美鶴たちは、に件の夜について説明し始めた。
が彷徨っていたあの奇妙な時間は、影時間と呼ばれる時間であること。
その時間にはシャドウと呼ばれる化け物が存在し、奴らが人間を影時間に引きこみ、最近世間を騒がせる“無気力症”に追いこんでいること。
そんなシャドウたちに対抗するために、美鶴たちはペルソナを呼び出して戦っていること。
そして影時間の間だけ、タルタロスと呼ばれるシャドウの巣窟が現われること。
まるでファンタジーかSFのように難解な話の数々に苦しみながらも、ようやく理解したは、頷いた。
「……それで、自分にもペルソナを使って皆と一緒に戦えと?」
「早い話がそういうことだ。影時間の中で、あれだけはっきりと自我を保っていた君には十二分な素質がある。やってくれるか?」
聞く限りでは下手をすれば自分は今頃、無気力症に陥っていたかもしれないのだ。
かなりの危険を伴うことだというのは、あの夜で十二分に思い知った。
それでもは迷わずに頷いた。
「ん、判りました。やります」
「決断が早いな」
呆気にとられる間もなく笑う真田に、はやはり素早く返す。
「そういう運命なんだと思って巻き込まれることにします。それに大変そうじゃないですか。人手は多い方が良いでしょう?」
さらっと笑って言いながらもの胸中に不安が無い訳ではない。
多分自分にも拳銃が支給されて頭撃ち抜かなきゃいけないんだろうなあ、とか、あのおどろおどろしい空模様にまた対峙しなくちゃいけないんだなあ、とか。
でもそれは、ここにいる皆、同じなんだろうなあ、とか。
そんな気持ちからの素直な言葉だったのだが、美鶴にはがあえて気丈に振舞っているようにもでも見えたのだろう。彼女は目を伏せ、申し訳なさそうに謝罪する。
「すまないな」
「そんな……。皆には昨日、死にそうなとこを助けて貰ったし。ただ、まあ、役に立てるかどうか判りませんけど……」
泣き叫びながら逃げ回っていた人間が急に戦えるとは誰も思っていないだろうが、は真剣に懸念して悩んでいた。参加するからには確実な戦力になりたいという、男としての意地が湧いたのだろうか。こんな妙なところで。
無意識のうちに俯くに、それまで黙っていた風花が励ますように声を掛ける。
「大丈夫です、さん。私なんかもまだまだてすから……仲間が増えるだけで心強いです」
そんな風花の言葉に、ゆかりも「そうだね」と笑って続く。
「風花の言う通りだわ。私だってまだまだ全然パニクるし。ね、天谷くん」
「うん。なら大丈夫だと思う」
ゆかりに話を振られた奏夜も、やんわり笑って頷く。あっさり呼び捨てされたことで、距離がぐっと近くなったような安心感が生まれる。ありがたさをひしひしと感じながら、も笑い返した。
そこに、何やら気合十分な順平が話に入った。
「安心して下さいよさん。オレがいる限り、さんを危険な目には合わせませんから!」
「あ、ありがとう」
はとりあえず無難に礼を述べてやり過ごした。
順平の気持ちは手に取るように判る。女の子の前ではカッコイイ自分を見せたくなるのが男の子だと思う。自分もどちらかと言えば、そういう男だ。
故に、女装している自分を守ろうと張り切ってくれる順平の気持ちは、有難さよりも申し訳なさが勝ってしまう。
女装をしなければ良いだけなのだが、そうはいかない。これはなりのポリシーなのである。
これ以上何か言われたら対処に困る、と焦った時、順平に畳みかける人物がふたりいた。同級生かつクラスメートだというゆかりと奏夜だ。
「なーに言ってんのよ順平。自分の身もちゃんと守れないくせに」
「マジベソかいてたくせに」
「ゆ、ゆかりッチ! 天谷っ! 止めてくれってー!」
順平がふたりに攻撃ならぬ口撃を受ける姿を、風花がおかしそうに笑いながら見ている。何時もの事らしい。止めなくても良さそうだ。
そういえば、とは風花を見た。
実は、風花とのクラスは一緒なのだ。以前行方不明になったりもしていた彼女を、は以前から知っている。
体が弱いだのなんだのと噂では聞いていたが、そんな風には見えない。朗らかかつ穏やかな様が、虚弱そうなイメージとなったのだろうか。ただ線が細い子なのは確かだと思った。
ふと風花と目が合った。見つめすぎただろうか。はぐらかすように笑ってみると、風花もはにかみつつ笑い返してくれた。
予想外ながら嬉しい反応だった。
(うわ、可愛い……)
が風花を知っていたのは、行方不明の話題よりも“クラスでもかなり可愛い女の子に分類されるから”という男の子らしい理由の方が大きかった。下心は無い。単純に「可愛い」や「綺麗」というだけで気になってしまうのは、一般男児としてはむしろ健全な反応であると思う。
一瞬惚けたに、そういえば、と真田が向き直る。
「。お前も仲間に入ったからには、此処に住んで貰うからな」
「えっ!?」
「早めに荷物を纏めておけよ」
拒否権は無い。さも当然のような真田の宣告に、思わず周りを見渡した。
――そう言えば皆、ここに住んでるって言ってましたっけね!
は驚きに目を丸めながらも、潔く納得して頷き返したのだった。
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