ラウンジのカウンターに置かれた、ガーベラの鉢。鮮やかなピンクのそれは、思ったより空間に馴染んでいる。
が買ってきたその鉢を、ゆかりと風花は大層誉めてくれた。特にゆかりの好みにヒットしたようで、いささか暗かった彼女も笑ってくれたほどである。美鶴も「本当に女性のようなセレクトだな」などと、珍しくからかうような明るい口調でに話した。
彼女たちのリアクションに、は癒されていた。癒されながらも、その思考は複雑化していった。
ジンが敵として現れた時の冷たい眼差しも、先の満月の夜にこびりついたチドリの悲鳴も、だいぶ整理がついていた。それでも尚、の中は暗い。
原因は、荒垣と真田の口論。――駅前で目撃したあれであった。どうにも、引っかかる言葉があるのだ。
『ペルソナの制御がうまくいかない場合、無理矢理押さえ込むクスリがあるとな……。お前も使っているのか!?』
真田の剣幕は、尋常ではなかった。
『副作用はもう出てるのか』
あの真田の口振りでは、「荒垣は副作用が出るような危うい薬を飲んでいる」という風に聞こえた。それを荒垣は肯定しなかった。しかし否定もしなかった。
杞憂かもしれない。
聞き間違いかもしれない。
どちらでもあり、どちらでも無いのかもしれない。
ひとつ悩みが解決するたびに、また新たな悩みがこびりつく。
はひっそり舌打ちした。
そんな、ラウンジでぼんやり思い悩むのもとに、小柄な人影がひとつ近づく。
風花であった。
「くん、今日は探索するらしいから、用事がなかった何時もと同じく集合してね」
「あー、もう良いんだっけ」
の質問が何を指しているのか、聡い彼女はしっかりと理解して答えた。
「うん。ストレガのあの子……チドリさんの尋問も一区切り、なんだって。満月のシャドウも倒したわけだし、新しい場所が行けるようになってるだろうし」
「だよね。探索を疎かにする訳にゃあいかんもんね。……順平くんは?」
「参加するって」
「そっかそっか。オッケーです了解!」
笑い返すに、あ、と風花は声を漏らした。どうかしたのだろうかとは彼女の言葉を待った。
返しかけていた踵を戻し、風花が首をかしげる。
「くん……最近バイトに行く回数減った?」
さすが風花は、皆をよく見ているものだと思う。
確かにはバイトを減らしていた。理由は色々だ。バイトと探索という二足のわらじに、いい加減体が限界を迎えていたのもある。探索にもっと集中したい、などとも考えていた。
は頷いた。
「ああ、うん。結構辞めたんだ」
「やっぱり……探索もあると大変だよね」
「それもあるけど、さ」
は笑う。
「そういうの、ひとり減ったって、代わりは結構ラクに見つかるもんだから」
たかだかバイトなのだ。自分がいなくなっても、代わりの誰かがすぐに雇われるだろう。そこら中に候補は溢れているのだ。
バイトだけに限ったことでは、無い。
「思ったより、上手いこと代わりって補充されるんだよねぇ……」
そう。世の中はそういうものなのだ。
バイトに限らず、代わりなんて幾らでもいる筈だ。戦いにしろ日常にしろ、何にしろ。
――少なくとも“俺”の代わりは。
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