ある所に、それはそれは仲睦まじい夫婦がおりました。
 ようやく授かった子が生まれる日を楽しみに、それは仲良く暮らしておりました。
 晴れた日のことです。ふと、妻が庭の向こうに目をやると、沢山の果物や野菜が生い茂っていました。
 その中に、それはそれは美味しそうなラプンツェルが生えておりました。

「あのラプンツェル、美味しそう」

 しかし、その庭は、恐ろしい魔女の庭です。それでも妻は、ラプンツェルが食べたくて仕方ありません。
 その想いは募り、妻はげっそり痩せこけてしまいます。

「あのラプンツェルを食べなければ、私、死んでしまうわ……」

 愛する妻のために、夫は魔女の庭に忍び込みました。
 そうして、妻のためにラプンツェルを何度も取って来てやりました。
 けれどもある日、運悪く魔女に見つかってしまいます。
 夫は、事情を説明し、許してくれるよう頼みました。

「分かった。なら、好きなだけラプンツェルを食べさせてやると良い。しかし、君達の子供が生まれたら、私がその子を引き取らせてもらおう。約束だぞ?」

 夫は、心配に気を取られて約束してしまいました。
 そうして、ついにお産の日となります……。
 魔女がやってきて、約束どおり子供を引き取っていってしまいました。
 子供はラプンツェルと名付けられ、今は、高い高い塔のうえに、ひとりっきりで暮らしているのです――。
 入口の無い、ラプンツェルがいる高い塔へ上る方法はひとつでした。

「ラプンツェル、君の長い髪をたらしておくれ」

 魔女が言うと、ラプンツェルはたった一つの窓から長い長い黒髪をたらします。
 それをはしごのように上って入るのでした。

「毎度思うんだけど、俺の毛根大丈夫かなぁ……」
「大丈夫だラプンツェル。この桐条美鶴の魔力に抜かりは無い。君も私の力の恩恵を受けていると言うことさ」
「なるほど~」

 美しく育ったラプンツェルは、一応男子でした。

「また入り用があったら気兼ねなく鳩でも捕まえて飛ばしてくれ」
「大丈夫です。いっつもありがとう美鶴さん」
「なに、当然の義務だ」

 そうして魔女はまた、ラプンツェルの髪を伝って帰りました。
 ラプンツェルは監禁生活になんら疑問を抱きませんでした。なにせ、魔女は親切な美人でしたから、一応男子であるラプンツェルは文句もつけようがなかったのです。

『外界には、危険もいっぱいだからな』

 ラプンツェル自体がかなりマイペースだったので、「まあ、外ってそんなもんなんだろなぁ」と納得していました。

 そんなある日、いつものようにラプンツェルは暇潰しに歌を歌っていました。

「風の… …の粒 まどろむキミに……」

 そこに近付く、ひとつの影。
 影は、馬に乗ったまま塔の下で立ち止まりました。

「良い歌だな……」

 眩しい銀髪、調った容姿。何処か勇猛さを忘れないその人は、この国の王子でした。
 王子は歌声の主を一目でも見たいと思い、塔の入口を探しました。
 しかし何処にもそんなものはありません。

「くっ、何処から入れば良いんだ!? こうなったら……」

 王子が塔の壁を上ろうと鉤爪のついたグローブを取り出しかけた時です。

「アキ! 何してんだ帰るぞ!」
「ワンワンッ!」

 幼馴染みの従者と、狩りのお供である白い柴犬に見つかってしまいました。
 こうして王子は、仕方なしに城へと帰ったのでした。

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