ただただ呆然としている仙道に、郷田は言う。

「口にするのはシャクだけどよ、確かにお前は強ぇからな。生半可な気持ちで手に入る強さじゃねえ」

 は、郷田の言葉に無言で何度も頷く。
 その姿を見た郷田は笑いそうになったがぐっと堪え、だがよ、と前置きしてから台詞を続けた。

「仙道、バトル前の約束は覚えてるな? 負けたほうが勝ったほうの舎弟になる……だ」

 唇を噛み締める仙道。
 不安げに見守る
 そんな二人を見つめ、郷田は……ふっと笑った。

「なら、今日からお前は俺たちの仲間だ」
「なっ!?」
「えっ!?」

 仙道とが、郷田の発言に思わず驚き声を上げる。
「いいよな、バン」笑顔のまま郷田に問われ、バンは頷いた。

「ああ! ……よろしくな、仙道」

 郷田に負けない爽やかな笑顔だ。
 そんなふたりに押された仙道は、忌々しそうに舌打ちをした。

「……判ったよ。俺の気が変わらねぇうちは、お前らについて行ってやるよ」

 しかしその姿と返事は険がとれ、何処か微笑ましさを感じさせるものだった。
 ――仙道くんにお友達が増えましたわ!
 そう思い、は穏やかな空気にすっかり気を緩ませていた。喜びが溢れて胸がいっぱいになっていく。
 しかし少女は、ふと我に返った。

「そ、そうですわ! 仙道くんが郷田くんの舎弟になるんでしたら、わたくしも郷田くんの舎弟にしてください!」
「はぁ!?」

 急に声を張り上げたとその台詞に、郷田がぎょっとする。さすがの彼もこんな展開は予想だにしていなかった。
 しかしは止まらない。慌てて郷田に詰め寄り、必死に懇願し始める。

「わたくしは仙道くんの大ファンでお友達ですから、当然ご一緒いたしますわ! ただわたくし、舎弟としての礼儀作法は全く知りませんので……どうかご教示お願い致します!」
「お、おまっ、落ち着けって!」
「落ち着いてますわ! ですから……」
「判った、判ったって! も俺の舎弟で、俺たちの仲間だ! い、良いか、バン!」

 を押さえながら、困惑したまま郷田はバンを再び顧みた。
 もちろんバンが断るはずもない。

「うん! 今日からも俺たちの仲間だ!」
「有難うございます! いっぱい頑張りますわ!」

 意気込むたちの話が一段落したと見るや、それまで傍観に徹していたオタレッドが口を開く。

「話はついたみたいですね……。コホン……では」

 オタレッドは両手を天高く掲げ、ポーズを決めた。
 その両脇に立つオタピンクとオタブルーも、無言でそれに倣う。

「キラリと光る十字傷! アキハバラの平和は俺が守る! 愛と正義のLBXバトラー・オタレッドの名にかけて此処に一件落着!!」

 息ぴったりの戦隊風決めポーズと、高らかな宣言。

「……それ、傷だったんだ」
「何も守ってねーだろ……」

 アミとカズヤの的確な指摘に、オタレッドは笑った。

「まぁまぁ、ともかく、これで試練はコンプリートということにしましょう。このレジェンドなパーツをお受け取りください」

 オタレッドが差し出すLBXパーツを、バンが受けとる。
 オタレンジャーの試練を乗り越え、パーツはこれで全て揃った。
 伝説とも呼ばれるほどのLBXが一体どんなものなのか。期待に胸膨らませながら、バンはLBXを組み立てていく。
 そして出来上がったのは……

「め、メイドさん?」

 可愛らしい、ミニスカートのメイド風のLBXであった。
 何処か小首をかしげて此方を見上げているかのような愛らしさに、は笑みを溢した。

「可憐なLBXですわね! パーツも見たことがないものばかりですわ」
「さすが、アキハバラといったところね……」

 感心するとは対照的に、げんなりとした様子でアミが嘆息する。

「これがオタクロスの伝説のLBX……。くだらねぇ……」

 仙道もまた、出来上がったLBXの姿を目にするなり、そう吐き捨てた。確かに彼の嗜好とはほぼ真逆にあるLBXだろう。
 伝説のLBXを目にして喜んでいるのは自分だけであることに気づいたは、上がっていたテンションを少しずつ抑えていった。
 たちの反応を他所に、オタレッドはとんとんと話を進めていく。

「どうぞ。このタワーの最上階で、師匠が待っています」

 オタレッドが促すとフロアの奥にあるエレベーターの扉が開いた。オタレッドたちに見送られながら、一行はそこへ乗り込む。

「ったく、ふざけた野郎たちだ」
「でもこれで、ようやくオタクロスに会えるわね」

 郷田の呟きに苦笑しながら、アミが言う。
 アミの言葉に、バンは力強く頷いた。

「ああ! ……オタクロス、一体どんな人なんだろう……」

 それから、バン、カズヤ、アミ、郷田は様々な憶測を巡らせながら会話を始めた。
 は会話に混ざることなく、そっとエレベーターの隅で、壁に凭れていた。
 最上階まではまだ少し時間がかかりそうだ。何せアキハバラタワーはとてつもなく高い。
 喋らずにいると、つい色んなことを考えてしまう。これからどうするのか。そもそもバンたちはどうしてオタクロスに会いたがっていたのか。郷田の“世界を守る”という言葉はどういう意味なのか……。疑問は尽きない。
 そのせいか、は落ち着かなかった。

