バンたちの戦いは順調であった。
初戦の北米チャンピオンを、バンとカズヤの連携で次々と撃破。アキレスの近距離戦、ハンターの遠距離戦のスキルが遺憾なく発揮されたバトルであった。
二回戦のシングルバトルでは、バンが出場し難なく制する。
準決勝のタッグバトルでは、カズヤとアミが出場した。アミの操るクノイチのスピードを生かした連続攻撃、ハンターの精密な射撃で、ズールとムシャの2機をあっという間にブレイクオーバーさせてみせた。
そうして決勝に勝ち進んだバンチームの対戦相手は、アジアエリアチャンピオンの森上ケイタ・木下コウジ・中林レイナチーム。今大会の優勝候補に挙げられる強敵だった。
初出場ながら確かな実力を発揮し勝ち進むバンたちと優勝候補の戦いとあり、会場はすっかり盛り上がっている。その熱気にもつられていた。
「来ましたわね、来ましたわね! 激戦区を勝ち進んで遂にバンくんたち来ましたわね! 相手はアジアエリア制覇者! でっかいですわねえ、これは燃えますわねえ!」
「お、お嬢様。落ち着いて下さい。今それだけ興奮すると仙道君の戦いまで持ちませんよ!」
「あっ……。そ、そうですわね」
半ば立ち上がりかけていたところだったが、は我に返った。自分の後ろや周りに座る観客に「すみませんでした」と深々頭を下げ、改めて席へ腰を下ろす。
Cブロック決勝戦が始まった。
先に動いたのはバンたちだ。アキレスがケイタの操るウォーリアーと対峙し、クノイチはレイナのアマゾネスとの攻防を繰り広げ、ハンターはコウジの操作するブルドと遠距離攻撃同士の戦いを始めた。1対1の戦いに持ち込む作戦のようだ。
しかしケイタたちも、ただバンたちの作戦に掛かったわけではなかった。
あえてケイタたちは攻撃を止め、退却し、隙を作り出した。それが罠だと気付かずに近づいたハンターの両腕を、ウォーリアーとアマゾネスが捕らえてたのだ。
身動きのとれないハンター目掛けて、ブルドがライフルを構え――引き金を引く。
「ああっ、ハンターが!」
思わずは叫んでしまった。
直撃すればハンターのブレイクオーバーは確実である。しかし……そうはならなかった。
弾幕が消え、バトルフィールドを確認した観客たちがざわめく。
なんとハンターは無事であった。駆けつけたアキレスとクノイチが、ハンターを庇いに入ったのだ。しかし二機はダメージを負ってしまった。クノイチの左腕が落ち、アキレスは足の駆動部を痛めたのか膝をつく。仲間を守りきったものの、その代償は大きい。
誰もがケイタチームの勝利を想像した。
だが、ここからがバンチームの本領発揮となった。コンビナートジオラマの入り組んだ地形を生かして姿を隠したのち、ケイタたちの意表を突く連携を決め、ブルドとアマゾネスを連続で撃破したのだ。
その後ウォーリアーは必殺ファンクション・トライデントでハンターとクノイチを倒したものの、バンの繰り出した必殺ファンクション・超プラズマバーストの直撃を受け、ブレイクオーバー……。
――こうして、見事にバンたちがCブロックを制覇したのである。
「やりましたわー! バンくんたちの大勝利ですわ!」
バンの超プラズマバーストの迫力は凄まじかった。その名に恥じぬ、太陽のように燃えるプラズマの輝きと共にウォーリアーへ突進した姿の勇ましさに、は感激した。
「神々しさを感じさせるほどの眩さでしたわね、超プラズマバースト! バンくんったらいつの間にあんな大技を身に付けていたんでしょう」
「ほぼ互角の、見る方もワクワクする戦いでしたね」
「そうですわね、そして……次からは遂にDブロックなんですわね……!」
呟きながらはモニターを見つめていた。
いよいよ仙道のブロックで戦いが始まるのだ。そう考えただけで、またの心は高ぶっていく。期待や興奮がない交ぜになって、声もなく少女は頬を緩ませていた。
