「オレッチはヤマネコ。こっちのでかいのはグンソウ。そんでこっちがマジョラムだ」

 白い髪の少年の紹介へ、郷田は腕を組みながら応じる。

「おい、ハッカー軍団さんよぉ。悪いがてめえたちには負けねえぜ」

 すると何故か、ヤマネコたちは揃って笑い出した。明らかに此方を馬鹿にしての態度だ。でも判る。

「一回戦のオレッチたちがどんだけ手ぇ抜いたのか判ってねえぜ」
「何だと……」

 郷田が思わず溢す。驚くのも無理はない。メテオトレインを一瞬で倒して“手を抜いていた”だなんて。
 挑発に負けじと、バンと郷田は相手を睨む。
 魔女のような女性……マジョラムが、上品に片手で口許を隠しながら笑う。

「ワタシたちのことを知らないでキングになろうだなんて~……」
「ボクタンたちに勝てると思ってるんだモン」

 グンソウも挑発的な態度を崩さない。
 仙道はバンたちに歩み寄り、肩を並べると、ヤマネコたちを見据えた。

「弱い奴ほど群れたがるもんだよねェ」
「そういうおめえらも三人で組んでるじゃねぇか?」

 ヤマネコが笑い返しながら言った。その通りなのだが、このチームは彼らが望んで組んだ訳ではない。また番長同士の喧嘩になってはたまらない、とは意を決して踏み出した。

「これには事情がありますの。ね……、ねえ?」

 そう言って話題をやんわり逸らすつもりだったが、上手く行かなかった。

「ああ、冗談じゃねえ。誰が好き好んでこいつと……」
「オタクロスの奴に無理矢理組まされただけだ」

 郷田と仙道が互いを睨み、苦々しい顔のまま溢す。
 するとますますヤマネコたちは大声で笑い出した。

「おい聞いたか? こいつらオタクロスの言いなりだってよ!」

 自分は余計なことをしただけかもしれない。険しい表情になる仙道たちを見て、はがっくりと肩を落としていた。
 怒りを抑えきれない郷田が踏み出しかけるのを、冷静にバンが手を掲げ、制止する。

「ダメだよ、郷田」

 バンに嗜められた郷田を見て、皮肉るように仙道が肩を竦めた。

「あーあ、奴等に乗せられちゃって」
「やかましい」

 ハッカー軍団に向けられていたはずの鋭いものたちが、一気に番長間へと移動してしまった。敵を目の前に仲間割れだ。
 は、これ以上彼らの喧嘩が酷くならないよう祈った。最悪止めに入る心構えもしながら。
 そんなの不安を他所に、マジョラムが呟く。

「チームワークも何もあったものじゃりまセーン。地獄の破壊神、箱の中の魔術師……どれも御大層なネーミングだけど、看板倒れなのデース」

 そして再び大笑いするハッカー軍団に、の不安は増した。……だがそれよりも、仙道や郷田、バトルに打ち勝ったバンたちを馬鹿にされたことが、どうしようもなく腹立たしくなった。
 バトルの瞬間、三人は――自覚していなかっただろうが――共に戦っていた。相手に勝つために、言葉を交わしあっていた。協力して勝利を手にしたのだ。

「看板倒れなんかじゃありませんわ!」

 突然声を張り上げたに、ハッカー軍団はぎょっとした。
 側にいるバンたちも目を丸めている。

「郷田くんも仙道くんも素晴らしいプレイヤーですし、それにバンくんの戦いの中で成長していくようなバトルセンスは並大抵のものじゃないですっ!」
「ん? 一体誰だモン?」

 グンソウが首を傾げるのも当然だ。はLBXに関して全くの素人。そこらのモブキャラ同然の存在であり、この場にいるのは奇跡としか言いようがない。しかし、仙道たちの強さを傍で見守ってきた友人であり仲間だ。親しい人たちを馬鹿にされ、黙っていられる筈がなかった。
 が下げているスタッフパスを見て、ヤマネコが「ああ」と頷いた。

「お前があのカンパニーのお嬢様か。こっちのデータによりゃバトルの腕前は……」

 言いながらヤマネコがCCMを取り出し、何か調べ始める。暫く端末を眺めていたヤマネコの目が一瞬だけ点になった。その理由はが一番よく知っている。
 ……単独で勝てたバトルは、今のところ、無い。

