観客席は満員だ。今か今かとアルテミスの開催を待ちわびる人々の熱気で、会場内は外より温度が高く感じられる。
 会場の照明が一段落ちて、代わりにスポットライトが灯った。スポットライトは、会場中央のステージと、そこに立つMCの姿を照らしだす。
 マイクを片手に、奇抜な出で立ちのMCは話し始めた。

『2046年、“強化ダンボール”の発明によって、世界の物流は革命的な進歩を遂げた……。革新的な“未来の箱”が運送手段の常識を覆したのだしかし、その箱は全く別の目的で使われることになる。ホビー用小型ロボットLBXの戦場として』

 会場にいる全ての人間が、MCの言葉に耳を傾けている。も固唾を飲んで成り行きを見守っていた。

『少年たちの戦いはストリートを飛び出し、そして世界へ飛び出した……。集え、LBXプレイヤーたちよ。世界の頂点をかけて。――これより! 第三回LBX世界大会アルテミスを開幕いたします!』

 開幕宣言に会場はどっと沸いた。老若男女入り乱れた熱狂的な叫びが場内を満たす。
 ここでMCは、アルテミス優勝賞品の説明へと入った。

『今回のLBX世界大会アルテミスのその栄えある優勝者に与えられる賞品は……こちらです!』

 会場じゅうの人々と同じように、はMCが手を翳した方へ目を移した。
 MCが指した方向からやって来たのは女性だ。ちょうど会場の受付にいたコンパニオンである。
 どういうことなのか人々が戸惑うなか、女性はステージの中央に立つ。モニターにも彼女がアップで映し出される。
 女性が微笑むと同時に、驚くことが起こった。
 彼女の胸が機械のように展開し、その中から小さな機械部品が押し出されてきたではないか。
 それを確認したMCは再び口を開いた。

『今回の賞品は、この高性能アンドロイドをたったひとつの回路でコントロールできる超高性能CPU、メタナスGXです! エントリーされた中で、こちらの受付嬢がアンドロイドだとお気づきになった方は、どれぐらいいらっしゃるでしょう?』

 MCはそう言ったが、恐らく気付いた者はいなかったのではないだろうか。表情も自然で、会話にもおかしいところもなく、人間そのものだった。会場にも驚いた人々のどよめきが広がっている。

「素晴らしいですわね、メタナスGX!」
「通常のLBXに搭載されているCPUの200倍……。想像もつかない高性能ぶりですね」
「たまりませんわぁ! 本当にたまりませんわぁ!」

 は心から願っていた。
 メタナスGXを手にする優勝者が、仙道であることを。
 だからといって仙道以外に興味がない、という訳ではなかった。
 バン・カズヤ・アミの3人の実力は相当だし、檜山もといレックスが郷田と共に参加していることも楽しみだ。かつてバンと激戦と繰り広げた海道ジンのエントリーも確認できた。
 各地域のチャンピオンも揃い踏みした、世界大会に相応しい豪華さである。

「早速Aブロックは郷田くんとレックス様の登場ですわね! あれがレックス様の機体、Gレックス……。かっこいいですわね、ワイルドですわー!」
「郷田君のハカイオーも負けず劣らずのワイルドさです」

 初戦からハカイオーとGレックスのコンビネーションは抜群だ。郷田の豪快な攻めをレックスがフォローし、二人の圧倒的なパワーで敵を倒していく。

「頑張って下さいー! これはもう、お二人のAブロック優勝は間違いないですわ!」

 順調に彼らが勝ち進むのを見て興奮気味であるを、「それはどうでしょうか」とヤマブキが制した。

「このブロックには“秒殺の皇帝”、海道ジン様がいらっしゃいます。流石のレックス様たちも一筋縄ではいかないと思いますよ」
「でもレックス様と郷田くんの息ぴったりな連携に、ひとりのジンくんは不利だと思いますわ……」

 は、ジンの実力をよく知らない。アングラビシダスで僅かに見たきりであり、後はバンたちから聞いた印象が頼りだった。
 そのバンたちは彼を“強敵だ”と言っていた。今大会でも一番の強敵は彼だろうと話した。
 バンにとって彼はいわばライバルのようなものらしい。
 間違いなく実力者であることはも理解している。
 しかし、その力の予想がつかない。
 ――Aブロック準決勝。
 遂に、レックスチームとジンの戦いがやってきた。

