仙道は常々思っている。
 仲間や友達など馬鹿馬鹿しい。誰かと組んだとしても、それは自分が勝つための駒に過ぎないのだ。
 こういう考えの人間は大勢いる。だとしたら、自分は利用する側に回った方が良い。
 騙されて痛い目を食うなど、愚かしいにも程がある。
 ……そう、思っている。
 そんな仙道に向かって、は“友だちになりたい”と言ってきた。

、お前……どういうつもりだ?」
「どういうつもりも何も、そのままの意味ですわ」

 話が通じないとはこのことだ、と仙道は思った。
 はそんな彼の胸中など知る由もなく、にこにこと微笑んでいる。

「仙道くんのことが大好きですから、もっと仲良くなりたいんです。それにお友だちになれたら、今まで以上に近い場所で仙道くんのバトルを堪能させて貰えますでしょ?」
「随分と自分勝手だねえ……」
「好きなことに関しては突っ走ってしまうタイプですの!」

 呆れる仙道に、そう元気に返す
 仙道は答えに詰まった。
 が嘘を言っていないことは判る。だからこそ悩んだ。
 真っ直ぐで曇り無い少女の瞳から伝わる、大きな信頼と深い情。それを受け入れる勇気が、今の自分には無いと少年は自覚した。
 そして答えあぐねているうちに、予選Eブロックの戦いが始まっていた。

「仙道くん、遂にEブロック開始ですわ!」
「あ? ああ……そうだな……」

 歯切れの悪い仙道の返答に、は瞬きする。

「どうしましたの?」
「……何でもないさ。こっちじゃなくモニター見てたらどうだい?」
「いいところ見逃しちゃ大変ですものね!」

「仙道くんを見つめさせて頂くのも良いですけれど」と小さく笑いながら、がスタジアムのモニターへ目を移す。
 悪戯っぽい彼女の声が仙道の鼓膜をくすぐり、それに応じて心臓は早鐘を打った。体の熱まで上がりそうだ。
 沈黙したまま仙道は自分を宥めた。そして、自分ものようにバトルを見つめることにした。
 他のブロックに比べて、Eブロックは静かな印象を受ける。
 勿論バトルのたびに観客は高揚し様々に歓声を上げていた。
 とあるチームのバトルが、いやな静けさを持っていたのである。
 ――灰原ユウヤチーム。
 メンバー全員が似たような黒ずくめの衣装で、口数も少ない。チームの連携は上手く決まっているが、特別目立ったパフォーマンスもない。バトルに勝利しても大した反応がなく、黙々と戦い、勝利を重ねるチームであった。

「なんだか少し不気味なチームですわね……。灰原くんに至ってはかなりの猫背ですわ」
「そこは関係ないだろ……」

 Eブロック予選の決勝は、そんな灰原ユウヤチーム対ハンニバル・ハーンとなった。
 ハンニバルは250以上の公式バトルに置いて負け無しという、今大会でも一番の優勝候補選手だ。
 そんなハンニバルの勝利は確実かと思われたが、思わぬ展開となる。
 ユウヤは彼の攻撃をすべてかわし、ハンドガン五発でLBXの駆動部を撃ち抜き、余裕の勝利を遂げたのだ。
 彼のチームメンバーである二人の少年、黒木と目黒は、一切バトルに手を出さなかった……。
 あまりに精密な射撃の腕前に、は大層驚いた。

「あんな風にLBXを操れる人が、今まで公式戦に出たことのない無名の選手だなんて……。本当にアルテミスって凄いんですのね」
「灰原たちがここまで運で勝ち残ってきたと思ってる奴等も、流石にあいつらの実力に気づいたろう」

 しみじみと呟くを見て、仙道が徐に口を開く。

「メインカメラ破損、CPUの接触不良……。ここまでのバトルで相手LBXに起きた不調の数々は、あいつの攻撃で引き起こされたものだろうね」
「そんな……。精密なんて言葉で片付きませんわ、そんなの!」

