バンたちは両手を上げて勝利を喜んだ。
 友情と努力の連携プレーに敗北したオタクロスはというと、さくら☆零号機に泣きついている。

「うわああ~ん! さくらちゃあん、ワシ負けちゃったデヨォ!!」

 三人の勝利に、郷田も腕を組みながら感心していた。まるで弟妹を見守るような、優しくて穏やかな眼差しがバンたちへ向けられている。

「やりやがったぜ」

 その郷田の隣で、はハンカチを取り出して目元を拭っていた。

「な、泣きそうです……わたくし」
「もう泣いてるだろ」
「ちょ、ちょっとだけですもん……!」

 仙道の指摘に震える声で返す少女が泣き止むまでは、もう少し掛かりそうだ。
 勝利を噛み締めた笑顔のまま、バンはカズヤを顧みた。

「カズの攻撃のお陰だよ」
「ああ。……ハンター……」

 傷ついたハンターを握りしめ、じっと見つめるカズヤ。勝利を素直に喜べずにいる彼の表情には、隠しきれない辛さが滲んでいた。
 一方さくら☆零号機に泣きついていたオタクロスはというと、すっかり涙を引っ込め、ついでにDキューブも回収していた。
 バン、カズヤ、アミたちに、オタクロスは満面の笑みでグーサインを出す。

「やるな、おまいら。バッチグーじゃ、これならばゴッドゲートを突破することができそうじゃぞ」
「えっ、それじゃあ!」

 バンが目を輝かせる。
 オタクロスは深く頷いた。

「これよりおまいらのLBXをインフィニティーネットに送り込むデヨ」

 LBXをネット空間に送り込む理由を皆が訊ねる前に、オタクロスは真横のパソコンを操作し始めた。一際大きなモニターに電源が入り、様々なウィンドウが出現する。
 ものすごいスピードでパソコンを操作しながら、オタクロスは説明してくれた。

「メタナスGXに隠されたプラチナカプセルの解読コード。こいつを手に入れるには、インフィニティーネットを経由して、無線通信ボードからメタナスGX内部へアクセスするしかない」

 画面が突如切り替わる。先まで表示されていたウィンドウは全て消え、代わりに表示されたのはネット空間の映像だった。青空のような背景の空間内には、大きさや色も様々な半透明の球体が随所に浮かんでおり、それらは全て細いコードのような光で繋がれている。その最奥にある強い輝き……。あれが恐らく、オタクロスやバンたちが目指すものなのだろう。
 オタクロスの説明は続く。

「じゃが、インフィニティーネット内部には様々な妨害プログラムやトラップが仕掛けられておる。それらを突破するには、LBXをデータとして送り込み戦いながら進むのが一番効率的なんじゃ。ゴッドゲートを破るにもな」

 モニターを眺めながら、バンが息を呑む。

「ゴッドゲート……」
「メタナスGXを守る、最強の防壁ね……」

 呟くアミも、じっと無言でモニターを見守るカズヤや郷田にも、緊張が走る。
 は首をかしげながら仙道を見た。

「メタナスGXって、アルテミスの景品でしたわよね?」
「そうだったな」
「……仙道くん、状況が飲み込めてます?」
「あんたこそ飲み込めてないんじゃないの?」
「……はい、全く」

 二人はすっかり蚊帳の外だ。
 オタクロスがキーボードを叩くスピードは増していく。

「ゴッドゲートはワシがこじ開ける。その間におまいらがLBXで解読コードをとってくるのじゃ。そこの仮想空間スキャナーでLBXをデータ変換し、インフィニティーネット内に送り込む」