「実質、これがこのブロックの決勝戦という感じが致しますわ」
「恐らくそうでしょう」

 が固唾を飲んで見守るなか、バトルスタートの掛け声が響いた。
 それと同時に、ジンの操るエンペラーM2が必殺ファンクション・インパクトカイザーを放った。振り下ろされたハンマーが地を砕き、地底のエネルギーを噴出させる。
 迫り来るエネルギーを前に、Gレックスが動いた。己の拳で地面を叩き割り、インパクトカイザーを相殺したのだ。
 そのGレックスの背後で、ハカイオーの胸部が輝き出す。光のエネルギーが最大限に充填されると、瞬間、エンペラーM2目掛けて光線として放出した。ハカイオーの必殺ファンクション・我王砲である。
 エンペラーM2はハンマーを掲げると、そこからミサイルを撃った。ハンマーとランチャーが一体となった武器のようである。ミサイルがハカイオーの技を相殺し、大きな爆発と風が起きる。

「なんて激戦でしょう……」

 無意識のうちには呟いていた。
 爆風の中を突っ切って、GレックスがエンペラーM2へと迫っていた。Gレックスの拳が赤く燃え上がり、強烈な打撃をエンペラーM2へ叩き込む。ガトリングバレット、Gレックスの必殺ファンクションが決まった。その拳の全てをエンペラーM2はもろに受けてしまう。
 ――しかし、エンペラーM2は耐えきった。それどころか、あの猛攻を受けたとは思えぬほどダメージが無い。装甲はほぼ無傷である。
 がそれに驚く間もなく、エンペラーM2は……ジンは、動いていた。
 Gレックスの支援に駆けつけたハカイオーを、ハンマーの一振りでブレイクオーバーさせる。そして背後を突こうとしていたGレックスに向き直ると、再びランチャーのミサイルを撃ち出し、あっという間に撃破したのだ。
 2対1など、ジンにとってはなんら不利ではない……。彼は、数の差を埋める圧倒的な実力を見せつけた。
 瞬く間の連続撃破に、は呆然としていた。

「なんてことですの……。ジンくんってこんなに強いんですの……?」
「まさかこれほど鮮やかに勝利なさるとは……」

 会場内に、ジンの勝利と決勝進出を告げるコールが響く。会場の歓声に包まれながらも、ステージ上のジンは無表情であった。寧ろ不機嫌そうに見えるほどだ。
 ジンは次のAブロック決勝バトルにおいても、3対2という不利をものともせず相手を数秒で撃破した。
 彼のファイナルステージ進出が決まったのである。
 ジンの強さに圧倒されるとヤマブキは、続いて始まったBブロック予選でもまた度肝を抜かれた。

「――グラディエーター、ブレイクオーバー! Bブロックを制したのは謎の仮面の男・マスクドJの操るマスカレードJです!」

 MCのコールに反応して、再び会場じゅうから声が沸く。
 無名の選手・マスクドJが、北部チャンピオンを圧倒し、ファイナルステージ進出を決めたのだ。恐らく彼のハンドメイド品であろうLBX・マスカレードJは、華麗な剣さばきと卓越したスピード、そして抜かり無い戦術で観客たちを盛り上げた。これほどの実力者を誰も知らないのはおかしいのではないか、というほどだった。
 よりLBXに詳しいヤマブキも、彼を見たことがないと言う。
 不思議ではあったが、はそれ以上考えることを止めた。
 Cブロック予選――バンたちのバトルが始まろうとしていたのだ。

「バンくん、アミちゃん、カズヤくん、応援してますわー! きっとこのブロック優勝間違いなしですわー!」
「いきなり北米チャンピオンとの戦いとは、胸が熱くなりますね」
「ええっ、いきなり強敵ですわね……。でもここを乗り越えればばっちりってことですわね!」

 一瞬は焦ったものの、すぐに笑顔に戻った。
 アルテミスに初出場であるバンたちが苦戦を強いられるのは違いない。しかし、バンたちならば乗り越えられるとは信じていた。

「なんてったって、無限の可能性がありますもん」
「はい?」
「こっちの話ですわ、ヤマブキさん」

 の楽しげな姿に、ヤマブキはそれ以上何も言わなかった。

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