「……酷いもんだな」
「どうお調べになったのかはともかく、ええ、酷いですわ。メッチャクチャで見られた戦績ではありません」
「なんで胸張ってるんだモン……?」

 グンソウの指摘も物ともせずは叫んだ。

「だから仙道くんたちを馬鹿にするのは止めてください! 馬鹿にしたいなら仙道くんたちではなく、わたくしにしてください!!」
「な、なんか怖いモン……」
「鬼気迫るものがありマース……」

 馬鹿にされて喜ぶ人間などいない。だが、友人を馬鹿にされるぐらいなら自分を馬鹿にされた方がマシだ。そう思うの言葉は、熱が入りすぎて白い目を向けられる。
 それでも、とまた口を開きかけるの手が掴まれた。我に返った彼女が振り返ると、バンと目が合った。
 少年は、諭すような眼差しでを見上げている。



 バンに止められ、はそっと引き下がる。自分の方が年上なのに情けない。
「庇ってくれてありがとよ」と郷田も気遣ってくれ、彼女はますます己の未熟さを痛感した。気遣い自体はとても嬉しい。だが、年上としてもう少ししっかりしたいのだ。
 バンは、改まってヤマネコたちに向き直る。

「お前たちハッカー軍団に頼みたいことがある」
「は? 頼みごと?」

 ヤマネコが目をすがめると、バンは深く頷いた。一拍置いて、はん、と笑いながらヤマネコは片手を振りながら答える。

「ま、お前がアキハバラのキングになったら何でも聞いてやるよ」
「本当だな」
「ええ」

 郷田が念を押すと、マジョラムも頷く。態度はともかく、しっかり筋は通す組織のようだ。前キングのオタクロスを倒した現キングに従っていることからも、それは間違いなさそうである。

「よし、約束だぞ!」

 バンが言うと、またもやヤマネコは挑発するような笑みを浮かべた。

「アルテミスで優勝したからってイイ気になるなよな」
「マスターキング様のもとへは行かせまセーン」

 マジョラムの言葉を最後に、ハッカー軍団たちは立ち去った。
 遠ざかるハッカー軍団の背中を見つめながら、郷田はあからさまに顔を顰める。

「いちいちムカつく野郎たちだぜ……ったく。あいつらに頼まなきゃ、本当に解読コードは取り戻せねえのかよ?」
「なかなか気難しい方々のようですけれど、実力があるからこその態度なのだと思いますわ……。実際に初戦は凄まじかったですし」

 がそう続くと、渋々ではあったが郷田は納得したように「だな……」と呟いた。
 黙ってハッカー軍団を見つめるバン。その後ろで、仙道は早速次のバトルについて占いを始めていた。

「“魔術師”の正位置……。つまりこのバトル――」

 仙道が言いかけたとき、郷田が動いた。彼は仙道の手からタロットカードを取り上げ、ぽいっとに向かって投げる。ひらひらと不規則に舞うカードを、は慌てて両手でキャッチした。ほうと少女が一息ついたのも束の間、間髪入れずに仙道が叫ぶ。

「っ、何しやがる!?」

 その剣幕に、の肩はびくっと跳ねる。
 怒りを露にする仙道をじろりと睨みながら、郷田は答えた。

「ムカつくんだよ……。こんなもん使わなきゃマトモに喋れねえのか?」
「俺がなにしようが俺の勝手だ!」
「ふ、二人とも仲良くやろうよ……。一緒のチームなんだからさ!」
「そ、そうですわよ! それに個人的にこの占いの結果が物凄く気になるんですけれどっ……」

 二人を諌めるバンとの苦労ぶりは、離れた場所から様子を見守るカズヤたちにも伝わっていた。不安げに様子を窺っている。
 あれやこれやと番長たちに呼び掛けてみるものの、どれも効果はない。流石のバンも、堪忍袋の緒が切れた。

