今日もは、ミソラタウンのゲームセンターに来ていた。もちろん仙道と郷田の特訓のためである。
しかしバトルはせず、がタブレット端末を抱えて二人に動画を見せている状況にあった。先日彼女が撮影した、仙道と郷田のバトルの映像だ。
映像を時折一時停止しながら、は自分なりの考えを二人に伝える。
「……それで、この時の郷田くんの攻撃、パターンがさっきと同じなんです。だから仙道くんも避け方が染み込んで、単調な回避の繰り返しになってます。それに郷田くんが気付いて次は方向を変えますけど、仙道くんはそれを読んでますのね。あっさり回避して攻撃に転じました。けれどさっきまで染みていた単調な動きが抜けてなくて、ちょっとぎこちなくなってますわ……」
そうして解説を終えたが、端末の電源を切る。そして、じっと自分を見つめる番長たちにはっきりと告げた。
「とどのつまり、バトルに打ち込みすぎて二人とも休憩が足りなくなって集中力が切れてしまってますの。休息も訓練のひとつですわ! 今日は少し休憩致しましょう」
「そんな暇あるかよ!」
真っ先に郷田が異論を唱える。
「アキハバラキングダムまで時間がねえんだ。俺たちは負けるわけにはいかねえ……。休んでる暇があったら特訓あるのみだ」
には郷田の気持ちが手に取るように判った。巨大な敵を前に“休め”と言われても素直に聞けるはずがない。しかし同時に、連日の激しいバトルが彼等の調子を乱しているのを、少女は痛感していた。戦いが大きいからこそ、その瞬間に最高のポテンシャルで挑めるよう調整していくべきなのだ。
拳を握り締める郷田を、隣の仙道は鼻で笑った。
「いくらやっても負ける奴は負けるけどねぇ」
「なんだと……」
「郷田。お前は、相手を見て戦略を練る技量が足りないんじゃねぇか?」
「てめぇ、いっぺん勝ったぐらいで調子乗りやがって!」
「そのままお返しするぜ」
は嘆息した。喧嘩をする元気があるならもう少し特訓を続けても良いのかもしれないとも思った。
(って、そんな訳無いですわ!)
口論の止まぬ番長たちをキッと睨み上げ、は意を決する。
「二人とも、いい加減にしてくださいっ! 喧嘩こそ何よりも無駄な時間でしょうに!」
黄色い声援を上げることは多々あれど、怒鳴るという行為は滅多にしたことがないにとって、それは想像以上に気力を要した。
だがその甲斐あって、仙道と郷田はピタリと沈黙した。の怒号に、目を丸めている。
「今日は休みつつ、わたくしの考えた特訓メニューをやって頂きますわ! よろしいでしょうか?」
何時もと違う妙な威圧感を持った彼女の笑顔に、少年たちは大人しく頷いて答えていた……。
つい忘れがちだが、は二人より1つ年上のお姉さんなのだ。人見知りしがちでよくドジを踏んだり、仙道のこととなると我を失い一喜一憂したり、間抜けだったりするが、しっかり者な一面もある。今、二人の喧嘩を止めてみせたように。
素の姿を見せられるほど打ち解けてきたということなのだろう。喜ばしいことだ。だが女性独特の強かな雰囲気に、思春期真っ只中の番長たちは密かに困惑していた。
更に困ったことに、二人ともの怒る姿に驚きながらも「新鮮で悪くない」と感じていたのだった。
彼らが反論しないことを“承諾”と受け取ったは、ニコニコと続ける。
「では早速ですが……お二人とも、互いのLBXの武器を交換してくださいな!」
の提案に、二人は目を剥いた。
「はぁ!? 仙道のとだと?」
「郷田の武器と? 何だそりゃ……!?」
びっくりするほどタイミングの合った彼等の反応に、は「微笑ましいですわー」と暢気に笑っている。
「たまには違う武器で戦うのもいいトレーニングになりますわよ。それにはお二人が武器を交換するのが手っ取り早いと思いまして……。何だかんだでお二人は互いをよく観察なさってますから、結構しっくりくるかもしれませんし!」
の話を聞いて一理あると思ったのか、二人の少年は押し黙った。が、納得まではいかない。天地がひっくり返っても納得してたまるか、と考えた。
「……使うにしても仙道のLBXの武器なんざゴメンだぞ」
「俺も、郷田のLBXの武器なんか使いたかねえしコッチの武器を貸したくもない」
ぷいっと同時にそっぽを向く郷田と仙道。
――却下される想像はしてましたけど、こんなにタイミングぴったりとか、お二人は実は仲良しなんじゃないかしら。
一人で考えながら、は端末を鞄にしまう。
二人の性格を十分に理解しているは、こんなこともあろうかと次の手を用意していた。
「でしたら、この武器を使っていただきますわ!」
そう言っては、鞄に突っ込んだままだった手を引っ張りだし、高々と掲げた。
彼女が握り締めるその武器は、のLBX・ヴァルキリーのものと同じ槍系武器……通称、ランドグリース。
