プレイヤーの中でも、観客の目を最初に引いたのはユウヤであった。
ユウヤは奇妙なスーツを身に纏っており、彼が両手を宙に翳すとモニターのようなものが浮かび上がった。
彼のLBXは、どうやらあのスーツで操るらしい。ここに来るまでの戦いではCCMを使っていたはずだが、何らかの理由があるのだろう。
戦いの序盤は、ユウヤのジャッジに対して、ユジンのビビンバードXとジンのエンペラーM2が挑み、バンのアキレスとマスクドJ操るマスカレードJの立ち回りが中心となった。
ジャッジ、ビビンバードX、エンペラーM2の三竦みも、アキレスとマスカレードJの対決も、共に激戦である。
「何処をどう見たら良いのか困ってしまいますわ……!」
「とりあえず落ち着きな」
はらはらと忙しなく目を動かすに、仙道が溜め息混じりに言う。
指摘を受けたは、恥ずかしそうに小さく頷いてみせる。
バトルは一進一退の攻防が続いていた。
はユウヤの姿へ視線を移した。間違いなくあのスーツでLBXを操っている。
虚ろな目で、ただただ、LBXを操る。
……まるで、ユウヤの方がLBXに操られているのではないかと思うほど、少年からは活力というものを感じられなかった。
その時――ユウヤの背後にいる仲間が口を開いた。
「そろそろだな灰原ユウヤ。サイコスキャニングモードを発動する」
仲間のその言葉を受けたユウヤが小さく頷くと、異変が起きた。
スーツからわずかな電流が走り、ユウヤの髪を白へ、瞳を深紅へと染め上げたのだ。
同時にジャッジの機体が緑色に輝き出す。そしてジャッジは、ビビンバードXとエンペラーM2を遥かに上回るスピードで二機を翻弄し、その剣の一凪ぎで彼らを吹き飛ばしてみせた。
「何事ですの、いきなりジャッジの動きが変わりましたわ!」
「原理は知らないが、明らかにパワーアップしてるねぇ」
驚くに、仙道が静かに返す。
「あのスーツに何か仕掛けがあるのかもな」
「ですわね……。でも、髪や目の色を変えてしまうような仕掛けだなんて……」
目に見える変化を起こすほどの機能を持ったスーツだ。着ている人間への負担や影響は少なからずあるはず。ユウヤには今のところ髪と瞳以外に変化は見当たらないが、あまり積極的に使える機能ではないのではないか。
そうは思った。胸の中に滲んでいく不安、その影にある……漠然とした恐怖。
気を取り直すようには深く息を吐いた。
ジャッジとユウヤに向けて、少年がもう一度指示を出す。
「灰原ユウヤ。パワースラッシュだ」
指示を受けたユウヤが、必殺ファンクションを放とうとしたその時。
ユウヤの着ているスーツから紫色の電流が迸った。電流はユウヤの体を包み、燐光を生み出す。その光の影響か、ユウヤが顔を歪めた。
同調するように、ジャッジはコントロールを鈍らせた。が、必殺ファンクションの発動を止めるまでには至らなかった。
暴発したパワースラッシュは、そばにいたビビンバードXの横を過ぎ去り、その先にいた――アキレスとマスカレードJの元へと向かっていく。
凄まじい爆発が起き、アキレスとマスカレードJの姿を覆い隠してしまう。
……二機とも直撃したかと思われたが、違った。
蟠る土煙のなかで、アキレスが立ち上がり、その姿を見せたのだ。傍らには、パワースラッシュの直撃を受けてしまったらしいマスカレードJが倒れている。
『おおっと、マスカレードJ、ブレイクオーバー! バトルロワイヤル最初の敗退者は、マスクドJ選手です!』
MCの言葉に観客が騒いだのも束の間のことだった。
ユウヤの異変はまだ収まっていなかった。
「ふ、ふふ……あはは……」
ユウヤは不気味な笑い声を上げていた。さすがに様子がおかしいと思った仲間が、ユウヤを止めようとする。しかし、スーツに絶え間なく走る電撃のために触れることすらできない。
笑いながらユウヤが、モニターに手を翳し、ジャッジへ指示を送る。
それを受けてジャッジが動き出す。
ジャッジは、目の前にいるビビンバードXへ突撃し、張り倒した。剣を投げ捨て、ビビンバードXの頭を片手で掴み、持ち上げると、側にある遺跡の柱や床に、ビビンバードXを叩きつけ始めた。
何度も、何度も、ビビンバードXはなす術なく痛め付けられる。
「ビビンバードX!」
プレイヤー、ユジンの悲痛な叫び声が響く。