「二人ともいい加減にしてくれ!!」

 バンの叫びに、郷田と仙道がピタリと止まる。も驚いた。
 勢いのまま、バンは番長たちに告げた。

「こんなことじゃマスターキングに辿り着けないぞ! だから決めた。二回戦は郷田と仙道、二人で出てくれ」
「まぁ、何て素敵な!」

 が歓声をあげ、当然郷田と仙道は「はぁ!?」と不満たっぷりに凄んだ。
 郷田はバンに詰め寄っていく。

「は!? こいつとタッグだぁ!?」
「俺は一回戦を突破した。次はお前たちの番だ」
「……まあ、一理あるか」

 納得した郷田とは違い、仙道はお断りだと言わんばかりにツンと顔を逸らしていた。

「俺はコイツとは合わない。戦い方がガサツすぎて、癇に障る」
「特訓の時のお二人、素敵でしたのに……」
「あれはお前が無理矢理色々やらせただけだろ」

 仙道にそう突っぱねられ、は口ごもる。

「……申し訳ないです」

 それきり口を閉ざしたへ同情したのか、仙道の態度が気に障ったのか、郷田は嘆息した。静かな怒りの込められた眼差しが、仙道へ向けられる。

「おい仙道。気に食わねえからってに当たるこたぁねえだろ」
「事実を言ったまでだぜ? 別に八つ当たりした訳じゃないさ」

 ふてぶてしい仙道に、郷田は舌打ちしたくなった。

「俺もお前とは合わねえ。けどな、こちとら世界が懸かってんだよ」
「世界ねえ……。俺にはお前らの関わってることが、どうにも信じられねえけどな」

 仙道の眼差しには、バンたちの話への疑念が宿っている。無理もない。あまりにスケールが大きすぎて、本来ならば子供たちが関わるようなことではないのだ。だがそれを一から説明している時間もない。
 苛立ちのあまり郷田は仙道を睨みつけ、怒鳴る。

「信じようが信じまいが、舎弟は黙って言う通りにしろ!」

 ふん、と顔を背けたままの舎弟に、彼も顔を背けながら言った。

「二回戦は俺とお前で行く。嫌なら動くな。俺ひとりで奴らを片付ける」
「そうかい……。判ったよ」

 素直に応じた仙道は、冷酷な笑みが浮かべていた。流石に胸を高鳴らせている状況ではないことをでも判っている。
 ライバルとタッグを組み、大事なバトルに挑む時に、一番見たくない種類の感情が込められたその笑み。
 少女の脳裏に過ったのは、アルテミスでの仙道のバトルだった。チームメンバーすら犠牲に戦う彼のバトルスタイルは諸刃の剣だ。この試合、一体どうなるのだろう。既にチームワークは相手の方が上だ。なにせ仙道と郷田は、目を離せば喧嘩するような犬猿の仲でなのである。

「大丈夫かな……」

 冷や汗を流しながら呟くバンの不安は、にも痛いほど伝わっていた。

「ちょっと素っ気ないぐらいが仙道くんは魅力的で本調子ですわ。郷田くんも根はとても優しいお方ですから、きっと大丈夫です」

 は笑ってバンを見る。紡いだ言葉は、自分に言い聞かせる意味も含まれた、一種の願いに似たもの。
 バンは、彼女の言葉に顔を綻ばせ、無言で頷く。もまた頷き返してみせる。

『怒濤のバトルが展開しております、アキハバラキングダム! 一回戦を終え、いよいよ二回戦のスタートです! 二回戦は、各チームより二名選出のタッグバトル。チームメイトとのコンビネーションが、勝利の鍵となるでしょう!』

 角馬のアナウンスが響き、一同はモニターを見上げられる位置へと移動した。
 仙道は相変わらず、皆の輪から少し外れた場所に立っている。それが何となく気になって、はいそいそと彼の隣に立った。
 が来るなり、仙道は眉を顰めた。不愉快な訳ではなく、何か気まずそうに見える。にその理由は判らない。退けろと言われればすぐに従うつもりだが、そんな気配もない。

「仙道くん。カード、お返しします」
「……悪いね」

 短い言葉と共に、仙道はからタロットカードを受け取った。
 前にもこんなやりとりをした覚えがある。口にこそしなかったが、仙道は密かに、アルテミスでのの行動を思い出していた。
 二回戦のジオラマは砂漠。ピラミッドや遺跡といったものもあるが、その殆どは砂である。足を取られたり、土煙が派手に上がって視界を塞いだり……なかなかに面倒なステージだ。日夜修行に励むも砂漠ジオラマに挑戦したことがあったが、ヴァルキリーは見事に転び、砂まみれになった。細かな砂が機体の隙間に入り、メンテナンスにはとても苦労した記憶がある。

「仙道くん。私、あなたのご活躍を心から応援しております。郷田くんと共に華麗な勝利を飾ってくださいね!」
「ああ。……言われなくても勝つさ」
「ですわよね! ふふ、失礼致しました。では……」

 そう言って何処かへ向かおうと歩き出すを見て、つい仙道は「おい」と、呼び止めてしまった。

「……何処に行くんだ?」
「え? 一応少しはスタッフらしい仕事をしてこようと思いまして……」
「成る程ね。無理すんじゃないよ。……それから……」

 仙道が何かを言い淀んでる。
 は首を傾げた。なんでも淡々ときっぱり発言する彼がそんなに言いにくいこととは、一体なんだろう?

