『防ぎきった! エンペラー恐るべし、アキレスの必殺ファンクションを防ぎきった!』
MCと共に、観客も歓声を上げた。今日一番のざわめきが、スタジアムを揺るがしている。
エンペラーM2は既にボロボロだが、そのダメージを物ともしないかのようなスピードでアキレスに迫り、ハンマーを叩き込んだ。その勢いで吹き飛ばされ、アキレスは地を転がっていく。
間髪入れずに放たれたランチャーによる追撃を、必死に盾でしのぐアキレス。だがその間に、エンペラーM2は再び高速でアキレスに向かっていた。
エンペラーM2の連続攻撃がアキレスを追い詰める。
「またまた逆転!? ど、どうなっちゃいますの、このバトル!」
「そろそろ決着がつくだろうさ」
と仙道のテンションには大きな差があったが、どちらもバトルに真剣に見入っていることは変わりなかった。
戦ううちにアキレスの背後に崖が迫っていた。エンペラーM2の攻撃が遂に、アキレスの盾を弾き飛ばす。盾は崖下の溶岩流にゆっくり呑まれ、焼失してしまった。
『追い込まれた、アキレス絶体絶命だ!』
MCが叫ぶ。
ジンも、勝利を目前に笑っていた。
焦るバン。
固唾を飲んで見守る仲間。観客たち。
――瞬きほどの僅かな間、バンは瞳を閉じた。
まさか諦めたのか? いや、違う……。バンには、今にも負けようとしているプレイヤーとは思えぬ静けさ、そして強い意志の力が満ち溢れていた。
そのバンの姿に、ジンは戸惑った。
彼に生じた動揺を、バンの研ぎ澄まされた精神力が逃さず捉える。
一瞬のうちにアキレスはエンペラーM2をかわし、その遥か後方へと走り抜けた。そこで体勢を整えると、エンペラーM2に向かい、ダッシュして。
慌ててエンペラーM2は、ランチャーで相手を迎え撃つ。数多の弾丸がアキレス目掛けて突き進んでくる。
被弾する直前、アキレスは水月棍を地に突き立て、それを軸に飛び上がった。反転したアキレスの背後で、ランチャーの弾は地面にぶつかり炸裂した。
その爆風が、アキレスの突進スピードを更に高める。
「いっけえぇぇ!!」
バンの叫びと共に繰り出された、アキレスの水月棍。
目標を違うことなく、その一撃は、エンペラーM2の胸部を貫いた……。
――決まった。
ブレイクオーバーするエンペラーM2、目を見開くジン。
ジンは再度バンを見た。
アキレスの向こうで、熱い闘志に燃える曇り無き彼の瞳を――。
『決まったー! 第三回LBX世界大会アルテミスを制したのは、山野バン!!』
MCの決着宣言と観客の熱狂する声で、スタジアムが満たされる。
『なんという大激戦、なんという死闘、なんという大波乱! そのファイナルステージに最後まで生き残ったのは、驚異の新人、山野バン! 皆様、盛大な、そして惜しみ無い拍手をこの勝者に送ろうではありませんかーー!!!』
会場中から、バンの勝利を讃える拍手が起こる。
その音に、バンもようやく勝利を自覚したようだった。ふるふると肩を震わせたかと思いきや、感情を爆発させながらガッツポーズし、喜びの叫びをあげる。
「やった……。やったぞーー!」
辛抱強く戦いを見守っていたカズヤとアミも、バンの勝利を喜んだ。
「バンのやつ! 初めてなのに優勝しちまったぜ!」
「すごい……すごいよ、バン!」
感激の余りカズヤはバンに飛び付き、普段は大人びたアミですら、栄光を手にした友への気持ちが押さえきれない様子だ。
そんなバンたちの姿に、ジンはしばらく見入っていた。
――完敗だ。
そう自覚したジンの胸中は、不思議と晴れやかであった。
今まで自分を引き取ってくれた海道義光のためだけにLBXに打ち込んでいた彼にとって、バンの存在には大きな意味があった。