 パソコン本体に端子で繋がれた台座を指しながら、オタクロスは言った。

「ただし、今回データ化して送れるのは2機までデヨ。ゴッドゲートを開く作業と並行して行わねばならんからの、それが限界デヨ」

 オタクロスの言葉を受けて、真っ先に名乗りをあげたのはバンだった。

「俺がオーディーンで行きます。こいつはプラチナカプセルを守るために作られたんだ。俺が行かなくちゃ」
「ではもう一機は……」

 頷きながらオタクロスが口を開きかけたとき、郷田が拳を手のひらに打ち付けながら言った。

「俺だな。どんな妨害を受けようが、ハカイオーなら全部ぶっ潰せるぜ」
「どういう状況になるか判らないんだし、パンドラが良いと思うわ」

 しかしそこに、冷静にアミも加わってきた。
 彼らのやり取りを見ながら、仙道はふいとそっぽを向きながら吐き捨てる。

「俺は行かない。どうしてもって頭を下げるなら別だけどね」
「わ、わたくしじゃいてもいないのと同じですし……無理ですわね」

 仙道の冷たい言葉に郷田がムッと顔をしかめたのを見て、が慌てて喋り、遮る。また喧嘩になっては困る、と言いたげに。
 そんな時、カズヤが決心したように顔をあげた。

「……バン。俺に行かせてくれ」
「カズ……」

 ハンターを手にしたまま、カズヤは続ける。

「さっきのバトルで判ったんだ。今の俺とハンターじゃ、力不足だって。でもハンターは、バンと一緒に戦うために、バンの親父さんが作ってくれたLBXだ。こいつの力が足りないなら、俺がもっとうまく使うしかない。そのためには、より多くのバトルを経験していくしかないんだ」

 バンは僅かに瞳を潤ませながら、カズヤの決心に耳を傾ける。
 そしてカズヤは、改めてバンへ頼み込んだ。

「必ず力になって見せる。だから俺を行かせてくれ。バン」
「……判った、カズ。行こう」

 バンとカズヤは、互いの顔を見つめて頷き合った。
「美しい友情デヨ!」二人の絆に感動したオタクロスのテンションはすっかり上がっていた。
 早速バンのオーディーン、カズヤのハンターが仮想空間スキャナーへ設置される。

「それではいくデヨ、フェードイン!」

 オタクロスの号令と共に、二人のLBXがヴァーチャル変換され、モニター内に映るインフィニティーネットへと出現した。
 オーディーンとハンターを先導するように、何処となくオタクロスのLBXに似た形のアバターも現れた。
 早速オタクロスのアバターに導かれながら、バンたちはインフィニティーネットを進んでいく。
 メタナスGXに辿り着くまではまだ時間が掛かりそうだ。
 そこでは、郷田を見上げた。

「あの、郷田くん。お聞きしても良いですか?」
「何だ?」
「郷田くんたちがしていることや、どうして大会で強奪されたメタナスGXがインフィニティーネット内にあるのか……そういった諸々のことについてです」

 バンたちがただならぬ何かを抱え、立ち向かっていることをは察していた。だからこそ、何も知らぬまま傍観しているのはもどかしかった。せめて友達として、仲間として、しっかりと理由を知っておきたい。そうすれば、自分にも何かできることが見つかるかもしれない……。そう思った。
 の真剣さは、郷田にも伝わったようだ。

「……ちょっと長くなるけど、我慢して聞いてくれよ」
「はい」

 しっかりとが頷いたのを見て、郷田は話し始めた。

「俺たちは世界を守るために戦ってる。そのために俺たちが所属しているのがシーカー。レックスや拓也さんが中心になって作った対テロ対策ユニットだ」
「れ、レックスさんたち……!? て、テロ対策っていうことは、テロリストがいますの……?」
「ああ。世界を支配しようとしてる反政府組織、それがイノベーター。こいつらは手段を選ばねぇ悪の軍団だ。おまけにLBXまで悪用しやがる」
「まさか、メタナスGXを強奪したのは……」
「ああ。イノベーターの奴らだ」

 は青ざめた。アルテミス大会でのメタナスGX強奪事件の際、何人もの警備員が殺されたことを知っていたからだ。手段を選ばないというのは本当らしい。
 更に郷田は語る。
 バンの父にしてLBXの産みの親・山野淳一郎博士がバンに託したLBXの中に入れられたのがプラチナカプセル。その中には、彼が考案した無限稼働機関・エターナルサイクラーの設計図が収められている。それさえあれば世界のエネルギー問題を一気に解決することができる夢の発明品だ。
 しかしイノベーターは、エターナルサイクラーの技術を利用し、世界を支配しようと目論んだ。
 その為に山野博士はイノベーターに誘拐されたのだという。
 ただ山野博士は、イノベーターの裏をかく発明や発想で、プラチナカプセルの解読コードをアルテミス大会優勝賞品・メタナスGXに入れることに成功した。バンたちがアルテミスに出場したのも、プラチナカプセルの解読コードの封印されたメタナスGXを手に入れるためだったのだ。
 しかしメタナスGXは強奪されてしまった。そこでインフィニティーネットを辿り、メタナスGXにアクセスすることで、解読コートを入手することになった。
 そしてイノベーターより先にエターナルサイクラーの設計図を手にし、イノベーターの野望を食い止める……。
 それが今のバンたちの目標だ。
 一通り話を聞き終えたは、呆然とした。