「さっきは……」

 ――その時、向こう側から大泣きする男の絶叫が聞こえた。

「アミたんが名前を呼んでくれたんだなああああ!」

 反射的に二人が叫び声のした方を見ると、何やらアミとオタイエローが一悶着起こしているようだった。それが済んだかと思いきや、今度はジンがオタピンクに一目惚れされている。離れていても伝わる熱気と賑やかさに、は苦笑した。

「元気ですわね、オタレンジャーさんたちは……。それで仙道くん、今言いかけていたのは?」
「……何でもねえ」

 すっかり仙道は気を削がれてしまっていた。俯く彼を見て、は微笑む。

「そうですか。……何かございましたら遠慮なく仰ってくださいね」

 仙道が頷いたのを確認してから、は今度こそスタッフ作業のために走っていってしまった。
 ゆるりと仙道が顔を上げれば、スタッフに紛れる場違いな令嬢の姿がすぐ見つかった。随分遠くにがいるように感じられた。すっかり、手の届く範囲に彼女がいるのが当たり前になってしまったようだ。
 ――どうしてだろう。
 拡声器を持って観客に呼び掛けているを見つめ、仙道は思った。
 ――どうしてアイツに当たるような無様な真似をしちまったんだろう。
 ――どうしてアイツが行く前に、さっさと謝れなかったんだろう。
 ――どうしてアイツに謝れなかったことが、こんなに辛いんだろう。
 苛立っていたのは確かだ。だからといって、一番そんなことをしたくない相手に向かって、自分はそうしてしまった。その事実が仙道へ重くのし掛かる。
 靄つく胸中のまま、仙道はバンたちと共にステージへと上がった。

『それでは二回戦第一試合、ハッカー軍団対山野バンチーム! レディー……』

 実況に合わせ、ハッカー軍団のヤマネコとグンソウがLBXを出陣させる。

「それじゃ軽~くやってやるかぁ。レッドリボン!」
「グリーンリボン! やるだモン!」
「どうだ。こいつがオレッチたちのLBXだ!」

 その頃にはは観客整理の一仕事を終え、ステージ近くのモニターへと戻っていた。うっかり拡声器を下げたまま来てしまったが、大会終了後に返しても問題はないだろう。
 ヤマネコたちのLBXは、恐らくハンドメイドの品。どれも見たことのないパーツだ。見た目こそメイドのように愛らしいが、そのスペックは計り知れない。
 ハッカー軍団のLBXを見て、郷田が小さく笑った。

「随分チャラチャラしたLBXだな。悪いが負ける気がしねぇぜ。――俺の新しい相棒にかかったらな!」

 その言葉にステージ下のは目を剥いた。バンや、対するヤマネコらも郷田の言葉に息を呑んでいる。
 満を持して、郷田は“相棒”を起動させた。

「見ろ! 地獄の破壊神は生まれ変わった! ハカイオー絶斗だ!!」

 雰囲気は確かにハカイオーに似ていたが、全く新しい進化を遂げている。胸部の砲門が二つに増え、頭部には勇ましさを象徴するような一対の角がある。ハカイオーの猛々しい風格を引き継ぎつつ、以前より深みを増したカラーリング。逞しくなった各フレーム。武器もチェーンソーのように回転する緑の刃がついた、絶・破岩刃へと強化されている。
 まるで獅子の王のようなその姿に、は思わず拳を握りしめた。

「なんて雄々しいんでしょう……!」
「いいねえハカイオー絶斗! 男気溢れるいい面構え……」
「かっこいい……」

 リコとミカも大絶賛の郷田の新しいLBXを、仙道はやれやれと言いたげな笑みを浮かべて見つめている。

「相も変わらず力押しLBXか……」
「その力押しにてめぇは負けたんだぜ」

 ぴくりと眉を動かして郷田が返す。
 仙道は笑んだまま呟いた。

「生まれ変わったのはお前のLBXだけじゃない」

 その言葉に「なにっ?」と、郷田だけでなくバンも驚く。
 ――マントを靡かせながら、仙道の取り出したLBXが砂漠に舞い降りる。赤い眼差しを輝かせながら、そのLBXは肩慣らしのように武器を数度振るうと、優雅に風を纏いながら立つ。
 麗しいLBXの姿に、の目は釘付けになってしまった。同時に彼女は、見知らぬはずのそのLBXに既視感を覚えた。その理由にも、すぐに気付く。あの胸部や脚部のデザイン、ヘッドパーツの雰囲気。が慕ってやまない彼の愛用機・ジョーカーにそっくりではないか。
 新たなLBXの名を、仙道は声高らかに叫ぶ。