初めは義光の目的のためにバンに挑んだ。しかしバンとぶつかるたび、ジンの中には別の感情が沸き起こった。
純粋に、バンとのバトルを楽しみたいという感情だ。
そして互いに全力投球でぶつかったこのアルテミスにおいて、ジンはその思いを強く自覚した。
悔しくないわけではない。
だが……楽しかった。
今までに感じたことがないほどに。
ジンは感謝していた。
こんな感情を教えてくれたこと。真剣に自分とぶつかってくれたこと。LBXの真の楽しさに気付かせてくれたことを。
「バン君……」
感情のままに、ジンが口を開いたその時だった。
機能停止したはずのエンペラーM2の瞳が、怪しく輝き出した。
ジンは異変に眉を顰めた。
「んっ、これは!?」
CCMに浮かび上がる謎の文字。
“デストロイ”
同時に、エンペラーM2が立ち上がった。
ジンの操作には従わず、エンペラーM2は何故かアキレスに取り付く。
それでもCCMのボタンを懸命に叩くジン。
全く従わないエンペラーM2。その瞳は赤く点滅を繰り返す。点滅のスピードはどんどん早くなっていく。
ジンたちの様子が可笑しいことに、バンたちもその時気付いた。
「どうしたんだ、ジン?」
しかし間に合わなかった。
ジンは叫んだ。
「伏せろ!」
ジンの剣幕に、バンたちは慌てて身を屈めた。
それとほぼ同時に、ジオラマ上のエンペラーM2は自爆した。
いちLBXとは思えぬ大きな爆発だった。
爆発はもちろんアキレスを巻き込んだ。
黒煙がステージいっぱいに立ち込め、観客も騒然とする。
次いで追い討ちをかけるように、スタジアムの全照明が落ちてしまった。
「ひええっ!」仙道の横でが悲鳴を上げた。
真横で叫ばれた仙道は、少しうんざり気味である。
「落ち着きな、。電気が消えただけじゃないか」
「ステージが爆発していきなり真っ暗なんてビックリするですよね、普通!?」
「あんたはビビり過ぎだよ」
仙道がを窘めた。混乱しきった彼女がすがるように自分の服を掴んでいることに関しては、哀れに思ったのか何も言わない。
……結局、スタジアムの照明は復旧することなく、そのまま世界大会アルテミスは終了となってしまった。
バンの優勝は喜ばしい。だが、灰原ユウヤの暴走やエンペラーM2の自爆、照明の故障など、引っ掛かるものが多く残る大会となった。
問題を思い返すの胸中は複雑だった。
(仙道くんの優勝がなくなった時点で既にへこんでいたから今更ですけど……)
仙道と共にいち早く会場を出たは、ひっそりと溜め息を吐いた。
他の観客たちも、警備員に誘導されながら続々とスタジアムから出てくる。不満そうな顔をして照明トラブルを嘆く人たち。せっかくのアルテミスが、あんな形で終わったのことをみんな残念がっていた。
その人々の流れを離れた場所から見つめながら、と仙道はいた。
がヤマブキに会場を出たことをメールで伝えている横で、いつものように、仙道がタロットカードを引いている。
連絡を終えたも、仙道が占いをしていることに気付いたようだ。
「あの、結果はいかがでしたか?」
「良いとは言い難いね」
僅かに目を伏せながら、仙道は引いたカードをに見せた。
大きな雷が、そびえる塔目掛けて落ちていく様を描いている。
「“塔”の正位置、ですわね。確か、アルカナの意味は……」
「破滅、だ……。一体何がぶっ壊れちまったんだか……」
答えながら、彼はカードをしまった。
「破滅……」
仙道の教えてくれたアルカナの意味を繰り返し、は静かに目を伏せる。
自分の考えの及ばぬ、しかし限りなく近い何処かで、何か恐ろしいことが起きているような気がした……。
prev
Top
next