しかし此処までの努力を無駄にするわけにはいかない。
 アミとはどちらからともなくアイコンタクトを取ると、オタクロスの目線まで屈み、口を開いた。

「お願いします、オタクロスさん。協力してください!」
「オタクロスさんだけが頼りですの、お願い致します!」

 アミに左手を、に右手をとられ、ダブルで懇願される。
 するとオタクロスはみるみるうちに顔を赤くさせていった。何かを堪えるように唸りながら、オタクロスは声を絞り出す。

「わ、わかったデヨ……! 力を貸してやるデヨ!」

 オタクロスの返事に、アミたちの顔が綻ぶ。しかしそんな安堵も束の間のことであった。
 二人の少女の手を名残惜しそうに離しつつ、オタクロスは改めてバンたちと向かい合う。

「ただし、最後の試練を受ければじゃ!」
「最後の試練?」

 杖で指されたバンが、思わず目を丸める。
 深々と頷きながら、オタクロスは告げた。

「おまいらのオタ道スピリッツをワシが直々に試すデヨ」

 オタクロスは一つのDキューブを展開させた。バンたちの見たことがないジオラマである。どうやらオタクロスの特製品のようだ。LBXのみならずDキューブの自作もするとは、やはりただ者ではない。
 特製ジオラマ・闘技場へ、オタクロスが三機のLBXを出陣させる。どれも見たことのないLBXだ。これもオタクロスのハンドメイド品らしい。
 オタクロスはCCMを手にすると、此方を見た。

「山野バン、アミたん、青島カズヤ。三人まとめて掛かってくるデヨ。そしてオタクロス流LBX闘法に打ち勝つべし!」

 オタクロスのLBXを見ながら、郷田が呟く。

「あいつも、三機のLBXを操るようだな」

 郷田と仙道が視線を交わした。が、仙道は何も言わない。
 そんな二人に挟まれながら、はDキューブを見つめていた。

「ストライダーフレームに、パンツァーフレーム、そしてブロウラーフレーム……。どれも特徴が違いすぎて、同時操作なんて想像するだけで頭がパンクしそうですわ……」

 オタクロスの技術力は並みならぬものであることを、戦う前から突きつけられている気がした。
 それでも最後の試練へと、バンたちはLBXを出陣させた。オーディーン、パンドラ、ハンターが次々にフィールドに降り立つ。
 戦いの火蓋は切られた。
 バン、アミ、カズヤは、次々に攻撃を繰り出す。しかしどれもオタクロスは造作もなくかわしていく。
 その類い稀なるバトルセンスに、郷田が息を呑む。

「三体の動きを確実に見切ってやがる……」
「やるな……」

 仙道にとってもオタクロスの技術は相当なものであるらしい。
 ますますは驚いた。

「仙道くんが素直に誉めるだなんて……さすがですわオタクロスさん」
「あんた、俺を何だと思ってるんだ?」
「えっ? し、思春期の男の子らしい方だと思ってますわ!」

 が答えながら手に絆創膏を貼っているのを見て、仙道は言及することを止めた。
 オタクロスとバンたちの戦いは激しさを増していた。
 確実にバンたちの攻撃を見切りながら、オタクロスは叫ぶ。

「オタ道の極み、教えてやるでよ!」

 オタクロスが素早くCCMのボタンを叩くと、不意にオタクロスのLBXたちが宙へ飛び上がった。
 それぞれのLBXは空中で変形し、ひとつはLBXの頭部、ひとつはLBXの胸部・腕、最後のひとつは腰・脚部のパーツへと姿を変えた。
 それぞれの武器も合体し、巨大な剣となる。そして3つのLBXは、合体し、ひとつの大きなLBXとなった。
 合体を終えたLBXが闘技場に降り立つと、オタクロスは名乗りを上げる。

「超伝導究極合体! パーフェクトZX3、見ッ参ッ! 本物のオタ道スピリッツはこれからデヨ!」

 予想だにしなかったLBXの合体に、郷田と仙道は驚愕した。

「三機のLBXが合体だと!?」
「こんなLBXがあるとはな……」

 そのLBXと今まさに戦っているバンたちの驚きも凄まじかった。

「おい、合体するなんてアリか!」

 そんなカズヤの叫びに、オタクロスは静かに告げる。

「馬鹿め。LBXプレイヤーとはLBXに自分の想いを込めるもの。その思いに限界や常識など無いデヨ」

 熟練者だからこその深く熱い想いに満ちた信念。
 は震えた。間違いなくこのオタクロスという人物は、尊敬に価する素晴らしいLBXプレイヤーだ。

「このパーフェクトZX3はワシの思い、ワシのオタ道スピリッツすべてを込めて作り上げた最高最強のLBX。おまいらもLBXプレイヤーなら全身全霊全オタ道スピリッツを懸けて掛かってくるデヨ!」