「ジョーカーの後継機――ナイトメア!」

 合点がいった。ジョーカーと共通する箇所があったのは、後継機だったからなのだ。
 ジョーカーも格好良いが、ナイトメアも格好良い。大きな紫水晶のような球体の嵌め込まれた武器・ナイトメアズソウルを携える立ち姿に、は感嘆の溜め息を漏らす。

「なんて素敵な凛々しい機体……。まさしく仙道くんのために作り上げられたかのような機体ですわー!」

 何処にいるとも知れない機体製作者・そして機体を仙道に提供してくれた人たちへ、は心から感謝した。……製作はともかく、提供に関して自分の執事が関わっているとはこれっぽっちも知らないまま。
 モニターに映るナイトメアの姿を見て、ヤマブキも安堵していた。

「無事に機体の調整は済んだようですね。流石です、仙道君……」

 だが、一抹の不安がある。仙道と郷田のコンビネーションだ。共に新機体を導入し、明らかにパワーアップはしている。だがタッグバトルの優劣は、機体の性能を絶対としない。互いの連携が物を言う戦いだ。相反する番長のタッグは、果たして上手く機能するものなのか……。
 ステージ近くのモニター付近で、ヤマブキよりずっと郷田と仙道の関係に詳しいアミたちもまた、そんな不安を抱えていた。

『両チームのLBXが出揃いました。このバトルに勝利し、決勝に進むのはどちらのチームか!? バトル……スタート!』

 遂にバトルが始まった。
 先に動いたのはハッカー軍団。砂地をものともしない素早さで、レッドリボンとグリーンリボンがハカイオー絶斗に迫る。

「来るよ!」
「おう!」

 バンの掛け声に力強く郷田が応じる。
 レッドリボンの背後からグリーンリボンが飛翔した。グリーンリボンは、両手銃のマシンガンでハカイオー絶斗を襲撃する。連続射撃を、ハカイオー絶斗は武器を盾にしのぐ。隙がなく、とても攻撃には移れない。
 そこを狙って、レッドリボンのバルキリーレイピアが一突き。こちらはもろにハカイオー絶斗の胸部へヒットしてしまった。

「やりやがったな……」

 ふらついたハカイオー絶斗を立て直し、郷田はレッドリボンに狙いを定めた。とんとんと跳ねるように砂地を蹴って走るレッドリボンに、ハカイオー絶斗がぐんぐんと迫る。
 しかし、何処からともなく現れたグリーンリボンが、ハカイオー絶斗の背後からマシンガンを撃ちこんできた。背中で銃弾を受け、ハカイオー絶斗はバランスを崩すも、剣を突き立て、支えにして何とか耐える。
 まだるっこしそうに郷田が怒鳴り声をあげた。

「おい! 隠れてねえで出てこい!」

 それを聞いて、マジョラムが笑う。

「隠れるなんて人聞きの悪い。ジオラマの特徴を最大限に生かすのもバトルの醍醐味デース」

 にとって耳が痛い言葉だった。ヤマブキやバンたちにバトルの手解きを受けるとき、ジオラマの特徴を理解して生かすことの重要さは何度も聞いた。特徴は何とか捉えられても、自身の技量では生かせず、その度に落ち込んだ。だが郷田と仙道は、と比べるのも恐れ多いほどの実力者。ジオラマの特徴をすぐ掴んで慣れてしまうだろう。
 そう考えて、ははたとした。

「そういえば、ナイトメアさんは何処に……? 仙道くんは?」

 ジオラマ内では、レッドリボンが武器を交換していた。砂地に突き刺したレイピアの代わりに手にしたのは、グリーンリボンと同じ片手銃だ。
 銃を抱えて飛び出していくレッドリボンとグリーンリボンが交互に銃撃を繰り返す。
 ハカイオー絶斗は動けなくなってしまっていた。片方の銃撃を防いでも、もう片方の銃弾が命中する。そんないたちごっこのようなやりとりに、郷田は苦戦を強いられていた。

