今日も屋久島は快晴だ。
 衝撃的な事実を知らされたりはしたものの、海遊びに興じる一同の顔は晴れやかだ。

「昨日は色々とあったけど、今日は終日羽根を伸ばせそうだね」

 幾月がニコニコと微笑みながら話す。彼のいつもと変わらないスーツ姿は、見ていて少し暑苦しい。
 真田と幾月が何やら会話している横で、はぼんやりと海を見つめていた。

「行くであります」
「ぶはっ、ちょ、アイギス水鉄砲ってのはそんなんじゃ……ひぎゃー!」

 海では仲間と共に、昨日の金髪碧眼の美少女が遊んでいた。
 はまじまじと少女を――アイギスを見つめた。

(機械なんだ、あれで……)

 話は、昨日に溯る。
 金髪碧眼の少女のナンパに挑む奏夜たちの様子を見守っていたは、ナンパの果てに、何故か少女が森に走り去ったところを見て「やっぱり失敗か」と一足先に別荘へと戻った。
 それから特にやることもなく部屋で眠っていると、いつの間にか帰ってきていた奏夜に叩き起こされた。

「応接室行くよ」
「うぇ? うん……」

 寝ぼけ眼のまま引っ張られ、たどり着いた応接室には、何故か森に消えた少女の姿があった。
 しかし、何かがおかしい。彼女はワンピースを着ていなかった。それだけではない。少女の体が…その節々が…まるで人間とは違ったのだ。
 言うならば、その姿は――機械仕掛け。

「寝ぼけてんのかな俺……」

 首を傾げたに、幾月が笑いながら説明した。

「彼女の名はアイギス。見ての通り、機械の乙女だ」
「初めまして、アイギスです。シャドウ掃討を目的に活動中です。今日付けで、皆さんと共に行動するであります」

 アイギスの挨拶に、は思わず吹き出した。
 機械の乙女?
 シャドウ掃討?
 行動を共に?
 え、これってある意味ナンパ成功してんの?
 クエスチョンマークが脳内に溢れ、混乱のあまりの顔は半笑いになっている。

「10年前、シャドウが暴走した時の保険として“対シャドウ兵器”というのが計画されてね。アイギスはその中でも最後に造られた一体。そして唯一の生き残りなんだ。勿論、ペルソナ使いでもある」

 淡々とした幾月の説明に、は少しずつ冷静さを取り戻していった。
 ペルソナを扱えるということは、心があるということだろう。しかし機械。
 心を持つ兵器の乙女――。
 何だか複雑な気持ちになった。

(それって、何か可哀相って言うか……どうなんだろう)

 よく判らない気持ちを振り切るように、は気を取り直した。
 アイギスの姿を眺め、その可憐さを確かめると、笑顔になる。

「凄いなぁ。また可愛い子が増えるのは良いかも」
「あんた、順平じゃないんだから……」

 呆れ顔のゆかりに、あははとが笑い返す。
 ははたと目を丸めた。
 アイギスが、奏夜の横にぴったり沿うように立っている。

「アイギス、やたら奏夜くんに近いね」
「はい、わたしにとって、彼の傍にいる事はとても大切であります」

 アイギスの返答にはぎょっとした。どこか戦慄したような表情で奏夜に視線を移す。
 奏夜は少し困り気味に話した。

「俺にもよくわからないんだけど、この調子で。決して何かあった訳じゃないからそんな目で見ないでくれる?」
「お、おう。すまんかった……」

 そうして、の寝ぼけ頭に叩き込まれた、アイギスという存在。
 機械の体に心を宿すシャドウ掃討のための兵器。
 しかし今、皆と遊んでいる姿を見ていると、アイギスも普通の女の子と何ら変わりはなかった。
「であります」という軍隊さながらの語尾も、世間に疎い彼女の人柄――ロボット柄というべきか――とあいまって、何だか微笑ましい。

「桐条の技術って半端無えなあ」
「どうした、まだ寝ぼけてるのか?」

 ぼんやりしたの様子に気付いた真田が、心配そうに声を掛けてくれた。
 ははぐらかすように「大丈夫すよ」と笑い、強引に話題を変える。

「真田先輩……ブーメラン見事っすね」
「女子の水着を着れるお前ほどじゃないさ」
「いや、それを言うなら、男子が女子の水着を着ていることをあっさり許容する皆のが……」
「何を今更。お前の場合、似合ってるし良いんじゃないか?」

