は、自分が捕まっている間に何が起きたかをアミに事細かに説明してもらっていた。
 イノベーターを裏切ったという八神たちのシーカー加入、タイニーオービット社の宇崎悠介社長が亡くなったこと、それを目撃したバンがショックで学校にすら来れずにいることなどをだ。
「なんてこと……」は絶句したものの、衝撃は友人の存在により堪えることができた。伝え聞いた自分がこれほどショックを受けたのだ、目にしたバンの心の傷の深さは計り知れない。それでも――、

「バンくんなら、きっと乗り越えていけますわよね。だって今まで力強く私たちを導いてくださったバンくんですもの」
「そうだと良いんだけれど……」

 不安そうに目を伏せるアミの頭を、はポンと撫でる。妹を労わる姉のように。アミはいつになく大人っぽい対応を見せるに、そっと顔を上げ、微笑んでみせた。
 その時、突如背後の扉が開く音がした。あれほど端末をいじっても叩いても反応しなかった扉が、だ。
 反射的には振り返りざま、アミを庇おうと踏み出た。

「な、何事!?」
、変なボタン押したんじゃ……」

 カズヤの言葉は、扉の方から聞こえた声によって遮られる。

「アミ! カズ! 郷田! と仙道も! みんな無事でよかった!!」

 何と、入ってきたのはバンとジンであった。二人が入ったのを見計らったかのようなタイミングで扉は再び固く閉ざされてしまう。
 特にアミたちは、ここに来る時も塞ぎ込んでいたバンがいることに驚いた。
 が何かしたか確かめるどころではなく、カズヤは面食らう。

「どうしてここに?」
「君たちがイノベーターに捕まったと聞いたから助けに来たんだ」

 ジンの答えを聞いては確信した。バンは悠介の死を乗り越えて、ジンという仲間と共に勇気のままやって来てくれたのだ。なんと無謀で、しかし愛おしい決意だろう。思わず涙ぐんでしまう。
 が、と違って呑気に感動するタイプでもない仙道は、バンとジンの様子や反応、閉じた扉から、彼らが意図してこの部屋に辿り着いたわけではないと察していた。

「でも、ミイラ取りがミイラになったって訳か」
「それは……」

 図星だったのかバンが口ごもる。仙道にバンが答えるより先に、カズヤがバンに尋ねていた。

「バン、お前――もう大丈夫なのか?」
「え? ……ああ、大丈夫だ! 心配かけてごめん」

 カズヤの心配げな眼差しに、力強くバンは頷いて答えた。バンの再起に、郷田、アミもほっと笑みをこぼす。
 ジンはというと、硝子の向こうの光景を見つめていた。延々と動く装置、何かが作られる様。バンもそれに気づき、硝子へと近づいていった。
「何だ、あれ」とバンが目を丸める。
「ドングリとか言ってたわ」「どんなものかは、俺たちにもわからないんだ……」アミとカズヤが、バンへ答えた。
 動き続ける機械から何か察したのか、一歩下がったジンが拡大モニターを見つめる。

「エターナルサイクラーを利用した兵器かもしれない」
「兵器?」

 バンは思わず復唱していた。兵器。さっきまで意味の判らない何かだった光景が、突然気味悪く、恐ろしいものへと変わっていくような予測だった。
 息をのむバンに、そういえば、とアミが口を開く。

「海道義光のことなんだけど……イノベーターのトップはあいつじゃないみたいなの」
「誰かに連絡してた。フェアリーテイル計画がどうのって」
「海道は誰かの命令で動いている。裏で海道を操ってるヤツがいるんだ」

 カズヤと郷田も彼女に続き、目撃した海道の様子について語る。……が、バンとジンはさほど驚いていなかった。寧ろ当然かのように、彼女らの情報に頷いていた。
 かなり衝撃の事実だと思ったのだが、驚かない理由をジンは答えた。

「海道義光はアンドロイドだ」

 ――その時、再び部屋の扉が開く。騒然とするアミらの心に整理をつけるいとますら与えずに。

「揃ったね、ネズミさんたちが」

 堂々と部屋へ入ってきたのは――神谷コウスケ。口ぶりからして、バンとジンをここへ入れたのも彼らしかった。「誰だ、お前は!」警戒心あらわにバンは叫ぶ。
 アミも眉を吊り上げて、バンとジンへ呼びかける。

「バン、ジン、気を付けて。あいつが私たちをここへ閉じ込めたの」
「神谷コウスケ……神谷藤吾郎の息子。天才的なセンスを持ったLBXプレイヤー……」

 ジンはコウスケを知っていた。秒殺の皇帝である彼ですら“天才”と称するのだ、やはりコウスケは只者ではない。
 コウスケはそんなジンを見つめながら口元を吊り上げる。ジンにしか興味がないふうに見えた。