「どうしたんだ、?」

 そわそわとするに、同じように黙りこんでいた仙道が尋ねる。
 は慌てて、誤魔化すように手を振った。

「だ、大丈夫ですわ! ちょっといっぱい考えなきゃいけないことがある気がしまして……でも後からお聞きした方が良いかと思いまして……」
「よく判らねえが、それで良いなら良いさ……」

 そう言いつつも、仙道は何か言いたげにを見つめたまま微動だにしない。

「せ、仙道くんこそ、いかがなさいましたの?」

 視線に耐えかね、頬を赤らめながらが呼び掛ける。
 ……仙道は、答える代わりにの両手を掴んだ。

「えっ、仙道くんっ?」

 戸惑うの声を聞き流しながら、仙道はじっと彼女の手を見つめた。
 心地良い温もりだった。白くか細い手は、下手に力を加えようものなら容易く折れそうだ。雛鳥でも抱えているのかと錯覚してしまう。手の平も同じように白かった。しかしそこには、真新しい擦り傷があった。まだ僅かに血が滲んでいる。タワー内の人込みの勢いに負けて、が転んだときに出来たもの。
 この手に……の手に傷がつくことは良くないことだ。
 漠然と仙道は、そう感じた。
 この傷付いた手を、自分は払い除けてしまった。がどれほどの想いで手を伸ばしてきたのか。ろくに考えもせずに。
 いくら頭に血が上っていたとはいえ、仙道はそんな自分のことを許せなかった。

「……悪かったよ」
「え? いえ、これはわたくしの不注意でした怪我ですし……」
「いや、そうじゃなくてだな……。さっき、俺を止めようとしたときさ」
「さっき?」

 いまいち要領を得ていないに、仙道は続ける。

「郷田と言い合った時、止めに入ってきただろ? あんた」
「あ、ああ……。はい。ついつい足が勝手に動いてしまいました」
「突き飛ばすような真似して、本当に悪かった。俺のLBXのことまで気ぃ遣わせちまったし……」

 の手を緩く握ったまま、仙道は呟いた。

「……あんたは本当に物好きなヤツだねぇ」

 苦笑する仙道に、は満面の笑みでこう返した。

「だってわたくし、本当にそう思ってるからそう言うしか無かっただけで……。それに物好きだなんてことないですわ。仙道くんはとても魅力的な方です。そのことをもう少しご自覚なさるべきですわ」

 ふわふわと笑う目の前の少女の姿に、仙道の心は緩く締め付けられるような感覚がした。
 どうしようもなく苦しいのに、出来ればずっと感じていたいと思う、切ない痛み。
 仙道が口ごもっているうちに、の手は、彼の手からするりと抜け出してしまっていた。それを残念がっている自分の気持ちに気付き、少年はひとり焦る。
 は、そんな仙道の心境など露ほども知らぬまま、のんびりと話す。

「もう少しで最上階ですわ、仙道くん! オタクロスさんってどんな方でしょうね」
「あのLBXから察するに、ふざけた野郎としか思えないな」
「ええっ? あのメイドさんLBX、あんなに可愛いのに……」

 エレベーターは緩やかに停止した。電子的なベルの音がなると同時に、エレベーターの扉が開く。
 は、バンたちの後に続いてエレベーターを降りていった。

「ここがオタクロスさんのお部屋……?」

辿り着いたオタクロスの部屋は薄暗く、壁際には天井まで届くほどのたくさんの荷物で埋め尽くされていた。ただごちゃごちゃしている訳ではなく、それなりの法則性と考えによって積まれているようで、通路は広くとってある。
 部屋には照明らしいものが見当たらない。しかし壁のあちらこちらに複数設置されたテレビモニターの青白い光が、ぼんやりと部屋を照らしており、それほど不便さは感じなかった。
 バンたちが部屋中を見渡していると、不意に通路の奥から声が響いてきた。

「おまいらのオタ道、見せて貰ったデヨ」

 通路の先……部屋の最奥。そこには、まるで一種の祭壇を思わせる高い階段があった。頂上では、昇ってきた朝日のような目映いライトが点灯している。その場所を取り囲むように巡るのは、複数の光の立体モニターだった。
 モニターが回るステージの中央に、小柄な老人が立っていた。恐らく先の声の主だ。その風貌はオタレンジャーたちと同じジャージだった。しかし豊かで白い髭と髪は、まるで仙人を思わせる。手にしている杖が、ますます仙人らしい雰囲気を醸し出していた。
 バンは臆することなく、老人に問いかけた。

「あなたが、オタクロス?」
「そうじゃ、わしがオタクロスじゃ」

 老人……オタクロスは深々と頷いた。
 そのオタクロスの姿に呆気にとられるカズヤ、何処と無く引け腰なアミ。
 そして彼らを見守る郷田と仙道の影に隠れるようにして、もまた、バンとオタクロスのやりとりを見守っていた。