 言ってしまってから真田は、「下手なことを言ったろうか」と不安になった。が、がおかしそうに笑うのを見て胸を撫で下ろした。

「ありがとう先輩。気持ち悪がられてないなら良いんだ。普通はそう受け入れられるモンじゃないですからね。いやぁ安心安心」
「ははっ、仮に注意したって直さないだろ?」
「お! 判ってますねー先輩」

 につられて笑う真田を、海の方から呼ぶ声がした。

「真田さーん! 次真田サンの番っスよー!」
「順平……? 俺の番って、何してんだアイツら……」
「いってらっしゃい先輩」
「待て

 我関せずと半歩下がるの手を、真田が掴んだ。

「え」
「お前も連行だ」
「えぇー……?」
「連行であります」
「ええっ!?」

 いつの間にかアイギスがやって来ていた。
 海の方で、奏夜がにやりと笑っている。どうやら彼の指示で、アイギスは動いたようだ。
 アイギスは真っ直ぐにを見つめている。

「皆が楽しい行動こそ、本当の“遊ぶ”であります。さんもご一緒するであります」
「アイギスの言うとおりだ、

 アイギスはをひょいと抱えた。が目を丸める。
 機械の乙女なのだから、確かに力は強くても不思議はない。だがしかし、何故自分は抱えられたのだろうか。
 そのまま、アイギスは海にざぶざぶと入って行く。機械の体が錆びたりはしないのかと、どうでもいいことが気になった。驚きが勝るは、抵抗らしい抵抗もしない。

「よし、アイギス」
「はい」

 不意に奏夜が合図すると、アイギスは頷き――を投げた。

「っぎゃーーー!!?」

 絶叫と共にが海に落ちる。どぼんっと盛大な音を立て、勢い良く水飛沫が上がった。
 慌ててがもがいて顔を出す。

「げほっ、げほっ! っうぇ、水飲んだろ馬鹿リーダー!」
「昨日の仕返しだ」
「根に持ちすぎ! 俺泳ぐのむちゃくちゃ不得意なんだぞ!」
「足が着くから、ここ」
「気ぃ遣ってるようで遣ってないからなソレ!」

 がばしゃばしゃと水を跳ねさせながら奏夜を追い掛け始めた。「膝が浸かるだけ水がありゃ人は溺れるんだよ!」は子供のように喚いていた。
 に追われながら、奏夜がすかさず叫ぶ。

「アイギス援護を!」
「了解であります」
「ぶばっ!?」

 物凄い勢いで水鉄砲らしきもの――鉄砲と呼ぶに相応しい衝撃だった――が目掛けて飛んできた。直撃を受けたがまた海に倒れる。
 慌てて順平が寄って来て、を引き上げた。

「大丈夫か! オレもアレ食らったから気持ちは判るぞ!」
「っ、ぐぅぅう……悔しいぃぃい……!」
「よっし、こうなったら奏夜に集中砲火だ!」

 びしっと宣言する順平に、体勢を立て直したも頷く。
 それからは、真田を振り返った。いつになく真剣な眼差しが真田を捉えている。

「真田先輩も手伝って!」
「わ、判った! 何をしたらいいんだ?」
「何かして!」
「えっ!?」

 戸惑う真田を余所に、と順平は奮闘を始める。
 その様子を見て風花が笑った。

くんたら、指示がアバウトすぎ」

 風花だけでなく、女性陣は被害を免れていた。穏やかに皆を見守りながら談笑している。

「やっぱり天谷くんみたいには指示できないよね。にしても真田先輩……」
「明彦のあの戸惑いよう、珍しいものが見れたな」

 水の掛け合い合戦を、楽しそうに眺めながら笑い合う美鶴たち。
 しかし、真田が避けたアイギスの水鉄砲がゆかりに直撃したことが発端となり、結局は全員で子供のようにはしゃぎ倒した。
 こうして、三泊四日の屋久島旅行は、あっという間に幕を閉じたのであった。

prev Top next