「海道ジン。君だよね? 海道先生の恩を仇で返した少年は。当然報いを受けてもらうよ。何故ならそれが、世界のルールだからね」

 そう言ってDキューブを掲げるコウスケに、身構えながらジンが返す。

「目的はバトルか? それにしては手が込んでるな」
「ふん、美学だよ。ついでだから君も一緒にかかってきなよ。その方が手間も省けるし」
「何っ!?」

 ついで呼ばわりにバンが眉を顰める。当然コウスケは気にも留めず、Dキューブを展開した。

「さあ、此処から帰りたければこのボクを倒すしかないよ!」

 ――やるしかない。ジンとバンがアイコンタクトの後、頷く。
 二人のLBX、ゼノンとオーディーンが出撃し、コウスケのLBXルシファーもジオラマへと降り立つ。
 仙道はいつものようにタロットカードを引いた。

「審判の逆位置――再起不能……ヤバイかもな」
「さ、再起不能!?」

 あまりに不穏な結果に、は狼狽える。再起不能と聞いて楽観できる人間のほうがまずいないだろう。珍しく仙道の表情にも陰りが見え、殊更は不安になった。
 一体このバトルはどうなってしまうのか。無事にコウスケとルシファーを打ち破り、脱出できるのか……。
 緊迫のバトルが今スタートした。

「ボクは神に選ばれしもの。ボクのLBXには、誰も触れることが出来ないのさ」
「何が神だ!」

 バンがオーディーンを駆り攻撃を繰り出すも、容易くルシファーはかわしていく。やはりコウスケの強さは尋常ではない。

「遅い、遅すぎる。そんなスピードではボクのLBXに触れることすら出来ないよ」

 ふっとルシファーの姿が消える。かと思いきや、攻撃を繰り出したオーディーンの背中にルシファーが止まっていた。オーディーンの必死の攻撃を嘲笑うように、ルシファーはその背を蹴り飛ばして優雅に舞う。
 続いてオーディーンとゼノンは連携を繰り出した。やはりルシファーは容易くいなす。完全に攻撃を防ぎきってみせたどころか、押し返し、二機を吹き飛ばしてしまう。
 はとっさに両手で口を覆い、飛び出しかけた悲鳴を堪えた。バンとジンのタッグを、ルシファーは恐らくまだ本来の力の半分も出さずに相手している。あまりに圧倒的だ。

「聞いてなかったのかい? ボクのLBXには触れることが出来ないって。そろそろこっちから行くよ!」

 ルシファーが目にも止まらぬ速さで駆けた。あっという間にゼノンへと肉薄したルシファーはゼノンへ幾度となく斬りかかる。ゼノンは超高速の斬撃をただ防ぐしかない。

「さあさあどうした? それでもかつてイノベーターのNo.1だったプレイヤーかい?」

 やはりジンに執着しているらしいコウスケは、彼をいたぶることに気を取られているようだ。その隙をバンは突こうとする。ゼノンを助けるためにもルシファーへ飛び掛かるオーディーン。……が、そんなのはお見通しだと言わんばかりにルシファーは攻撃をかわしてみせる。「愚かだねぇ……!」その剣のひと薙ぎでオーディーンをゼノンもろとも吹き飛ばす。容赦なく岩壁に叩きつけられた二機に、再びルシファーが迫る。また連続攻撃が始まった。必死にいなすオーディーン、ゼノン。
 コウスケは目を見開き、叫んだ。

「ふん、砕けろぉ!」
「調子に乗るなァ!」

 怒号を合図に、バンの反射神経が冴えわたる。ルシファーの連続攻撃の隙間を縫って高速移動を見せたオーディーンが、槍のひと突きをルシファーの横腹に決めたのだ。遂に決まった一撃に、「やったぁ!」見守っていた仲間たちも歓声を上げる。バンも拳を握りしめ、その一歩を喜んだ。
 しかし――その一撃を機に、コウスケの様子が一変する。

「触れたな……? ボクのルシファーに……」

 コウスケの顔から笑みが消え、瞬く間に憎悪が満ちていく。その恐ろしい形相に、は震えた。
 憎悪の眼差しをバンに向け、コウスケは憤る。

「世界のルールに逆らう者は許されない。まずはお前だ! お前からトドメを刺してやる!」

 そうして明らかに威圧感が増したコウスケに、バンとジンが改めて身構えたとき。
 バトルは思わぬ形で終わりを告げることになる。

『時間だ、コウスケ。何時まで遊んでいるつもりだ!』

 どこからか響いた放送。その声の主がコウスケの父のものであることには気付いた。
 父の声に勿論コウスケも気づき、豹変した表情をふっといつもの皮肉めいた笑みへと戻す。まるであの憎悪に満ちた顔が嘘のように、あっさりと彼は戦闘を止めてしまう。
「タイムオーバーか……。少し手を抜きすぎたかな」すっかりやる気をなくしたのか、此方に背中を見せて溜息をついている。「了解、ダディ。すぐ行くよ」コウスケは放送にそう答えると、バンたちを振り返った。

