峡谷を跳ね回るアマゾネスの後を、ヴァルキリーが必死に追いかける。
 ようやっと距離を詰めたと思いきや、武器を振るのが遅れ、逆にアマゾネスの槍をもろに胸部に受けてしまう。眼下の谷へと真っ逆さまに落ちたヴァルキリーは、強かに背中を地面へ打ち付ける。
 ヴァルキリーが体勢を立て直す前に、ダッシュで追ってきたアマゾネスが更に追い討ちの一撃を与えた。
 ライフポイントの尽きたヴァルキリーは、そのまま動かなくなってしまった……。

「ああっ! またブレイクオーバーですわ!」
「弱い……」
「ううっ、申し訳ございません……」

 はしょんぼりと項垂れて、対戦相手――三影ミカへ謝った。
 その落ち込みぶりを見て、ミカは同情するような眼差しを彼女に向ける。あんまり可哀想に思ったのか、ミカが静かに呟く。

「弱い……けど、さっきよりはマシ」
「本当ですか!? 良かったです、ミカちゃんのご指導のお陰ですわ!」

 はCCMを置くと、ミカの手を取ってぶんぶんと振った。ミカの一言がよほど嬉しかったらしく、さっきの沈みぶりは何処へやら、すっかりふやけた笑顔である。
 困ったようなミカが、手を握られたままバンたちの方を見た。
 バンたちは和やかな笑顔で様子を見守っている。ミカを助けるつもりは無さそうだ。
 結局ミカは、が満足するまで手を握られ続けていた……。
 ――ミカとのバトルを終えたは、バンたちと共に商店街へ繰り出した。

「バンくんたちの通う中学校、素敵ですわね! どの子もLBXがお強いですし……」

 最近、は積極的にLBXバトルをするようになっていた。バンたちに勧められたこともあるが、自身、“バトルをしなければ本当のLBXの良さを知ることはできない”と考え始めたからだった。
 そこで、よくバンたちと連絡を取り、一緒に行動し、彼らのバトルに参加させてもらうことにした。
 素人同然のを気遣いながら戦いをこなし、勝利を収めるバンたちの頼もしさは言葉に出来ない。
 足を引っ張るだけの自分が情けなく、逸る気持ちに反して上達しない腕前に、はひっそり悩んでいた。
 そんなの気持ちを知ってか知らずか、郷田が口を開く。

「最初に比べちゃ大分動けるようになったじゃねえか、
「そ、そうです、か?」
「ああ。まだまだひよっこには変わりねえが、確実に進歩はしてるぜ」

 素直に受け止められずにいるに、郷田はそう続けた。「バンたちもそう思うだろ?」郷田が訊ねると、誰からともなく頷いてバンたちは返した。

「逃げるだけじゃなくちゃんと戦おうってが頑張ってるの、見てて判るよ」
「武器の振り方もどんどん様になってきたし、あともうちょっとね」
「近接武器の扱いに慣れたら、今度は射撃だな! 俺がばっちり教えるぜ」
「みんな……ありがとう!」

 嬉しさで自然と笑みが零れる。は彼らとの友情を噛み締めるように胸に手を当てた。
 バトルに負けて悔しくても、友達が一緒だと、その悔しさが和らいでいく。そして、次は“絶対勝とう”と前向きになれる。
 友達がいれば、ただでさえ楽しいものが更に楽しくなっていく。
 今度こそは一緒に勝とう。次も一緒に勝とう。今のバトルは燃えたね。……そんな風に語り合える友達が、仲間がいることが、どんなに有り難いものなのか。は痛感した。

(仙道くんは……そんな風にお話しできるお友だちがいらっしゃるのかしら)

 バンたちに出会ってから、はふとそう考えることが多くなった。
 いつ見ても素敵な仙道くん。ひとりで三体のLBXを操れる仙道くん。人を寄せ付けがたい、孤高で涼やかな魔法使いさん。そういえば、どうして彼はひとりでいるのだろう?
 には、彼があえてひとりでいることを選んでいるように思えた。
 ひとりでいた方がマシだと思う何かがあったのかもしれない。だとしたらきっと、その時、彼は酷く傷ついたに違いない。
 そのために彼は、ひとりきりで強くなろうと決めたのではないだろうか?
 全ての憶測だったが、もしその通りだとしたら……あまりにも辛い。
 心に負った傷がどれほど人を苦しめるのか、はよく知っている。

(だとしたら、私は……もっと仙道くんのことを知って、仙道くんの力になりたい)

 は思った。
 バンたちと仲良くなれたように、仙道とも仲良くなれるのではないか。そうしたら、きっと、バンたちと仙道も友達になれるはず。みんなLBXが大好きな子供同士なのだ。
 落ち込みかけていた思考を、はそう考えて上向きにしていく。

「もっと、もーっと、バトル頑張りますわ!」
「その前にメンテナンスもしっかりね」
「はいです、アミちゃん……」

 その日もバンたちと夕暮れまで、LBXだらけの時間を満喫しただった。



◆◆◆



 LBX世界大会・アルテミス。
 明くる日も明くる日もLBXに明け暮れるうちに、あっという間にこの日がやって来た。
 ここのところ、アルテミスへ出場するバンたちの気迫ややる気に押され、も妙に緊張した日々を過ごしていた。
 そしてその緊張を抱いたまま、は、ヤマブキと共にアルテミス会場・お台場スタジアムへとやって来ていた。

「遂にアルテミスですわね。胸が高鳴りすぎて大変ですわ」
「大会バトルは勿論のこと、企業ごとのブースの展示も楽しみで御座います」
「そうですわね! わたくし今日のために、お小遣いをしっかり貯めましたもの」

