ビビンバードの快進撃は続く。オルテガ二機を相手に、苦戦している様子は微塵もない。
 素早くCCMのボタンを叩きながら、オタレッドは叫ぶ。

「ひとつ、人より先を読み!」

 武器を手に迫っていたオルテガの動きを捉え、ビビンバードXがその背後に回る。

「ふたつ、振り向く隙も無く!」

 背後を取ったと同時に蹴り飛ばすと、続いてもう一機のオルテガへ向かっていく。ビビンバードXはそのオルテガにも攻撃を加え、吹き飛ばした。
 ジョーカーMk-2、二機のオルテガは、猛攻によって一塊に集められていた。まるでこのことすら計算していたかのようだ。最初は独特なオタレッドの勢いについていけなかった観客たちも、今やすっかり彼の実力を認め、騒ぎ立てている。

「みっつ、未来をその手に掴め! 我が名はオタレッド、オタクロスの弟子!」

 鮮やかな連続攻撃と、締めくくりのポージングが、会場に歓声を巻き起こした。
 も思わずポージングを凝視し、呆然としてしまった。しかし、すぐに我に返る。
 モニターには、焦りに顔を歪めた仙道の姿が映し出されていた。

「仙道くん、頑張って!」

 こんなに広い会場では届くはずもない声援だった。それでもは叫ぶ。
 攻撃を受けた余韻で体勢を崩したままのオルテガ二機の後ろで、ジョーカーMk-2がビビンバードXを見つめている。
「とどめだ!」オタレッドが叫び、ビビンバードXがジョーカーMk-2ら目掛けて飛んでいく。両手に構えた拳銃は、まっすぐに彼らへ狙いを定めてあった。
 オルテガ二機のダメージは大きい。風間と森野は、仙道に呼び掛けた。

「何て野郎だ……あいつ」
「どうすんだ、ダイキ!」

 後ろで慌てる二人の声に、仙道の顔から焦燥が消える。――代わりに彼は、ぞっとするほど冷たい笑みを浮かべてみせた。

「こうするさ」

 仙道が呟くと同時に取った行動は、信じられないものであった。
 迫り来るビビンバードXへ向けて、風間と森野のオルテガを蹴り飛ばしたのである。
 は悲鳴を上げかけ、慌てて両手で口を押さえた。
 何が起きたのか理解するまで時間が掛かった。それほど衝撃的な光景だった。
 風間たちにとっても仙道の行動は予想外であった。ビビンバードXにぶつけられた自身のLBXの姿を、信じられないといった目で見つめていた。
 たまらなくなった風間が、仙道に向かって叫ぶ。

「何すんだよ、お前!」
「お前たちの見せ場を作ってやってるんだよ」
「俺たちは仲間だろうが!」

 仙道の返答に、森野も怒鳴った。
 そんな二人を、仕方なさそうに仙道が振り返る。
 彼は二人を嘲笑っていた。とてもチームメンバーに向けるものとは思えないその表情は、彼らを蔑んでいるようだった……。
 二人を鼻で笑いながら、彼は呟く。

「馬鹿だねえ、お前らは俺が勝つための駒に過ぎないんだよ」

 怒りの余り言葉すら出なくなった風間と森野は、CCMを握りしめながら震えている。
 当然とも言える彼らの怒りすら嘲るように、仙道は笑いながら叫んだ。

「俺の弾除けになれて光栄に思いな! 食らえ、必殺ファンクション!」

 衝撃に次ぐ衝撃であった。仙道は、メンバーのLBXもろとも、ビビンバードXを破壊せんと必殺ファンクション・デスサイズハリケーンを放ったのである。
 オルテガ二機に絡まれ動けずにいるビビンバードXに避ける術はない。
 無慈悲な漆黒の竜巻が三機を巻き込み、何度も装甲を切りつけ、宙高くへと打ち上げる。そしてオルテガとビビンバードXは――大きな爆発に呑まれた。
 非情な仙道の攻撃に、MCも観客も静まり返っていた。
 もショックのあまり呆然としている。

「何てことですの……」

 どうしてか視界が霞む。は震える声で呟いた。先までの元気な声援は見る影もない。
 は心のどこかで信じていた。仙道の「友達ではない」という発言が嘘であることを。群れることを嫌う彼の照れ隠しなのではないかと。だが、その希望は潰えた。
 仙道にとって彼らは踏み台でしかなかった。チームではなく自身の勝利が全てだった。そのためならば当然の犠牲としてチームメイトをも使う。
 今の彼には“魔術師”よりも“死神”と評した方がしっくりとする気がした。
 や観客たちの静けさの理由など、仙道には全く関係も興味もない。爆発が収まるのを見て、仙道は再び笑う。

「なかなか楽しいバトルだったよ……なあ?」

 仙道が、自分を仲間だと信じていた風間たちを振り返る。
 あまりにも酷い仕打ちだった。裏切られた風間と森野は、何も言えずにただ仙道を睨んでいた。
 ――その時、彼らの代わりに怒号を上げる男がいた。

「愚か者めえええっ!」

 オタレッドであった。そして彼の叫びに呼応するように、爆風の中からLBX・ビビンバードXが舞い戻って来たではないか。ブレイクオーバーしたかに見えたビビンバードXは、無事だったのだ。
 ポーズを決め、戦場へ降り立ったビビンバードXに会場は歓喜の声を上げた。
 仮面のせいでオタレッドの表情は知れない。だが彼の激昂ぶりは、声音で十分に察することが出来る。
 怒りのままに仙道を指差しながら、オタレッドは続けた。