「くそっ……」
「大したことねえな!」
「これじゃ木偶の坊だモン!」

 ヤマネコとグンソウの言いぶりは腹立たしかったが、にはどうすることもできない。仲間のピンチだというのにナイトメアは何処だろう、とはモニターと睨み合いっこをし、ようやくその姿を見つけた。
 何とナイトメアは、苦戦するハカイオー絶斗の姿を、ピラミッドの上から傍観しているではないか。

『ナイトメア全く動かず! これは作戦なのか?』

 実況がそう伝えるも、あれが作戦ではないことをたちは察した。
 仙道は郷田に言われた通り、このバトルで本当に動かないでいるつもりなのだろう。
 リコ、テツオ、ミカが動かない仙道に顔を顰め、温厚なカズヤやアミも非難の声をあげているのが聞こえた。
 の不安が急速に増していく。
 ステージ上のバンも、流石に仙道の行動を非難した。

「仙道! 何やってるんだよ!」
「言われた通りにしてるだけさ」
「何?」

 思わずバンは聞き返した。
 仙道は、ぞっとするほど歪んだ笑みを浮かべている。

「こいつが俺に言ったんだぜ? 嫌なら動くな。俺ひとりで奴らを片付ける、ってな。……だから何もしない」

 その発言が信じられず、目を見開いて動けなくなったバンを見て、仙道の笑みが深くなる。
 郷田はムッとしながらも、バトルから目を逸らさずに、

「ああ。俺はひとりでもやるぜ!」

 そう言い切った。
 しかしレッドリボンとグリーンリボンのコンビネーション射撃は想像以上に手強い。
 彼らは、周囲の砂を銃弾で巻き上げ、相手の視界を塞ぐと、何処かへと行ってしまった。

「ちっ……どこだ?」

 辺りを見渡す郷田に、グンソウとヤマネコは笑いながら言った。

「お前、弱っちいから後回しだモン」
「まずは棒立ちの方から先に潰すぜ」

「野郎ォ!」郷田が怒鳴るも、瞬く間に二機はナイトメアに迫っていた。
 どんどんピラミッドを上ってくるレッドリボンとグリーンリボンを見て、仙道はフッと笑って目を細める。

「……仕方ないねぇ」

 彼の言葉を合図にナイトメアがふわりと宙に飛んだ……かと思いきや、一瞬で姿を消してしまう。
 何が起きたのか判らず、目を剥くハッカー軍団たち。驚いている間に、ナイトメアが一瞬でレッドリボンの前に出現した。慌ててレッドリボンが銃を放つも、仙道は得意のイリュージョンで回避し、相手の背後に回り込む。

「遅えよ!」

 仙道が楽しげに叫ぶ。ナイトメアズソウルが真一文字に思いきり振り抜かれ、直撃したレッドリボンは勢いよく吹き飛ばされていく。その先にあったのは障害物でもなく砂地でもない……、ハカイオー絶斗であった。

「なっ!?」

 郷田とヤマネコの叫びが重なった。レッドリボンはハカイオー絶斗の背中にぶつかり、二機もろとも砂漠へと倒れ込む。
 は悲鳴をあげそうになり、両手で口を覆った。
 ――まさか……仙道くん!?
 次いでナイトメアはグリーンリボンへ向かって走り出した。
 グリーンリボンも必死に銃を乱射するが、どれもナイトメアには当たらない。幻影を纏いながら、ナイトメアが、あっという間に目の前に現れる。

「こいつ、早いモン!?」
「喰らいなァ!」

 仙道の声と共にナイトメアズソウルが再び振るわれた。その神秘的な外見からは想像もつかない重量と破壊力を持ったその武器は、ハンマー系にカテゴライズされているものだ。
 呆気なく吹き飛ばされていくグリーンリボン。その機体は、立ち上がったばかりのハカイオー絶斗の真正面に激突した……。
 は愕然とした。これじゃあ、アルテミスの時と同じになってしまう。
 これほどまでに仙道と郷田の確執は大きいと思わなかった。共にアキハバラキングダムへ向けて特訓したことで、少しは関係が改善されていたのではないかと思っていた。それはの希望的観測であり、現実は全く違った。
 彼らしいと言えばそれまでかもしれない。――身勝手かもしれない。けれど……あんなこと、繰り返して欲しくない。
 肩から下げた拡声器のベルトを、はぎゅっと握りしめた。

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