いそいそとCCMを取り出し始めたに、ヤマブキは訊ねた。
「お嬢様、写真を撮るおつもりですか」
「ええ。仙道くんから許可は頂いてますし、ミカちゃんから上手な撮り方を教わりましたのよ。そうですわ、この間とっても素敵な仙道くんの悪っぽい笑顔を撮ることができましたの! 良かったら見てみませんか」
「いいえ、大丈夫です……」
ヤマブキの返答に、そうですか、とは少し残念そうに呟いた。しかし興味はすぐにモニターへと移り、はきらきらと目を輝かせていった。
そしてモニターに仙道が映ると、「仙道くーん!」と黄色い声援を送った。
そんな仙道ダイキチームの初戦の相手は、大富豪アルシャヒーン兄弟チームだ。
「わたくしも聞いたことがありますわ、アルシャヒーン……。世界的に有名ですわよね」
「武器は特注。恐らく、普通のブルド改に見えるあのLBXも特注でしょう。資金がある大富豪ならではのスタイルですね」
「お金頼りでは、仙道くんのハイスキルについていけませんわ! しかもジョーカーがジョーカーMk-2になったんですのよ!? カスタマイズ済みでしょうし、もうこれは仙道くんの独壇場ですわよ!」
何故かは自慢げに胸を張って言い切った。
しかしバトルが始まると、アルシャヒーン兄弟の特注武器の恐ろしさが露になった。
兄弟の武器であるレーザーキャノンから放たれる極太のレーザーが深々と地面を抉り、爆発と共に粉塵を上げていく。
その威力に、会場は騒然とした。一撃でも食らえばブレイクオーバーどころか、破壊は免れないだろう。
「どんな武器で挑むかもLBXバトルの醍醐味だと、カズヤくんが教えてくれましたわ。でも、これじゃあんまりですわ……」
はらはらとしながらがそう溢す。
ジョーカーMk-2も、一緒にバトルに挑んでいるメンバー・風間のオルテガも、レーザーを回避することに専念している。特に風間は見るからに焦っていた。
「おい、ダイキ! このままじゃやられちまう!」
「もう少し遊んでやれるかと思ったんだが……仕方ないねえ」
仙道の何時もと変わらぬ余裕ぶりを見て、は瞬きする。そして同時に、自身の心配が杞憂であることを察した。
ジョーカーMk-2が、不意に前線へと飛び出していく。
レーザーを高速移動でかわしながら、ジョーカーはアルシャヒーン兄弟のいる高台へ一気に登り詰める。
そしてジョーカーはいつの間にか、アルシャヒーン兄弟の真後ろへと立っていた。
しめた、とばかりに弟がレーザーを放った。高速かつ高威力の光が大地を削りながらジョーカーMk-2へ向かって行く。
瞬間、大きな爆発が生じ、土煙が周囲を包み込んだ。
いくら素早いジョーカーMk-2の性能を持ってしてもこの距離では避けきれないかと思われたが――。
「残念だったね、ジョーカーはこっちだよ」
仙道は不敵な笑いを浮かべ、そう呟いた。
レーザーに当たったと思われたジョーカーは、逆にブルド改を切り伏せていた。爆発は、このブルド改が両断された時に起きたものだったのだ。
会場が盛り上がり、MCも興奮気味に叫ぶ。
「出ました! 箱の中の魔術師、仙道ダイキのイリュージョンバトル!」
「待ってましたわー!! かっこよすぎですわー仙道くんっ!」
も両手を握り締めながら、存分にその感動を表現していた。幾度となく、素敵、かっこいい、と連呼している。いつの間にか、写真を撮ろうと構えていたはずのCCMを手放していた。それどころではなくなったのだろう。
今この会場内で一番興奮しているのは、きっと彼女に違いない……。のCCMを受け止め、代わりに仙道の写真を撮りながら、ヤマブキはそう思った。