 パーフェクトZX3が、その巨体からは想像もつかないスピーカーで突進してくる。

「みんな、避けろ!」

 バンが号令すると同時に、オーディーン、パンドラ、ハンターは動き出す。しかしハンターのみ回避が一歩間に合わず、攻撃を受け、倒れてしまう。

「カズ!」
「大丈夫か、カズ!」

 パンドラとオーディーンが、倒れたハンターのもとへ駆け戻ってくる。何とかブレイクオーバーは免れたが、かなりのダメージが入ったようだ。ハンターの立ち上がりが遅い。

「今の攻撃……三機バラバラだった時よりも早かったわ」

 アミの分析に、オタクロスは得意気に鼻を鳴らす。

「当然デヨ、アミたん。三機合体したことにより、パーフェクトZX3のスピードは合体前の三倍、パワーはなんと30倍になっとるデヨ。……脳内設定ではね」

 オタクロスの最後の台詞に、がっくり肩を落とす三人。
 カズヤはハンターの体勢を立て直しながら項垂れた。

「冗談かよ……」
「冗談かどうかはその目で確かめてみるデヨ! アキハバラの技術力は世界一ィィイ!」

 オタクロスが絶叫し、再びパーフェクトZX3が突進してくる。
 それを見てアミがカズヤに号令した。

「カズ、ライフルで牽制を!」
「任せろ!」

 ハンターのライフルは直撃した。しかしパーフェクトZX3は怯まない。突進のスピードも衰えることは無かった。
 それを見ては血相を変えた。

「まさか、装甲が固すぎて効きませんの!?」

 呆気なくパーフェクトZX3の突進で吹き飛ばされてしまうハンター。
「くそっ!」カズヤが唇を噛んだ。必死にCCMのボタンを叩くが、まだ衝撃が響いているハンターはぴくりとも動けない。
 そんなハンターの目前に、パーフェクトZX3が近づいていた。

「隙ありデヨ!」

 パーフェクトZX3がハンターに向かって剣が振り下ろした瞬間、オーディーンが割って入った。ギィン、と武器のかち合う激しい金属音がたちの耳にも届く。
 攻撃を押さえながら、バンが叫ぶ。

「カズ、今のうちに離れろ!」
「す、すまねえ」
「左右から挟み撃ちよ、バン!」
「ああ!」

 ハンターが離れると、アミの声を合図に、オーディーンとパンドラが攻撃に転じた。見事なコンビネーションで攻め込むものの、それすらオタクロスは簡単に防いでしまう。
 オタクロスの完璧な防御に、郷田が感嘆の声を漏らす。

「二体の攻撃をああも簡単に……」
「奴には三体のLBXを同時に操るテクニックがある。あんな攻撃を捌くぐらいなんてわけないだろうな」

 淡々と語る仙道を見て、郷田は笑った。

「てめえが言うと説得力があるな。さすが俺の舎弟!」

 郷田に肩を叩かれ、ふんと鼻を鳴らして仙道が顔を逸らす。
 二人の雰囲気がだいぶ穏やかであることを確かめてから、は静かにDキューブ内へ視線を戻した。
 一方、戦線から距離を取ったカズヤは、パーフェクトZX3へライフルの照準を合わせていた。オーディーンとパンドラの攻撃を防ぎ続けるパーフェクトZX3の動きは制限されている。
 カズヤは笑った。

「隙だらけだぜ、オタクロス!」

 同時に、ハンターのライフルが火を吹いた。精密に狙いを定められた射撃は、パーフェクトZX3の腰を直撃した。
 ……しかし。

「んお? 何か当たったデヨ?」

 パーフェクトZX3は揺らがなかった。間違いなく直撃したはずの射撃が、効いていなかった。

「直撃だったのに……!」

 CCMを握り締めるカズヤの手が震えている。
 も現状に混乱していた。

「ガッツリヒットでしたのに、固すぎですわ、あんな!」
「それだけじゃないね」

 仙道が短く呟く。
 意味を掴みあぐねたは、混乱を加速させる。

「他に何が原因なんですの……?」
「今までのバトルを振り返ってみな」

 考え込むへ、仙道は説明し始めた。

「山野バンたちが同時に回避に入ったはすがハンターだけ遅れ、攻撃も通らない。相手のLBXが強いにしても、だ。つまり……」
「……まさか、ハンターの火力では足りないということですの!?」

