「かかってくるが良い! 手品師の使うイカサマに遅れをとるオタクロスの弟子ではない!」

 戦いが始まると、オタレッドは挑発するようにくいくいと片手で手招きしてみせた。まるでアクション映画のワンシーンのような仕草だ。
 しかしその台詞たちは当然ながら仙道の気に障った。彼がミソラ一中を仕切る番長であることを思い出させる、凄みある眼光がオタレッドへ向けられる。

「あ? イカサマ……?」 
「あっ、すいません、言い過ぎました……」

 凄みに負けたオタレッドが素に戻り頭を下げるものの、意味は無かった。
 仙道は口の端を吊り上げながら、先の占いで取った“審判”のカードを翳す。とても中学生の少年とは思えない冷たさを持った表情であった。

「俺をイカサマ師呼ばわりか……。森野、風間、お前たちは見てな」

 仙道はメンバーの二人に手を出さないようにそう告げると――動いた。
 ジョーカーMk-2が、ビビンバードX目掛けて高速で駆けていく。今までのバトルでは相手の出方を待っていた仙道が、自分から攻撃を仕掛けに行ったのだ。

「ぶった切ってやるよ!」

 荒々しく叫ぶ仙道に応じて、ジョーカーMk-2が鎌を振り上げてビビンバードXへ襲いかかる。黒い三日月の刃を跳ね回るようにかわしながらオタレッドはその猛攻に耐えしのぐ。

「やるな……」
「踊りな、俺のイリュージョンで!」

 仙道が素早くCCMを操作すると、更にジョーカーMk-2のスピードが上がっていく。その速さは衰えるどころか、どんどん増していく。残像を残すほどの高速移動で、ジョーカーMk-2はビビンバードXの周囲を走る。
 そしてふとその動きが止まったかと思うと、彼のイリュージョンの真骨頂である分身したLBXが、ビビンバードXを取り囲んでいた。
 しかもこの分身はアングラビシダスの時とは違う、本当の分身なのである。アルシャヒーン兄弟との戦いなどで見せた瞬間移動するジョーカーMk-2の正体も、この分身だったのだ。

「チューンナップとカスタマイズを重ねたジョーカーMk2、こいつに勝てる奴などいない!」

 仙道の技術と、鍛え上げられたジョーカーMk-2が起こした真の分身、イリュージョンバトル。
 その凄まじさには奮えた。

「仙道くん素敵ですわ! 遂に真の分身を編み出したその類い稀なるセンスとテクニックの高さ! さすが箱の中の魔術師! なにもかもハイスペックな仙道くん格好良いですわあああああ!」
「まさか分身攻撃の進化した姿が見られるとは感激です」
「ヤマブキさんも仙道くんの素晴らしさに参ってしまったようですわね、さすが仙道くん! 圧倒ですわ!」

 の興奮に限界は無いのだろうか。見ているほうが心配になるほど彼女ははしゃぎ、興奮している。その勢いは増し、仙道を応援するあまり我を失いかけている。
 そんなヤマブキの不安を他所に、「一気に両断ですわ!」と物騒な声援を送り始める
 ヤマブキは、彼女の気持ちに水を差さないために、声を掛けないようにしようと決めた。
 がヒートアップするのも無理はないほど、バトルも激しさを増していた。
 ジョーカーMk-2の分身による連続攻撃を、ビビンバードXはやっとのことで防いでいる。しかし三体の分身による同時攻撃を食らい、ビビンバードXは宙へと打ち上げられてしまう。

「ビビンバードX!」

 思わずオタレッドが叫んだ。
 ジオラマの高層ビルに激突するも攻撃の衝撃は衰えず、そのままビビンバードXはビルの屋上まで吹き飛ばされていった。ガラスや瓦礫が周囲に飛び散り、半壊したビルから舞い上がる粉塵が辺りに立ち込める。

『決まった! 仙道ダイキ選手のジョーカーMk-2、恐るべきスピードによる分身攻撃、ビビンバードを圧倒です!』

 MCの実況と、ジョーカーMk-2の攻撃に観客が歓声を上げる。
 分身すべての攻撃をもろに受けたビビンバードXが姿を現さないのを見て、仙道はフッと笑いながら吐き捨てるように言う。

「俺をなめるからこうなるんだよ」

 そんな仙道を見て、風間と森野も勝利を確信して笑い始めた。

「さすがだな、ダイキ」
「俺たちの出番はなかったな」

 彼らが揃って口を開いた時――オタレッドは静かに呟いた。

「私はまだ、倒れません」

 はっとして仙道たちはもう一度バトルフィールドへ視線を移す。観客もMCもそれに続いた。
 そして皆が驚きに目を丸めた。
 何と、半壊したビルの頂上で、太陽をバックにビビンバードXがポーズを決めているではないか。ダメージも殆ど無さそうだ。分身攻撃を受けきったとは思えぬ軽快な動きで、ビビンバードXはビルから飛び降り、地面へと着地する。

「私の後ろには敬愛する我が師・オタクロスと信頼する仲間たちがいる。私は決して負けない!」

 熱く語るオタレッドの背後に、燃え上がる炎のようなオーラが見える気がした。
 その熱さに、仙道は眉を顰めた。暑苦しいものや仲間という言葉は、彼に不快さを与えた。
 郷田とはまた別の熱血さを持つオタレッドに、仙道は苛立ちを募らせる。

「だったら……真っ二つにしてやるよ! その生意気な口ごとな!」

 怒りのままにビビンバードXへジョーカーMk-2を突進させる仙道。だが、一瞬のうちにビビンバードXはジョーカーMk-2の背後へと回り込んでいた。「何っ!?」驚愕し目を見開く仙道に、オタレッドは静かに語り始めた。

「確かに君のLBXは早い……。だが、早いだけ。仲間との連携も全くない。ならば! 一対一の戦いで負ける私ではない!」

 ビビンバードXがジョーカーMk-2を蹴り飛ばす。が、すぐにジョーカーMk-2は体勢を立て直した。それはビビンバードXも同じである。
 迸る闘志を感じさせながら、オタレッドは叫び、天を仰ぐ。

「見せてやろう、我が師より伝授されたオタクロス流LBX闘法を。師よ、どうか私に勇気と力を……!」

 再びポーズを決めたビビンバードXを見て、それまで黙っていたオルテガ二機――風間と森野が動き出した。

「調子狂うんだよ!」
「とっととくたばれ!」

 同時にガトリングガンでビビンバードXを狙うも、軽やかな動きで全てをかわされている。
 はその瞬間、モニターに映る仙道の表情が歪んだのに気付いた。
 バトル前に“手を出すな”と言っておいたのに動き出した二人を快く思わなかったのだろう。しかしあれだけの攻撃を受けてほぼ無傷のビビンバードXを見て、仲間ならば協力して倒そうと動かずにいられないものだ。
 しかしは不安になった。仙道は、明らかに気分を害されたような顔をしていた。ただでさえ苛立っているであろう彼の逆鱗に、チームメンバーたちは触れてしまったのではないか。
 アルテミス開会式直前、仙道と交わした会話を思い出す。

『あのお二人は、仙道くんのお友達ですの……?』
『そんな訳ないだろ』

 二人を友達ではないと彼は言った。つまり“仲間”ではないと言った。
 言いようのない不安がの中へ広がっていく。彼女は、見守ることしかできない状況を歯痒く思った。

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