「郷田くんのハカイオーは剣。仙道くんのジョーカーMk-2はハンマー。お二人とも普段、槍系武器はお使いになっていませんわよね? たまに違う武器を振るうと、その武器の扱い方だけでなく、その武器を得意とした相手への対策を練りやすくなるはずですわ!」
アキハバラキングダムがどんな形式で行われるのか、どんなプレイヤーが登場するのか。ほとんどが謎に包まれている。打てる手は全て打って挑まなくてはならない。
そして槍といえば、バンが得意とする武器である。どちらがアキハバラキングの称号を掴むかと燃える番長たちにとって、アルテミス優勝者であるバンもライバルの一人に違いない。だとすれば、槍系武器を使うことは特訓に繋がるはずだとは考えた。
あわよくばは、仙道に“キング”の称号を手にして欲しいと思っていた。だからと言って郷田たちを応援しない訳ではない。郷田やバン、他の友人たちが優勝したならば同じように嬉しいし、全力で祝いたい。大切なデータの入手という目的が果たせ、世界を救えるならば、友人も想い人もは力の限りサポートする心構えだ。……時に想い人に比重が傾きそうになるのを、必死に堪えてはいたが。
仙道も郷田も「の用意した武器なら」と渋々ながら納得し、彼女から武器を受け取る。
「ランドグリースはそのままお二人に差し上げますわ。専用の必殺ファンクションもある立派な武器ですのよ!」
胸を張るに、郷田と仙道は早速ランドグリースを装備しながら返す。
「武器のスペアあったんだな……。でもよ、武器だけスペアあるのもどうなんだ。意味なくねえか?」
「必殺ファンクションねぇ。あんた、すぐブレイクオーバーしちまうから見た記憶が無いんだけど」
純粋な疑問を――またもや図ったかのように同じタイミングで――ぶつけてくる二人に、は「うっ」と声を詰まらせた。
「二人揃って痛いところを突きますわねー! ぐうの音も出ませんわ!」
台詞のわりにはは満面の笑みを浮かべている。彼女が悔しいのか嬉しいのかよく判らない。しかしそれも何となくらしいと少年たちは感じた。
はいそいそと機器を取り出し、バトル撮影の準備を始める。
「ではランドグリース限定戦ですわ。これもしっかり動画を撮りますわね」
「終わったらどうすんだ?」
「いったん休憩に致しましょう。大きな戦に備え、休養できる時に休養するのも戦略のひとつですわ!」
「バトルの腕前はお粗末な割に、言ってることはしっかりしてるねぇ」
仙道の言葉に、は顔を綻ばせたまま、
「誉め言葉だけ拾っておきますわ!」
そう言ってみせた。
「仙道、あんまイジメてやんなよ」気の毒に思った郷田が呟くも、仙道は涼しい顔で流す。
仙道は知っている。この程度のことで彼女は落ち込まない。機嫌を損ねたりしない。彼の胸の中にあるへの信頼。少しずつ結ばれていった絆。そして……今まで積み重ねてきた彼女との思い出が、そう教えてくれる。
実際には幸せそうに、嬉しそうに笑っていた。
仙道も返すように微笑を浮かべる。
その二人を、郷田は何も言わずに見つめていた。
◆◆◆
の「休息も特訓のひとつ!」という言葉により、今日の特訓は早めに切り上げられた。
「お二人ともしっかり休んでくださいね。じゃあ、また明日ですわ」
二人に向かって笑いながら手を振り、は商店街から去っていった。これから家で動画を見返し、また彼女なりに二人のサポートをしようと励むのだろう。
郷田は、の背中が人混みに紛れて見えなくなるまで手を振っていた。仙道は手こそ振らなかったが、しっかりが帰るのを目で追っていた。
「……おい、仙道」
手を下ろした郷田が、ふと仙道の方を見た。
仙道は目を細めながら返す。
「何だよ」
「お前とは友達なのか?」
「はぁ?」
顔をしかめた仙道に、郷田は冷静なまま続ける。
「友達ってだけなのか? って聞いてんだ」
「……何が言いたい?」
「そのままの意味だ」
「ますます訳がわからないね」
仙道がそう言って視線を逸らす。仙道自身、との関係については悩んでいた。感情の整理も出来ていない現状では、郷田に答えることすらままならない。それがますます仙道を不機嫌にさせる。
しかし郷田はそれ以上言及することは無かった。
「友達なら良い。気にすんな」
言うだけ言って一人で納得した郷田は「じゃあな」と立ち去ってしまう。
勿論仙道は苛立った。
「何だってんだ、一体……」
不機嫌なまま、仙道も帰路につく。
気にしないようにしようとすればするほど、郷田の言葉は仙道の思考について回る。帰ったらLBXをメンテナンスするつもりだったが、家に着いた頃にはその気力すら削がれてしまった。
結局仙道は、この日はもうLBXに触れることなく眠りについたのだった。
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