「勝つためならば友を傷つけることも厭わぬとは、なんという見下げ果てた奴……許せん!」
「何?」
「お前には見せねばなるまい。友の涙、そして私の怒りの拳を!」

 燃え上がる怒りを込めて、オタレッドがCCMのボタンを叩く。

「食らえ! ファイナルクライマックス・ビビンバードダイナミィイック、エクスプロォオオジョンッ!」

 オタレッドの声に答え、ビビンバードXは天高く舞い上がった。背中の翼が広がり、逆光を受けたその姿は、遥かな空を舞う鷲のように雄々しい。
 ビビンバードXは、ジョーカーMk-2の頭上まで飛ぶと、目にも止まらぬスピードで2丁拳銃を連射し始めた。
 必殺ファンクション・レインバレット――。銃を用いた必殺ファンクションの中でも、より技術を要する技のひとつである。オタレッドの長い技名は恐らく戦隊の設定か何かなのだろう。怒りながらもそんなところにはしっかり気が回せるのも、ある意味オタレッドの長所なのかもしれない。
 止まぬ銃弾の雨はそこかしこに降り注ぎ、ジョーカーMk-2が逃げ惑う。 

「く、くそ……!」

 それでも仙道は懸命にジョーカーMk-2を操作していたが、さすがの彼でも限界であった。
 数多の銃弾のうちひとつがジョーカーMk2の胸を貫いた。腕も、脚部も、胸への被弾を皮切りに次々と撃ち抜かれていく……。
 そうして、ジョーカーMk-2は撃破された。爆発が起き、黒煙と炎に呑まれ、その姿は見えない。
 ようやくビビンバードXは地に降り立った。ジョーカーMk-2の爆発を背に受けながら、銃を構え、戦隊ヒーローさながらのポーズを決める。
 は愕然とした。瞬きを忘れて、モニターを見つめ続けている。
 ――仙道くんが、負けたの?
 呆けるの心を、会場じゅうに響く歓声と、MCの放送が揺さぶった。

『ジョーカーMk-2ブレイクオーバー! トーナメントDブロック、ファイナルステージ進出を決めたのは、ユジン選手だ!』

 まるでヒーローショーだ。極悪非道な悪役を、主役である正義の味方が駆け付け退治する、勧善懲悪の王道ストーリー。
 しかしにとっては、周りからすれば悪役のような行いをした仙道が“主役”であった。
 何にも代えがたい主役だった。
 仲間を見捨てた仙道に非があることは判っている。それでもは、仙道の勝利を願った。
 だが叶わなかった。

(アングラビシダスと同じですわ……)

 私が願うからいけないの? は酷く落ち込んでいた。
 一言も発しようとしないの様子を、隣に座るヤマブキが心配そうに窺っている。
 ――ステージ上にいる仙道もまた、自身の負けを信じられないような顔でジオラマを見つめていた。

「バカな……」

 分身攻撃をものにし、機体は幾度となく調整し、最高のパフォーマンスを引き出せるように仕上げた。そしていつもと変わらぬバトルを出来ていたはず……だった。しかしその結果はどうだ。負けたではないか。どうしてだ? 何故俺が?
 立ち尽くす仙道に、風間と森野は何も言わない。
 そこに、仮面を取ったオタレッドもといユジンが歩み寄っていった。少し緊張気味に、ユジンは仙道へ声を掛ける。

「あ、あの、お疲れさまでした。いやあ、本当に早くて強かったです」

 仙道は反射的にユジンを睨んだ。彼の性格は、自分を倒した相手に友好的に振る舞えるようなものではなかった。
 凄まれたユジンは僅かに引け腰になりながらも、気丈に話を続けた。仙道の反応はある程度予測がついていたのかもしれない。

「あなたなら我が師、オタクロスの弟子になれると思います」

 そう言いながらユジンは、ひとつのバッジを仙道へ差し出した。ユジンのジャージについているものと同じデザインだ。
 無言で目を細める仙道に、ユジンは笑顔を浮かべながら、こう提案した。

「オタクロス流LBX闘法だけでなく、仲間の大切さ、共に汗を流す喜びなども学ぶことができますよ。どうですか?」
「ふざけるな!」

 仙道はそう叫ぶと、バッジをユジンの手ごと荒っぽく払い除けた。バッジが床に落ち、からからと空しい金属音を立てる。
 ユジンや風間たちを振り返ること無く、それ以上言葉を口にすることも無く、仙道はステージを降りていってしまったのだった……。
 モニターに映る彼の様子を見ながら、落ち込むは「あっ」と声を上げた。
 彼が去り際に何か落としていったのだ。モニターの隅に映り込む小さなそれが、タロットカードであることには気付いた。仙道はカードを落としたことに気付いていないようだ。
 一枚でも無くなると差し支えがあるのではないか。そう思ったときにはもう、は席を立っていた。

「ヤマブキさん、わたくしちょっと行ってきます」
「畏まりました。でしたらCCMをお持ち下さいませ」
「あっ、すみません、ありがとうございます!」

 ヤマブキから自分のCCMを受けとると、は観客席を飛び出した。

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