 LBXと財布をしまってあるポーチを大事そうに押さえながら、は嬉しそうに呟く。
 世界大会なだけあり、様々な国から来たプレイヤーや観客があちらこちらを歩いている。

「北米チャンピオンに南半球統一チャンピオン……。トーナメントを見るだけでも圧巻ですね」
「ええと、仙道くんはDブロックですわね!」

 相変わらず仙道しか眼中に無い様子のは、素早く彼の出場ブロックを確認すると、早くもそのバトルへ思いを馳せ始めていた。

「ああ、仙道くんの戦いがこんな大舞台で堪能できるなんて夢みたいです! ジョーカーを操り、華麗かつ残虐に敵を屠る彼のバトルが早く見たいですわー!」
「お嬢様はワイルドな戦いがお好きでしたか……」
「仙道くんの戦いはワイルドっていうよりもっとクールで計算され尽くしているというか……とにかく大好きですもの!」

 熱く語ると聞き役に徹するヤマブキ。
 そこに、ぱたぱたと少年たちが駆け寄ってくる。アングラビシダスでアルテミス出場権を手にした、バン・カズヤ・アミの三人であった。

「こんにちは、! ヤマブキさん!」
「こんにちはですわ! バンくんたち、もうエントリーはお済みですの?」
「うん、今してきたところだよ。開会式までの時間、ブースとか色々覗こうと思って」

 世界大会というだけあり、バンたちの表情はいつになく真剣だ。

「バンくんたち……とても真摯な何かを感じますわね」
「えっ?」
「何て言ったら良いんでしょう。いつも以上の覚悟を感じると言いますか……」

 目を丸めるバンに、は笑った。

「ふふ、仙道くん目当てで来ましたのに、バンくんたちの戦いもとっても楽しみで困りますわ。目がもう一対あったら、どちらのバトルも存分に堪能できますのに」
「いや、普通に怖えーよ……それ……」

 カズヤの指摘には、そうですわね、とやはり笑みを絶やさずに答えた。
 改めて彼女は、バンたちの表情を見渡す。
 輝く眼差しに満ちる真っ直ぐな闘志。世界中の実力者が集う大会へ挑もうとする彼らに尻込みしているふうは無く、寧ろ“早く戦いたい”という気持ちでいっぱいの表情だ。他にも彼らの決意の中には、の考えも及ばないようなものが沢山込められているはず。
 の笑みは自然と深くなった。

「わたくし、仙道くんだけでなく、バンくんたちのことも応援してますわ! 頑張って下さい」
「悔いのない、全力のバトルが楽しめますよう私も応援しております」
「ありがとう、。ヤマブキさん」

 彼らに心からの激励を送った後、たちはその場を離れた。
 企業ブースを眺めながらロビー内を歩いていくと、の目に、見覚えある紫が飛び込んできた。

「仙道くんですわ!」

 反射的には駆け出していく。それをヤマブキは少し遅れて追いかけ、彼らを遠くから見守るような位置で足を止めた。
 沢山の人々で混雑していたが、自分の名前を呼ばれたことに仙道は気付いたらしかった。ゆるりと振り返り、その瞳で駆け寄ってくるを捉えた。
 仙道の前まで来ると、は満面の笑みを浮かべた。

「仙道くん、こんにちは! 開会式前にお会いできて良かった……」
「本当に来たんだな、あんた。暇にも程があるんじゃないかい?」
「暇でなくても仙道くんのバトルが見られるならば迅速に駆けつけますわ!」

 なぜか胸を張るに、仙道は呆れたような笑いをこぼす。

「まあ、良いさ。あんたの行動にとやかく言うつもりはないしね。精々迷子になって放送かけられないように気を付けるんだな」 
「ご心配には及びませんわ。そこまでお子さまじゃありませんもの。それより……」

 呟くの視線が、仙道の向こうへ移る。が見ていたのは、自分達のことを見つめる二人の少年であった。歳は恐らく仙道と同じくらいだ。

(仙道くんを追いかけてバトル観戦していたときに見たことがあるような、無いような……。駄目ですわ、仙道くんのバトルのことしか覚えてない……)

 二人の視線を気にしつつ、はおずおずと尋ねた。

「あのお二人は、仙道くんのお友達ですの……?」
「そんな訳ないだろ」

 仙道の即答から、は何となく察した。
 アルテミス出場権を有するプレイヤーは、サポートメンバーを最大二名までエントリー可能なのだ。いないよりはマシ、ぐらいのつもりなのかも知れない。
 少なくとも仙道の眼差しと口振りは、彼らを仲間だと思っていないことが判る。

(わたくしがもっと強かったら、仙道くんと一緒に戦えたのかしら……)

 はそんなことを考えたが、それが無理な話なことは彼女自身が一番判っていた。
 そうしているうちに、開会式の時間が迫っていた。
 エントリー選手を呼ぶ放送がかかり、仙道も会場への扉に向き直る。
 それを見て、は慌てて口を開いた。

「あのっ、仙道くん! 応援してますわ! 大会いっぱい楽しんできて下さいねっ」
「は? あんた似たようなこと昨日メールしてきてたよな……。いちいち言う必要あるのかい?」
「メールと実際に言うのとでは大違いですわ!」

 頬を赤らめながら叫ぶに、仙道は「声抑えろ」と眉を顰めた。しかし、不機嫌そうなその表情は一瞬で消え去る。が謝る間もなく、仙道は何時ものように涼しげな笑みを浮かべていた。

。お前、本当に変わり者だよ」

 そう言い残して、仙道はサポートメンバーの二人と共に会場内へと続く扉を潜っていった。
 そんな彼の背をしばらく名残惜しそうに見つめていたもまた、足早に観客席へと向かったのであった。

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