「あの、伝説のLBXを持ってきました」
「ほう、そうか」

 オタクロスは、老人とは思えぬ軽い身のこなしで階段を飛び降りてきた。まるで忍者のような身軽さである。
 バンが両手でLBXを差し出すと、早速オタクロスは受け取り、――途端に破顔した。

「ええのぉー! やっぱ伝説のさくら☆零号機は!」

 オタクロスはそれから、伝説のLBX、さくら☆零号機について語り始めた。
 まだ正規のパーツも少なかった当初、彼がいかにこのLBXにこだわり、能力と外観のバランスを探りながらパーツをフルスクラッチし、このフォルムと可愛さに辿り着いたのか……。どれ程の涙ぐましい努力と情熱が注がれたのか……。
 要約すると、オタクロスはバンたちに、さくら☆零号機を自慢したかっただけのようだ。
 このままだと何時までも自慢話が続きかねない。
 そう危ぶんだバンは、申し訳ないと思いつつも話に割って入ることにした。

「あの、オタクロスさん……」

 するとオタクロスは、さくら☆零号機を抱えたまま答える。

「わかってるデヨ。お前たち、ゴッドゲートを破れるのはワシだけじゃと知って来たんじゃろ。プラチナカプセルの解読コードを手に入れるために」

 ゴッドゲートにプラチナカプセル。またの頭の中で疑問が増えた。
 いい加減このことを聞いておかなければ完璧に話に乗り遅れてしまいそうだ。
 しかしよりも先に、驚いたアミが口を開く。

「そこまで知ってるの?」

 アミを見た途端、オタクロスの目の色が変わった。オタクロスはにやけながら、ご機嫌そうにアミの周りをくるくると歩き始める。

「おおぅ、アミたん良えのぉ~! かわええのぉ~! フィギュアにしてええかの? いや、絶対にするべし!!」
「お断りします」

 アミの即答に、すっかりご機嫌だったオタクロスはがっくりと肩を落とした。「なんじゃと……」そんなオタクロスに、今度こそはとは身を乗り出して声を掛けた。

「あの、オタクロスさん。プラチナカプセルというのは一体……と言いますか、どういうお話になっているんでしょうか?」

 恐る恐るが問うと、オタクロスはハッと顔を上げる。

「ん? ……おお! こりゃまたかわええ子デヨ~!!」

 そして、何故かはしゃぎ出した。

「街をモニタリングしてた時は気づかなかったデヨ! お嬢ちゃんの名前は?」
「え、えっと…………です」
たん! ええのお~! アミたんにたん、たまらんデヨ~!!」

 今度はオタクロスは、の周囲をぐるぐると回り始めた。
 それを見て仙道がため息をつく。

「だから隠れてろって言ったのによ……。まあ、無理があったか」
「ご、ごめんなさいです、仙道くん」

 仙道へ謝ってから、はオタクロスに必死に訴えた。

「あ、あの。オタクロスさん、わたくし、ですからプラチナカプセルもろもろのお話を……」
「そんなことはあいつらに聞くといいデヨ! それよりもたん、フィギュア作ってもええかのう? ええじゃろ?」

 オタクロスがにやにやと提案すると、そのオタクロスの頭を仙道が押さえた。そして彼は、困惑するの代わりに、

「駄目だ」

 と、老人の提案を一蹴した。
 再びくずおれるオタクロス。
 その間に仙道は、を自分の方へと引き戻す。

「あ、ありがとう。仙道くん」
「気にすんな」
「は、はい。……あの、オタクロスさん」

 落ち込むオタクロスの姿に、いたたまれなくなったのかが再び声を掛ける。

「わたくし、フィギュアにされるより、フィギュアを作る方法をお聞きしたいのですが……」
「そ、そうきたかデヨ、たん!?」
「それに……あのフルスクラッチの可憐なLBXをお作りしたオタクロスさんの技術、とっても気になりますわー!」
「おおおー! さくらたんの良さを判ってくれるかのぅ! 見込みがあるデヨ、たん!」

 ……いたたまれなくなった訳ではなかったらしかった。
 また仙道はため息をついた。
 ――今度はの変なスイッチが入っちまったか。
 せっかくオタクロスが大人しくなって、バンたちが本題に入ろうとしていたというのに。
 仙道も内心、シーカーやプラチナカプセルという聞きなれない単語に首をかしげてはいた。だからこそ早く話を進めたいのだが。
 わざわざオタクロスの視線に合わせて屈むの頭を、仙道はいさめる意味で小突いた。

「うっ!」
「フィギュアだなんだの話は後にしろ」
「あ、ああ! そうでしたわ……。すみません」

 申し訳なさそうに頭を下げながら、は立ち上がる。
 ようやくまた、しっかり話し合いできそうな空気になった。今度こそ、というようにバンが口を開く。

「あの、それで、俺たちに協力を……」

 しかし、オタクロスは素っ気なかった。

「断る!」

 散々自慢話に付き合わされた上でのこの返答は、なかなか堪えるものがあった……。

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