 全世界LBXプレイヤーの頂点を決める戦い、アルテミス。
 その凄まじさとレベルの高さを、は改めて思い知った。
 ――一方、たちとは別の席でバトルを見守っていたヤマブキも、ユウヤの異質さに沈黙していた。
 ほとんど言葉を発する様子もなく、ユウヤは淡々とLBXを操る。その攻撃や防御も、背後の二人の少年がユウヤに指示しているようだった。
 ハンニバルの攻撃を数ミリというギリギリの間でかわし、限られた弾数で相手LBXの駆動部すべてを破壊する。
 その精密さはもはや、人ではなく機械のプログラムのようであった。
 何より不安になるのは、光を無くし、虚ろなユウヤの眼差しである。
 嫌な予感がする……。
 ヤマブキは胸騒ぎを押さえられなかった。
 CCMを取り出すと、へ向けて簡潔なメールを送る。

『仙道君と無事に合流できた頃かと思われます。人も多いので、どうぞお気を付けくださいませ。あまりお一人で歩かれませんように』

 その後ヤマブキは、の父……孜郎へもメールを送った。
 内容は、アルテミスに関してのこと。現時点では滞りなく大会が進んでいるものの、これからどうなるか判らないのだ。
 ヤマブキがそう懸念したのは、大会に海道ジンが出場していると知ってからだ。
 の両親が約束を守り続けている今、滅多なことがに起きることはないだろう。だが……他の誰かには何か力が及ぶかもしれない。
 海道義光の孫であるジンが大会にいるのは、恐らく、義光に何らかの思惑があるということだ。
 少しでも彼らに関する情報があるならば事前に知り、ヤマブキはを巻き込まないために行動しなくてはならなかった。
 孜郎からの返信は早かった。
 海道義光が、アルテミス優勝商品『メタナスGX』を手に入れるためにジンを出場させたのだということは判るが、詳細は明かされていないのだと言う。

『海道先生のことだ、念には念を入れて他にも何か用意しているかもしれない。娘をよろしく頼む』

 そう結ばれていたメールを読み終え、CCMをしまう。
 それからヤマブキは、静かに席を立った。



◆◆◆



 ヤマブキからの注意のメールを見つめながら、は首を傾げた。
 いつになく彼が心配していることを、その文面から少女は察していた。何がヤマブキを不安にさせたかは判らないが、はメールを返す。
 その様子を、仙道が眺めていた。

「何かあったのか?」
「ヤマブキさんが、あんまり一人であちこち歩かないようにって。だからわたくし、気を付けますって返しましたの」
「そうかい。まあ、しばらくは俺がいるから大丈夫だろ」
「は、はいっ!」

 仙道がさらりと言うのを、は嬉しそうに笑って頷いた。
 肩が触れるか触れないかという隣り合わせの位置に立ちながら、少女は改めてその喜びを噛み締める。
 遂にファイナルステージの開始時間となった。
 待ちきれずにざわつく観客たちに、MCが語りかける。

『いよいよクライマックス! 世界一のLBXを決めるアルテミス・ファイナルステージ! さぁ、ご覧ください! 激戦を勝ち抜いてきたファイナリストの勇姿を!』

 五角形のDキューブのジオラマは、活火山のある遺跡。フィールドには溶岩が流れ出る場所もあり、落ちようものならば、現実のそれ同様に全てを溶かしてしまうだろう。
 そのDキューブを囲み、予選を勝ち抜いた五名の選手が立っていた。
 “秒殺の皇帝”の異名を持つ天才LBXプレイヤー、海道ジン。LBXはエンペラーM2。
 経歴も戦闘スタイルも全てが謎に包まれた仮面の騎士、マスクドJ。LBXはマスカレードJ。
 続いてMCが「期待の超新星」と称する山野バン。LBXはアキレス。
 自称、愛と平和のLBXバトラー、ユジン。またの名をオタクロスの弟子・オタレッド。LBXはビビンバードX。
 最後に、無傷で勝利してきた今大会のダークホース、灰原ユウヤ。LBXはジャッジ。
 MCは選手紹介を終えると、決勝バトルの説明に入った。

『ファイナルステージは生き残りをかけたバトルロワイヤル! 自分以外はすべて敵という状況の中で最後まで生き残ったものが勝者となる、過酷なサバイバルバトル! 優勝し、勝利の栄光と、超高性能CPUメタナスGXを手中に収めるのは果たして誰なのか!』

 会場中の興奮は限界まで高まっている。
 も両手を握りしめ、その興奮に身を委ねようとしていた。 

『それでは、第三回LBX世界大会アルテミス・ファイナルステージ!! バトルロワイヤル! まもなくスタートです!!』

 誰が優勝してもおかしくはない、激闘と波乱が待ち受けるファイナルステージ。
 その火蓋は、遂に切られた――!

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