「……終わりだ。君たちもさっさと帰るんだね。そこから行けば、誰にも見つからずに外に出られるよ」

 コウスケが指した部屋の左側の壁が突然開く。あんなところに隠し扉があったとは予想だにしなかった。

「ちょっと、私たちのCCM返しなさいよ!」
「そうだったね」

 アミの訴えに、コウスケは律儀に答えてくれた。扉の左脇にあるスイッチを押して、CCMたちがしまわれていた場所を開ける。そこには小さなアタッシュケースも一緒に置かれていた。アタッシュケースを手にしたコウスケは、「それから、これも」此方へ向かってケースを投げて寄越した。それをバンがキャッチする。
 一体何だろう、と蓋を開いたバンたちは、目を丸めた。不思議な光を放ちながら動く装置。……中身はエターナルサイクラー。アミたちが探していたものだった。

「エターナルサイクラー!?」
「どうして……」
「渡してやれって言われたのさ。多分、グラビティポンプが完成したからだろうね」
「おい、グラビティポンプって何だ!」

 カズヤが食って掛かると、コウスケはあっさり答えてみせる。

「エターナルサイクラーの技術を応用して作られた、ドングリ製造マシンだよ。一度動けば、永遠にドングリを作り出すことが出来る。まさに神の所業……」
「ドングリとは?」
「ふっ、肝心なことを知らないんだねぇ」

 ジンの問いかけがよほど愉快だったのか、此方を嘲るような笑みを浮かべたままコウスケは続けた。

「まあいいか。教えてやるよ。ドングリとは、超小型メガトン爆弾のことさ」

 バンたちは戦慄した。ジンの予測が最悪の形で当たってしまう。「ば、爆弾!?」「じゃ、じゃあ、そこで作られてるのは……全部、爆弾?」戸惑いながら、アミ、郷田らは改めてモニターを見つめる。まだ延々と作られるドングリ……爆弾兵器。数えきれないほどのそれらに、肌が粟立つ。一体イノベーターは何をしようとしているのか。

「フェアリーテイル計画は動き出した。もう誰にも止めることはできない!」

 コウスケが口にした計画の名はもアミたちも聞き覚えがあった。海道たちが口にしていたそれ、フェアリーテイル計画。イノベーターのことだ、きっとろくなことではない。詳しいことを問い詰めたかったが、コウスケはこれ以上こちらの言葉に答えるつもりはないようだった。

「山野バン君だったね。ボクのルシファーに触れるなんて、名前くらいは覚えといてあげるよ」

 それきり、彼は本当に部屋を去っていった。呆気なさを感じさせるほど、あっさりとした終わり。
 残されたたちは、呆然と脳内に渦巻く混乱を処理するしかなかった。

「終わったんですの……?」
「フェアリーテイル計画ってなんだ?」
「とにかく早く戻って、拓也さんたちに知らせないと」

 アミの言うことはもっともだ。しかし……と一同はコウスケの示した角の部屋を見つめる。もしかすると最後の最後にまた罠があるかもしれない。だが他に彼らが選べる手段がないのも事実。恐る恐るはそこへ近づいて行った。きょろきょろと部屋を覗き込み、壁や床を触り、異常が無いことを確かめる。

「何ともなさそうですわ。見た限り」
「本当に大丈夫?」
「一体何の部屋なんだ?」

 バンたちもぞろぞろと部屋の中に入っていく。少し狭かったため、は前方へと詰める。皆が皆思い思いに壁中を見回していた、その瞬間。
 がこん、と床が動いた。
 斜め前方に傾いだそれは急な坂となり、目前に出来上がった真っ暗な空間へとたちを放り込む。「ほげええええっ!!」「っうわあああ!!」「きゃああああっ!?」「うおおおおっ!?」多彩な悲鳴ごと暗闇は飲み込んだ。暗闇はスライダーのようになっていた。ものすごいスピードでを先頭に滑り続ける少年少女たち。
 延々と続くかと思われた恐怖の走行の先に、うっすらと明かりが見えたかと思うと、刹那、彼らの体は宙に投げ出されていた。真下には大量のゴミ。
 ――ダストシュートだったんですのね!
 そう理解したころには、は頭からゴミの山に突き刺さっていた。ものすごい異臭が鼻をつく。しかし思うようにゴミを除けて出られない。ゴミの臭いのために呼吸も辛く感じてしまう。

「あの野郎、俺たちをゴミ扱いしやがって……」

 郷田の呻きがぼんやりと聞こえる。もごもごとゴミの中でもがきながら、は思った。
 ――コウスケくんなら「君たちはゴミ以下さ」とか思ってそうですわ……。
 バンたちと共にシーカーへと向かうつもりだったは、監禁の疲労もあってか神谷重工のゴミ捨て場でそのまま気を失ってしまった。しかし、シーカー本部からアミらの救出にやって来ていた真野、細井、矢壁、独自に潜入していたヤマブキがいたお陰で、事なきを得る。
 そしてだけは、すぐさま病院へと運ばれた。

prev Top next