尚もジャッジは止まらない。散々にビビンバードXを叩きのめした挙げ句、その頭部をもぎ取ってしまったのだ。
この時点でビビンバードXのブレイクオーバーがMCから告げられるも、ジャッジは執拗にビビンバードXの胸部へ剣を突き立てていた……。
「あ、あんまりですわ……。あんなの……」
が震える横で、仙道が言葉もなく僅かに眉を顰める。
ユジンがユウヤの異常な行動を止めようと近づくも、不気味な彼の笑いとスーツの電撃に怯み、ステージを駆け降りて出ていってしまった。
ユウヤを止められないと悟った彼の仲間も、ユウヤを置いてステージから逃げていってしまう。
「おい、お前ら何処行くってんだよ!」
「ちょっと、仲間を見捨ててくつもり!?」
バンの傍らでバトルを見守っていたカズヤとアミが咎めるも、彼らが足を止めることはなかった……。
ユウヤとジャッジは、その間も暴れ続けた。
ビビンバードXへの興味は失せたのか、剣を乱暴に振り回し、ジオラマを破壊していく。
不気味な笑い声を上げていたユウヤは、不意に震える声で呟いた。
「ひとりにしないで……」
真っ赤な瞳から、一筋の涙が伝い落ちていく。
だが次の瞬間にはまた笑いだし、かと思えば「ひとりにしないで」と泣き叫ぶ。
彼の異変に、バンは戸惑った。
「なんだ、何が起きてるんだ!」
そんなバンの疑問へ、ジンが答えた。
「サイコスキャニングモードが暴走して、灰原ユウヤの精神を侵食しようとしているんだ」
「なんだって……」
思わず絶句するバン。ジンがユウヤの事情を知っていることは不思議だったが、今はそれどころではないことを悟る。
ジンは続ける。
「非常事態だ。山野バン。一緒に戦ってあいつを止めるんだ」
「えっ?」
「でなければ、この大会で死人を出すことになる……」
ジンがユウヤを見つめた。つられるようにして、バンもユウヤへ視線を移した。
忙しなく泣き叫ぶ声と笑い声が交互に響き、暴れ続けているユウヤ。
このままでは本当に死んでしまうかもしれない……!
バンは頷いた。
「判った……。協力する!」
同時にアキレスがVモード――アングラビシダス以来、自分のタイミングで発動できるようになった機能強化状態だ――を発動する。
バンの言葉に頷きながら、ジン……エンペラーM2も態勢を整える。
「やつのLBXを破壊する、ついてこい」
「それで救えるんだな」
「ああ」
ジャッジに対するためタッグを組む二人。この展開に観客も沸いた。
だが恐らく、二人が声を潜めて交わした会話――ユウヤの命に関わる状況であると言うこと――は誰も知らない。モニターに様子は映れど、小さな声までは拾えなかった。
何となくユウヤの様子がおかしいことや、圧倒的なジャッジの強さに、タッグを組まざるを得なくなった……。その程度にしか思われないだろう。
だが、は違った。周りの人々のように歓声を上げることが出来なかった。それどころかどんどん顔色が悪くなり、今にでも倒れてしまうのではないかという程だった。
の異変に、仙道はもちろん気付いた。
「大丈夫かい? ひどい顔色だぜ、」
「へ、平気ですわ。……何だか自分でも、よく判らなくて……」
は答えながら柳眉を下げ、胸を押さえる。相当自身でも戸惑っているらしく、青ざめながらも彼女が深く悩んでいるのが判った。それでもバトルを見逃しはしないと、熱心にモニターを見つめている。
仙道は、少しばかりを気の毒に思った。
(灰原ユウヤがおかしくなってから、調子が悪くなったように見える……)
仙道の予測が当たっているとすれば、バトルを見ている限り、の調子は悪いままかもしれない。
少しでも気が楽になるようなことがあれば良いのだが。
しばし考えたのち、仙道は、震える彼女の背中を擦ってやった。
突然の仙道の行動に、は驚いた。
「せ、仙道くん……?」
「本当は座った方が良いと思うがねぇ……。聞きやしないだろ?」
仕方なさそうに笑う仙道を見上げて、は嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう……。仙道くん」
僅かに血色の戻ったの顔を見て、仙道はひっそりと胸を撫で下ろした。
少しでも少女が笑う気力を取り戻してくれたことに、少年は酷く安堵していた……。
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