ダングレストに着くと、ハリーを連れたレイヴンはドンの元へ向かい、それにカロルも同行した。残された仲間のうちユーリ、ラピード、リタ、エステルらは宿へ行き、パティとはダングレストを散策することにした。
パティはどうやらこの街に見覚えがあるらしい。アイフリードとドンが盟友であったことを思えば、パティがダングレストに連れられて来ていても可笑しくはなかった。
だが、ここでもマンタイクやノードポリカの時のような目に遭うかもしれない。
そのことをユーリが注意すると、「大丈夫じゃ」とパティは街に繰り出していった。そのパティを、いてもたってもいられなくなったが追いかけたのである。
もで、この街には興味があった。自身がギルドに関わっていたかもしれないという事実をドンの手紙で知って以来、ますますその思いは増していた。
だが、パティやの記憶に関わる手がかりはなかなか見つからなかった。
「やっぱり無いかぁ……」そう呟き落胆するの顔を見上げて、パティが口を開いた。
「うちはもう少し調べて回るのじゃ。は先に宿に戻って皆と休むと良いのじゃ」
「そ、そう? ひとりで大丈夫?」
「よりは全然大丈夫なのじゃ!」
そう言うと、パティは止める間もなく駆け出していってしまった。少女の姿はあっという間に街に紛れ、見えなくなってしまう。
は仕方なく、パティを追いかけることを諦めた。
「あんまり一緒だと、パティもやりづらいことあるんだろうな……」
黄昏の空を見上げながら、ひとり小さな声で雫す。はとぼとぼと歩き出した。パティに言われた通り、宿屋で休もう……そう思っていた。
しかし、街の入り口にある橋の方から聞こえる騒ぎ声が、の足を止めた。何やら言い争っているような、緊迫した声がいくつも届いてくる。
気になって橋の方へ駆け寄りながら、は状況を確認した。
街の入り口を塞ぐように、あらゆるギルドの人間たちが立ち並んでいるではないか。誰もが武装し、各々のギルドの旗や武器を掲げ、今にも戦いに出ようとしているかのようだった。
慌てては彼らに駆け寄った。
「皆さん、一体どうしたんですか!?」
思わずそう声を張ると、彼らは揃ってを振り返った。滅多に浴びることのない多さの視線を受け、は引け腰になってしまう。彼らに悪意がないのは判るし、訊ねたのは自分だ。しかし、それでも男たちの視線は鋭かった。
声を出せずに固まるのもとに、男たちの隙間を掻い潜って近づく少年の姿があった。特徴的な前髪と大きな鞄を提げた、カロルである。
ドンに会いに行っていたはずのカロルが、どうしてここにいるのかは判らない。ただ、カロルは酷く慌てていた。
「、大変だよ!」
「か、カロル! 埋もれてて全然判らなかった……」
「そんなことより、このままじゃ戦いになっちゃうんだ! ユニオン目指して、〈戦士の殿堂〉の人たちがこっちに向かってきてるんだって!」
「えっ、それってどういう……」
が問おうとすると、それを遮ってカロルが声を張り上げた。「ユーリ、みんな!」が振り返ると、ユーリたちが駆けつけてくるところであった。彼らも騒ぎを聞いてやって来たらしい。
カロルは今にも泣き出しそうな不安な顔をして、ユーリに駆け寄る。
「どうしよう!? このままじゃギルド同士の戦争になっちゃう! ドンがいたらこんなことには……」
「ドンは背徳の館って〈海凶の爪〉の根城に行ったかもしれないってさ」
「おそらく……ですけど……」
ユーリの言葉に、エステルがそう付け加えた。
ユーリたちはこれから背徳の館に向かうそうだ。だが万が一そこにドンがいない可能性もある。
仲間たちの話を聞きながら、は何とか状況を整理していた。
偽情報を信じたハリーたちが、ノードポリカへ乗り込み事件を起こしてしまった。決してハリーたちだけのせいではないがベリウス……〈戦士の殿堂〉の統領は死んでしまった。ヘリオードに来ているギルド員たちも、そのことについて話をつけに来たのだろう。
そしてドンが背徳の館――〈海凶の爪〉のもとに向かったのは恐らく、偽の情報を伝えたイエガーたちが目的だ。
