二体の大型シャドウを撃破し、ホテルから戻って来た一行を、待機していた風花と美鶴がホッとしたように迎える。
「お疲れ様でした」
「上出来だったぞ。トリッキーな敵だったが、山岸、よくフォローしてくれた」
「ありがとうございますっ」
突撃メンバーのみならず風花の支援も美鶴は微笑みながら褒めた。風花は目を丸め、少し恥ずかしそうに笑って頭を下げて答える。
それから美鶴は、リーダー……奏夜に向き直った。
「天谷。君もよく惑わされず、立て直した」
「ありがとうございます」
普段は表情の変化に乏しい奏夜も、何処となく嬉しそうだ。小さく会釈した彼の横顔に、微笑みが滲んでいたのには気付いた。
これで今日の作戦も終了だ。「解散だな」一番に呟いた真田が踵を返す。無言で美鶴もそれに続いて帰路についた。
先輩達が遠くなるのを見守ってから、も、ふうと息を吐き歩き出した。しかし、寮とは逆方向だ。
「あれ、? 何処行くの?」
「ちょっとねー。とりあえず解散なんだしょ?」
不思議がるゆかりの質問に、ははぐらかすように笑って見せる。ふとは立ち止まり、此方に引き返してくると、自身の召喚器と刀を風花に渡した。
「え? え?」
「悪い、風花ちゃん。コレ俺の部屋にぶん投げといて。遅れちゃうや!」
「ちょっと、どこ行くのよ!」
「バイトっすぅ!」
シャドウの戦いの後でもバイトを入れるというの根性に、風花とゆかりが目を丸める。唖然とする同級生達の眼差しを受けながら、はふと気付いた。
何時もならこういった会話に乗じてきそうな順平が、黙りこくったままだったのである。は不安にあんって、すれ違いざまに順平の顔を覗いた。
――疲労とは違う、何処か不満げな表情である。のことも眼中になさそうな、複雑そうな様子だった。
(順平くん……。何で暗いんだ?)
俯いていた友人の顔に違和感を感じつつも、は再度駆け出した。
色々と考えて答えを導き出したいところだが、そんな余裕はなかった。
影時間が明ける。
バイトの時間は、すぐそこに迫っていた……。
◆◆◆
――ホテルの向かいに位置する、ビルの屋上。
三つの人影が、奏夜たちの行動を見つめていた。
彼ら全員が立ち去ると、人影のうちのひとりが口を開く。
「想像よりも、早い解決でしたね」
ぱちぱちと渇いた拍手を響かせながら、その人影はゆらりと揺れた。
晒されている上半身や顔の病的な白さに、やつれた体……。色素の薄い眼差しは爬虫類を思わせる。奏夜たちより幾つか年上に見える青年だった。しかし見る限り“普通”ではない。その姿より何より、纏う雰囲気が異質そのものだ。
そばにいる少女は何も言わない。奏夜たちが過ぎた後もなお、少女はホテルの前をじっと見つめていた。長い赤髪と真っ白なゴシックドレスは、影時間の闇に良く映えていた。
白い肌の青年は、笑いながら続ける。
「大した見世物です。彼らはここしばらく、毎月こういった活躍をしていますね。最近では、頭数も増えているようですし、戦い方もなかなかユニークだ……」
そんな青年の顔から、すっと笑みが抜けた。
「あの“塔”にも頻繁に出入りしているようですしね……。――どうでしょう、ジン。彼らは敵でしょうか?」
ジンと呼ばれた青髪の少年は、眼鏡を指で押し上げた。もう片手には鈍く光る銀のアタッシュケースを提げている。
少し考えてから、ジンは答えた。
「もうすぐ“ヤツ”に会う頃合やし、訊いてみたら、ええんとちゃいますか?」
「なるほど……それはいい」
青年は静かに頷いた。
「彼は今や、私たちと同じ運命を背負う者……。すぐにでも会って、話してみましょう」
そうして三人は踵を返す。夜闇へ、再度踏み込むように。
「私たちには、あまり時間が無いですからね」
低く呻くような暗い声音は、影時間が明けると同時に霧散していった。
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