「そんなに大変なことに……」
「バンは本当にすげえぜ。何度もイノベーターの襲撃を返り討ちにして、親父さんの無事を信じて、必死に頑張ってきてよ……」
「郷田くんたちも仲間なのでしょう? みんなで頑張ってきたのでしょう? バンくんはもちろんですが、みんなすごいですわ……」

 あんなに小さな少年に、世界の命運が託されている。
 辛い目に何度も遭いながら、それでも輝きを失わない瞳。
 逞しく前に進み続けるバンたちに、はどんな言葉を掛けたら良いのか判らなくなってしまった。
 そんなを見つめながら、郷田は悩んだ。
 最後に話さなくてはならないことが、ひとつあった。しかしそれは、にとってどう響いてしまうか判らない重大さを併せ持つ。
 郷田はカンパニーが“敵”ではないことを知っている。そのことはレックスや拓也が証明してくれた。
 アングラビシダスの日、が持ってきたというUSBメモリによって――。

(だからって俺に話させるのはちょっと酷だろうよ……)

 しかし郷田は決意した。
 思い悩むへ、郷田は最後にこう告げる。

「イノベーターを率いているのは――海道義光だ」

 は目を見開いた。
 ……言葉にならなかった。
 海道財閥、そして海道義光は、の両親の会社にとって重要な存在だ。
 義光の計らいがあったからこそ、カンパニーは今も潰されずに済んでいる。そしてカンパニーは、その海道義光の研究へ協力している。もちろん、義光の推進する地殻動発電に対してもだ。

「お父様……お母様……。どうして……」

 自分の両親は騙されているのだろうか?
 それとも判った上で義光へ従っているのだろうか?
 何がどうして、どう繋がっているのか、訳が判らない――!
 もしや自分が過去に誘拐されたことも、何らかの繋がりがあるのだろうか?
 は酷く狼狽えた。
 郷田の顔を見ていられなくなった彼女は、顔を逸らし、俯いてしまう。自分を戒めるように握り締めた両手が小刻みに震えている。

「私は……ここにいても良いんですか……?」

 泣きそうな少女の呟きに、郷田は目を細めた。

「……後だしみてぇで悪いが、レックスたちも、のことは“味方だ”って言ってたぜ。だから俺もこうやって話した」
「郷田くん……」
「つまりなんだ、その……」

 郷田は不意に言い淀んだ。
 何事かと、おそるおそるは郷田を見上げた。
 恥ずかしそうな、困ったような、少年らしい表情がの目に映る。
「お前の会社とか、両親とかもよ、事情があるんだろ。海道の傘下イコール、お前が悪者って訳じゃねえよ」

 どうやら郷田は、の心境を察して励まそうとしてくれているようだった。
 よほど慣れていないのか、ずっと恥ずかしそうに頭を掻いている。
 その姿を見ていると、の心は少しばかり和らいだ。

「ありがとうございます、郷田くん」
「おう……」
「わたくし、父と母にしっかり確かめてみますわ」
「無理はすんなよ」
「はい!」

 二人のやり取りを、仙道は無言で眺めていた。不満げな顰めっ面で、じとっとした眼差しを向け続けている。しかし郷田ももそんな仙道の視線に気づくことなく、パソコンのモニターへと視線を戻した。
 仙道も仙道で、そんな自分が馬鹿馬鹿しくなったのか、黙りこくったままモニターに向き直る。
 バンとカズヤ、オタクロスの努力の甲斐あって、メタナスGXのデータは目前にまで迫っていた。

「あれがメタナスGX……」

 バンがそう呟いたのとほぼ同時に、メタナスGXを守るゴッドゲートが起動した。
 メタナスGXを包むように展開された防衛プログラムに、早速オタクロスのアバターが突進していく。

「ハッキング開始デヨ!」

 オタクロスのタイピングスピードは更に勢いを増していく。「頑張って、ご主人様!」「もちろんじゃ、さくらちゃん!」さくら☆零号機に声を当て、自分で自分を励まし声援を送るオタクロス。

「変な人だけど……すごい」

 アミの呟きは至極もっともであった。
 しかしそんなオタクロスとさくら☆零号機の努力が実を結び、徐々にゴッドゲートが開き始める。

「ゴッドゲートが!」
「頑張れ、オタクロス!」

 バンとカズヤの声援に、オタクロスは笑う。

「友の叫びは勇気の力! ぬおおおおっ!!」

 遂にゴッドゲートへのハッキングが成功した。開かれたゲートの中へアバターが突撃し、強引に入り口を押し開いたまま留める。

「ワシがゴッドゲートの入り口を押さえている間にいくデヨ!」

 オタクロスの叫びに応え、オーディーンとハンターがメタナスGXのデータ内へと飛び込んでいった――。

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