 の不安げな眼差しに、無言で返す仙道。
 沈黙は肯定――。は絶句した。
 しかし一番絶望していたのは、そのハンターを駆るカズヤであった。
 パーフェクトZX3の振り下ろした剣の風圧で、オーディーンとパンドラが吹き飛ばされる。動けない二機へ、じわりじわりと迫るパーフェクトZX3。
 それを見てカズヤは、顔を歪めた。
 ――くそっ、俺だけバトルについてけねぇ! ……ハンターじゃ歯が立たないのか……。
 その間も素早く体勢を立て直し、バンが懸命に攻撃を仕掛ける。
 尽きぬバンたちの闘志に、オタクロスが笑った。

「今からオタ道スピリッツの真髄を見せてやるでよ! 超必殺奥義! 炎の天空稲妻ファイナル無双ビッグバン円月パァァァアンチッ!!」

 長々とした勇ましい必殺技の名前と共に放たれたのは、アタックファンクション・メガサンダークロス。パーフェクトZX3の剣に稲妻のエネルギーが充填され、それは剣先から一気に放出された。辺り一体を、強烈な爆発が包み込む。
 その凄まじさに、郷田は呆然とした。

「なんて破壊力だ……」
「技の名前は違うけどな」

 仙道の細かな指摘が届いていなかったのか、は生唾を飲み込みながら呟く。

「さすが“炎の天空稲妻ファイナル無双ビッグバン円月パンチ”ですわ」
「よく一発で覚えたな、
「メガサンダークロスな。郷田、お前も褒めるな」

 仙道たちの会話を他所に、鮮やかに必殺技を決めたオタクロスは上機嫌になっていた。そばに置いてあったさくら☆零号機を抱きかかえ、頬擦りしている。

「さっくらちゃーん! お祝いのチューしてデヨ!」

 そんなオタクロスを見て、仙道が涼しげな笑みを浮かべた。

「おっさん、勝利を確信するのはまだ早いんじゃないの?」
「んんっ?」

 オタクロスはDキューブへと視線を戻した。
 メガサンダークロスの爆風と粉塵が晴れたそこにあったものは――オーディーンとパンドラを庇うように立ちはだかる、ハンターの姿であった。
「カズ!」バンとアミは思わず叫んだ。
 二人に向けて、悔しそうにカズヤは答えた。

「今のハンターに出来るのは、これくらいしかねえからな……」

 ライフポイントの尽きたハンターがゆっくりと倒れ、ブレイクオーバーする。
 その様を見たオタクロスが、不意に泣き出した。

「う、うわああああん! 自らを犠牲にして仲間を守るとは、なんと美しい友情デヨ、これぞオタ道の極みデヨ!」
「おいおい、泣くか……?」

 反射的にそう呟いた郷田の隣で、がきゅっと唇を引き結んでいる。若葉色の瞳を潤ませながら。
 震えながら涙を堪えるを見て、仙道はやれやれと首を振った。

「泣くなよ……」
「な、泣いてません……まだ……!」
「そうかよ……」

 それ以上は触れないでおくことにして、仙道はバトルに視線を戻した。
 泣きじゃくっていたオタクロスが、ぎゅっと握った拳で涙を拭いながら叫ぶ。

「だが、勝負は非情デヨ! 決めさせてもらうデヨ!」

 目前のオーディーンとパンドラ目掛け、パーフェクトZX3が剣を振りかざした。しかし、その体勢のままパーフェクトZX3は何故か動けなくなってしまう。

「な、何事デヨ!?」

 よく見るとパーフェクトZX3の腰の駆動部が傷つき、火花を散らしていた。ハンターの射撃が命中した、あの場所からである。
 それを見て、アミは満面の笑みでカズヤを振り返った。

「カズの攻撃は、やっぱり効いていたのよ!」

 泣きそうな顔でカズヤが笑う。
 そんな親友の思いをも乗せて、バンが、オーディーンが立ち上がった。

「よし、今だ!」

 オーディーンが軽やかに飛翔した。手にした槍に渾身のエネルギーが込められ、炎のように燃えていく。
 これがオーディーンのアタックファンクション、グングニル。
 炎の槍を、全身全霊の力を以て、オーディーンが放つ。

「貫け! グングニル!」

 絶体絶命の局面からの、一発逆転。
 パーフェクトZX3は、オーディーンの槍に貫かれ、爆発霧散した……。
 バンたちは、最後の試練を突破したのだ。

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