「やぁ、君。改めまして、特別課外活動部へようこそ」

 理事長・幾月の軽い口調に、はしばし呆気に取られていた。
 さすが自分の女装を許してくれただけある変わりものだと、妙な納得をしながら、幾月の話をひたすらに聞いていた。
 幾月のトークのなかで何より凄まじいのは、ぽんぽんと飛び出すダジャレの数である。図らずして笑いかけたが、周囲の冷めように思わず声を引っ込めた。としては大笑いしたかったほどツボに入るダジャレも、都会の流行に染まった若者には中年の寂しい言葉遊びぐらいにしか思えないのだろう。
 何故かは、同年代の学友たちにジェネレーションギャップを感じずにはいられなかった。しかしめげたことは一切表情に出さない。

「快く協力を承諾してくれたそうだね。君、本当に助かるよ」
「こっちこそ助かりました。この寮、前より学校近いんでまったりできます」
「ははっ、それは良かった」

 幾月のテンションは終始崩れず、もまた軽やかに応じる。
 幾月はのペルソナ能力についても質問してきた。召喚回数、時間、初めてペルソナを見た時の感想や状態など……聞かれたものに対して、出来る限りは明るく答えた。
 最初は怯えもしていたペルソナ能力を移動手段に使った、という話をすると、幾月は目の輝きを押さえきれない様子だった。

「ペルソナで移動か……。斬新さに天晴だ。形はどうあれ、安定してペルソナ発動を維持できるというのは素晴らしい!」
「いやはやそんな、照れますわー」

 理事長とい肩書から、相当堅い人柄を想像していたのだが、幾月は真逆である。
 幾月が帰るぎりぎりまで話は盛り上がった。と幾月の世間話を、周りは呆気にとられた顔で見守る事しかできなかった。それほど二人のトークはテンポよく、どんどん進んでいくのだ。
 しばらくの後、話を切り上げた幾月が帰ると、は深く息を吐いてソファーに凭れた。力の抜けた体は、まるでソファーにくっ付いてしまっているようだ。

「うあー、緊張したぁー」
「何処がだよ! メチャクチャ仲良しだったわ!」

 元気に指摘しながら寄って来た順平に、いやいやとは首を振る。
 そして瞬間、の顔から、笑みが抜けた。

「……だって、さ。あの人の目、何か笑ってねえもん」
「へ?」
「さて、タルタロス前にちょっと出掛けてきまーす」

 順平が何か聞きたそうにしていたのを知ってか知らずか、は軽やかに寮を出て行った。笑顔に戻り、爽やかと言う表現がぴったりな様子であった。
 取り残されたような順平を、ゆかりが小さく笑ってからかう。

「順平、あんたものっそいアホヅラになってる」
「え? いや、だって……てか何処行ったの? タルタロス前にお出かけって、どんだけ体力あんの!?」
「少なくともあんたよかあるんでしょ」

 ゆかりと順平のやりとりを見ていた奏夜がぽつりと呟く。

「バイトにタルタロス……お疲れ様なこったねぇ」

 呟いてから奏夜はハッとした。
 美鶴と真田の視線がどうにも冷ややかなのだ。
 まるで、悪いことをして咎められた子供のような気分に陥る。
 先輩たちはの行動を知っていたのではないだろうか? それとも自分は何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
 悩む奏夜もとに寄って来た風花が、そっと彼に耳打ちする。

「校則で、バイトは禁止なんですよ。リーダー……」

 風花の指摘に、奏夜は青ざめた。
 先輩二名は何も言わない。真田はグローブ磨きを、美鶴は読書を再開する。その無言が逆に辛かった。

(……め。あんまり堂々とバイトしてるから、禁止だなんて知らなかったぞ……)

 校則を知らなかったという言い訳は通用しないだろう。
 奏夜自身も、時折バイトに勤しんでいるのは、絶対に秘密の話である。

prev Top next