瞬く間にジョーカーMk-2は、オルテガとの連携によってもう一機のブルド改を仕留める。仙道たちの初戦突破が決まった。
「やったあああ! 仙道くんかっこいい! かっこいいですわ、メンバーとの連携もばっちりですわ!」
「よかったですね、お嬢様」
「はい! わたくしもう興奮で倒れてしまいそう! でも堪えますわ、仙道くんの勇姿を一瞬でも多く記憶に焼き付けませんと……」
の感慨無量といったふうの呟きに、ヤマブキはひっそりと笑った。
ペースを崩すことなく、順調かつ圧倒的な余裕を見せつけながら、仙道チームは勝利を重ねていった。その度にも歓声を上げる。すっかり頬は紅潮し、輝き続ける眼差しは仙道を追い続ける。
そんな彼女に反して、ヤマブキは冷静に対戦を見つめていた。
仙道チームのスキルは高い。しかし、それに負けず劣らずのバトルを見せる選手があった。
――ユジン・またの名をオタクロスの弟子、オタレッド。
一人でのエントリーながら、彼もまた順調に勝ち進んでいた。バトルが始まる前は気弱な青年に見えたが、戦隊ヒーローのような仮面を被り赤色のジャージを身に纏うと、人が変わったように快活になった。そのギャップの差やインパクトに一瞬混乱するが、ハンドメイト品であろうLBX・ビビンバードXと2丁拳銃を操る腕は確かだ。
「まあまあ、あっという間に決勝ですのね! 楽しい時間は過ぎるのが早いですわね」
「そうですね、お嬢様」
が想って止まない仙道ダイキチームと、ヤマブキの見つめていたユジンチームは、Dブロック決勝戦にて相対することになった。
『いよいよDブロックも決勝戦! 評判通りの強さで勝ち上がってきた仙道ダイキ・風間アタル・森野ショウチーム! 対するはユジンまたの名をオタクロスの弟子!』
MCのチーム紹介アナウンスを受けて、ユジン……オタクロスの弟子は、慌ててオタレッドの衣装に身を包んだ。
オタレッドへと変身した彼は、声を張り、名乗りを上げ始めた。
「我が名はオタクロスの弟子・オタレッド! この世に悪がある限り、私の戦いは終わらない! アルテミスの平和は私が守る!」
戦隊ヒーローさながらの口上を聞いて、風間と森野があからさまに顔をしかめた。
ふと仙道は一枚のタロットカードを取り出した。そして何時ものようにそのアルカナを確かめると、不敵な笑みを浮かべてカードを返し、オタレッドに見せつける。
「……とっとと裁いてやるか」
彼が引いたカードのアルカナは“審判”の正位置。
裁きのカード。
モニターに映る審判のカードと仙道の鋭い眼差しを見て、はどきりとした。無意識のうちに胸に手を当て、心臓がいやに強く跳ねるのを必死に押さえようとする。
「この占いの意味は、仙道くんがオタレッド様に審判を下すってことでしょうか」
ときめきとも恐怖ともつかない、曖昧で妙に落ち着かない感情がの胸中を満たしていく。
不安げに呟いたに、ヤマブキは静かに答える。
「戦いを見ていれば、きっと私たちにもその意味が判るでしょう」
「そう、ですわね」
は小さく頷いた。
仙道くんが勝てますように。また素晴らしいバトルが出来ますように。
そう祈りながら、はMCの解説に耳を傾ける。
『チーム総力戦のトーナメント決勝戦バトル、仙道ダイキチーム三名に対したったひとりのユジン選手、戦力的に不利に見えるが果たして!?』
「たとえ一人でも私は戦い続ける! っ、ごほっごほっ!」
オタレッドが口上と同時に自身の胸を強く叩いた。強すぎたのか、大きく蒸せてしまう。「心に燃える正義がある限り!」だが、ひとしきり蒸せたのち、気丈にそう続けた。
観客もMCも呆気に取られるなか、Dブロック決勝バトルの幕は切って落とされた――。
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