7月7日、影時間。満月の日。
 皆の話と経験によれば、満月の夜には、大型のシャドウが現れるそうだ。
 ゲームで喩えるとボスに値する存在らしい。普段戦っているシャドウと同じで、12のカテゴリに分類されているのだという。風花のアナライズや、シャドウの身につけている仮面の形などでカテゴリを知ることが出来る。
 そういえば、自分たちのペルソナにもアルカナというカテゴリが割り振られている。ペルソナはシャドウを倒す存在なのだし、やはり何か関係があるのだろうか……。
 作戦説明を聞き終えたは暇を持て余し、小さな物思いに耽っていた。

「……見つけました! 市街地に、大型のシャドウ反応!」

 ペルソナ・ルキアを召喚し、シャドウの反応を探っていた風花が声を上げる。
 彼女のペルソナに戦闘能力はほぼ無いが、代わりに、深く広く周囲や敵を探る能力に秀でている。彼女らしい、サポートに特化したペルソナ能力だった。

「フンフン。満月の件、どうやら確実と見ていいね」

 風花の言葉に、幾月が満足そうに頷いている。学者気質ゆえ、満月とシャドウの推測が当たったのが嬉しいのだろう。

「場所は巌戸台の、ええと……白河通り沿いのビルです」

 風花の報告に、幾月は呟く。

「白河通りか……。ここ数日、影人間がよく二人一組で見つかるって聞いてたけど……なるほどねぇ」

 何か含んだような言い方と笑いに、美鶴は考え込む。しかし結論に至るまで、さほど時間は掛からなかった。「二人一組か。……そういう事か」どこか呆れたような、悟ったような美鶴の呟き。
 風花はルキアを帰還させた。それから皆に向き直り、首を傾げる。

「白河通りって、どんなところでしたっけ」

 あの辺りにはあまり行かないから、と申し訳なさそうに風花が話す。
 は悩んだ。あの辺りがどんな場所か、それは大変答えづらい質問であった。ははぐらかすような、何とも言えない笑いを浮かべる。

「はは、どんなとこでしたっけねー……」
「聞いた事はあるけど……」

 と同じように、言葉を濁らせるゆかり。きっと彼女も、どういう場所かは知っているのだ。そしてと同じように、言葉にはしがたいのだろう。
 しかし、何だか明るい笑みの男がひとり。順平である。

「あ、そっか、ホテルんとこか。だから、二人一組なわけね」

 合点がいったように頷き、声高らかに順平は風花を見た。
 わざと言わなかったのに! と言いたげなとゆかりの視線など気にしない。

「風花も知ってんだろ? ホテル街だよ、ホテル街!」
「えっ、ええっ!?」

 風花は戸惑い、声を上げる。些か顔も赤いようだ。
 そんな順平の様子に、ゆかりは肩をすくめた。

「あんたねぇ…」
「おいおい、何を妄想してるんだ? 内装が凝ってるだけの単なるホテルだから」

 幾月がニコニコと話に入って来る。確かにそういう捕らえ方もあるのかも知れない。「言ってみれば、そう…アミューズメント・ホテル?」けれどその言い方はおかしい。は胸中でそう指摘した。
 あんなアミューズメントがあってたまるか、と。

「そうなんすか?」
「違ぇだろ……」

 きょとんとする順平に、は思わず吐き捨てた。うっかり「ラブホじゃん!」と正直に言いそうになり、内心慌てたのは秘密だ。
 そんな彼等の横で、ゆかりは気が乗らない様子で顔をしかめている。

「なーんか、今回はやな予感する…。行くのヤメよっかな…」

 後々この予感は当たるであろうことに、ゆかりは気付く筈も無い。女性の勘の鋭さには天晴である。
 渋るゆかりを、順平はからかうように笑った。

「まーた、ゆかりッチ。意外なとこ子供なんだから……」
「ちょっ、子供はどっちよ!」

 ゆかりが声を荒げる。怒りに勢いを任せて、彼女は言った。

「オッケー、行こうじゃん。私、今日の作戦は、前線で戦うの予約します!」
「よ、予約制なの?」
「さあ、現場の指揮は誰がやるんですか?」

 ゆかりの質問に、美鶴は、奏夜を見る、という形で答えた。

「天谷。今まで同様、今回も君だ」
「はい」
「それと、バックアップは、今回から作戦時も山岸に頼む」
「はい、頑張ります!」

 それまで黙っていた真田が、ようやく口を開く。

「よし、天谷。早速出撃するメンバーを選んでくれ」
「……どうしようかな……」

 先程の返事とは打って変わった間延びした声で、奏夜が悩んだ時だった。

「あっ、ハイ! 俺行きたい!」

 が元気良く名乗り出た。
 やれやれ、と美鶴が呆れたようにを見た。

「遠足じゃないんだぞ。何だ、その軽さは……」
「そんなつもりでは……。ただ、満月シャドウ未経験者としては、後学の為にも実戦に挑ませて頂きたいなって」
「良い心掛けじゃないか」

 真田が感心したようにを見る。
 そして、真田は奏夜を顧みた。

「どうする、天谷。決めあぐねているならを連れて行ってやれ」
「じゃ、そうします。……では、あとひとりは真田先輩で。フォローって事で良いですか?」
「構わんぞ。むしろ大歓迎だ」

 拳を打ち合わせ、真田は不敵な笑みを浮かべていた。
 尋常ならざる真田のやる気に、は密かに疑問を抱いた。
 ――戦いが好きなのか? この人は。
 前々から感じてはいた。真田の戦いに対する姿勢は自分たちとはどこか違う。命が懸かっているのに、それを楽しんでいるように見える時だってある。

(だって、でっかいシャドウだろ? 怖いじゃん!)

 自分も確かに飄々と名乗り出はしたものの、ここまでの勢いは持てそうにない。怖さを頃る為に飄々としてみせるだけだ。
 接する機会が増えたせいだろうか。何であろうと、あら捜しは人間の悪い癖だ。
 まるで自ら望んで対するような姿も、戦いというものの捉え方も、きっと何か理由があるのだろう。真田自身でなければ知りようのない、深い事情があるのかもしれない。
 でも、とは真田を見た。

(時々焦ってるみたいに感じるんだよなー……)

 自分のように、確固たるものが無いよりは、よっぽど利口だとも思うけれど。
「よし、…行くぞ」メンバーも決まったところで響いた、美鶴の静かな号令。自然と身が引き締まる。
 は深く息を吐いた。
 大丈夫、俺にもできる。
 刀を腰に下げ、召喚器を後ろ手で取れる位置に掛け、は皆に続いて部屋を出た。

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