どうするつもりかは判らない。だが、実の孫を騙されたとあっては、ドンはイエガーたちに幾らでも言いたいことがあるはずだ。
〈戦士の殿堂〉の彼らも、イエガーやドンたちも、全てが話し合いで済むとは思えないが。
がようやっと状況を把握した頃、カロルが俯きながら呟いた。
「ドンを探しに行ってる間に、みんなが戦いになっちゃったらどうしよう……」
「背徳の館はオレたちだけで大丈夫だろ。カロルは自分の思うようにやると良い」
静かにユーリが答える。するとカロルは顔を上げ、少し安心した様子で頷いた。
「うん……。じゃあボク、みんなと話してくる!」
踵を返したカロルが、再びいきり立つ住人たちの中へと入っていく。
がその姿をぼんやりと目で追っている。それを見て、ユーリが言った。
「お前はどうする、?」
「私は……」
は考えた。
館にはユーリ、ラピード、リタ、エステル、そしてレイヴンが向かうらしい。戦力的には申し分ないはず。
そして街にはカロルが残る。パティもいるはずだが今は情報収集で駆け回り、どこにいるか判らない。
そう考えると、自分も街に残ってカロルの手伝いをした方が良さそうだ。
「私はカロルを手伝うよ。さすがにあの大人数じゃ、何が起きるか判らない」
「確かにな」
「うん。……気を付けてね、みんな」
の言葉にユーリたちは頷くと、街の西側へと向かっていった。西側の出口から出ていくらか進むと、例の館があるらしい。
アジトと言うからには、敵も多いはず。改めては、彼らとドンの無事を祈った。
◆◆◆
は人々に必死に声を掛けた。落ち着いてほしい、と。武器を下ろして、〈戦士の殿堂〉たちの話をまず聞いてほしい、と。
しかしその間に〈戦士の殿堂〉のギルド員たちが街へ押し掛けてきてしまった。
両者は言い争い、兵装魔導器まで出してきた。いつ魔導器を使ってもおかしくない一触即発の睨み合いが続き、それでもたちは皆へ呼び掛けた。
そうして、胃が痛むほどの緊迫感にカロルもも泣き出してしまいたくなった頃――遂に待ち人はやって来た。
ドン・ホワイトホースが戻ってきたのだ。
「カロル、ドンが来たよ!」
「本当だ!」
ドンは真っ直ぐに此方へ向かってきた。その姿に、集団から弾き出されたカロルとはほっと胸を撫で下ろす。
これで騒ぎも収まるだろう……。そんな思いから、二人は顔を見合わせて笑った。
人混みを割って進みながら、ドンは両者の間へ立った。
ユニオンと戦士の殿堂、ふたつの声が響くなか、ドンが何かを話している。何を話しているのかまでは、二人に聞こえなかった。
だが、ドンの言葉を受けて、集団を取り巻く空気が変わった。
血気盛んに騒ぎ立てていたはずが悲鳴のような声が混ざり、その喧騒の中をドンが押し進む。
「ドン……?」
は、過ぎ行くドンの姿を見つめた。
静かな……穏やかとも言える彼の表情を。
何かを決して、何かを受け入れたような覚悟の姿を。
嫌な予感がした。
が視線を落とすと、隣に立つカロルも不安そうな顔をしていた。と同じように、いつもとは違う様子のドンを見ていたのだろう。
ドンは真っ直ぐに街の広場へと向かっていった。人々も少しずつ、ドンへついていくように歩き始める。
嫌な予感は増すばかりだった。
「ユーリ!」
カロルが声を上げて駆け出すのを、は目で追った。
ドンに遅れて、ユーリたちも戻ってきたようだ。パティも一緒にいる。いつの間にか彼らについていったらしい。
不安いっぱいなカロルがユーリに何か言い募っている。
そこにも合流しようと歩み寄っていく。
「……ドンも戻ってきたけど、何か様子が可笑しいんだ!」
「ドンは間に合ったようね。でも、やっぱりか……」
カロルの言葉に、レイヴンが低い声で雫す。
「どういうことです……?」
エステルが首を傾げながら訊ねると、それを受けたレイヴンは僅かに顔を歪めた。感情が溢れるのを無理矢理に噛み殺しているような表情だった。
「……じいさん、最初から死ぬつもりだったのよ」
レイヴンの答えに、たちは絶句した。
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