステルなんか頼っちまったんだろ!」
喋りながら辛くなってきた。
どうして仲間にこんなことを言わなきゃならねえんだ?
遊星とブルーノは、どこで何を間違えちまったんだ?
どうしてオレは、ふたりの異変に気づいてやれなかったんだ?
きっと以前からは、ふたりの異変に悩んでたに違いない。
それをどうしてオレは――!
「情けねぇよ……。オレも、お前らもよ……!」
そう呟き、俯いた時だった。
バンッ! とドアが壊れるんじゃないかという勢いで開いて、大袈裟なぐらいコートを翻したオレたちの仲間が、この修羅場に飛び込んできたのは。
「話は聞かせて貰ったぞ!」
――ジャックが帰ってきた。
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