甲板では、とジュディス以外の仲間がみんな揃っていた。ジュディスの話を聞く準備万端といった様子である。
早速ジュディスは、仲間たちへ語り始めた。
まず始祖の隷長とは何か。
始祖の隷長とは、エアルのバランスを取るため、乱れを感じ取り、調整するものたちのことだった。彼らのお陰で、世界のエアルが多少乱れても、影響を及ぼすようなことは起きない。永いながい間、始祖の隷長はその役目のために生き続けているのだ。
しかし近頃は、エアルの増加が、始祖の隷長の力を上回ってきてしまっているらしい。
原因は、何者かが作り続けているヘルメス式魔導器。その為、ジュディスは“竜使い”としてヘルメス式魔導器を壊してきた。
「それが私の役目。私を救ってくれたバウルと歩む道」
ジュディスが静かに続ける。
「最近は聖核を求めて始祖の隷長に挑む人さえいる。始祖の隷長はその役目を果たすことがより難しくなっているわ」
「どいつもこいつも聖核を狙う理由はなんなんだ?」
ユーリの問いに、ジュディスは「わからないわ」と首を振る。彼女も、聖核が狙われる理由や聖核そのものについては詳しくないらしい。それでも、ジュディスは知りうる限りのことを自分達に話してくれた。
「聖核とは、始祖の隷長が体内に取り込んだエアルを長い年月をかけて凝縮し、始祖の隷長が命を落としたときに結晶となって生まれるもの。私が知っているのはこれぐらい。フェローならもっと詳しいと思うけれど」
ジュディスの話に、リタが目を輝かせた。
「聖核が高密度エアルの結晶……。それが本当なら、もし聖核のエネルギーをうまく引き出すことが出来れば、凄まじいパワーを得ることができるわよ、きっと」
しかし、そんな方法が見つかればの話だともリタは言った。
リタの話に、パティがふんふんと頷く。
「それができるとしたら欲しがる奴は沢山いそうじゃの」
「誰かが悪巧みしてるのは間違いなさそうねぇ」
胡座をかきながら話を聞いていたレイヴンもそう溢す。その隣ではラピードが添うように丸まって目を閉じている。
だが話を聞けば聞くほど、ジュディスが最初から話してくれなかったことが疑問になった。
そのことをユーリやカロルが問いかけると、ジュディスは静かに目を伏せた。
「知っても……あなたたちには無理なことがあるから」
「どういうこと?」
カロルが首をかしげると、ジュディスは再び話し始める。
「あの時私たちがヘリオードへ向かったのは、バウルがエアルの乱れを感じたから。エアルの乱れがあるところにヘルメス式魔導器はある……。でもそこにいたのは、魔導器ではなく人間だった。そんなことは今までなかったのに」
「ヘリオードにはハナからエステルを狙ってきたわけじゃなかったのか」
ユーリの呟きにジュディスが頷く。
「何故、バウルがエステルをエアルの乱れと感じたか。私は知る必要があったの。私の道を歩むために。そんな時、フェローが現れた」
は、ダングレストが襲撃された時のことを思い出した。
フェローと対峙し、言葉を聞いたときのこと。彼はエステルを“毒”と呼び、のことを“お前たち”と呼んだ。未だに判らない。
胸の中に蟠るものを抱えながら、はジュディスの声に耳を傾けた。
「彼はエステルが何者か知っているようだった。私の役目はヘルメス式魔導器を破壊すること。でもエステルはヘルメス式魔導器じゃない。だから見極めさせてほしい……。私は彼にある約束を持ちかけた。彼は私に時間をくれた」
「その約束って……」
ひっそりとカロルが声を漏らす。
ジュディスは目を伏せながら、約束の内容を明かした。
「もし消さなければならない存在なら、私が……殺す」
「あんた!」
殺すという言葉を聞いた途端、リタが物凄い剣幕でジュディスへ詰め寄った。
「リタ、待って!」
「待つのじゃ、リタ姐!」
今にもジュディスに掴み掛かりそうなリタを、とパティが慌てて制止した。
それでもリタが収まるはずはない。
レイヴンも見ていられなくなったのか、口を開く。
「落ち着けって。ジュディスちゃん、結局手を下してないっしょ」
ようやっとリタは、振り上げかけていた手を下ろした。腕を組み直し、まだ怒り収まらぬ様子でジュディスを見つめている。
リタが怒るのも無理はない。だがダングレストでジュディスがフェローと話していなければ、やはりあの時点でエステルは殺されていたのかもしれない。
考えながらも、がそれを口にすることはなかった。他にも考えることが山積みで、彼女は口を開く余裕を持てずにいた。
ジュディスがエステルを見つめる。
「ベリウスは言ってたわね。あなたには心があると。フェローにもあなたの心が伝われば、これからどうするべきか、判るかもしれない」
「ね、ねぇ、もうフェローに会う必要はないんじゃない?」
リタはフェローと会うことを避けたいようであった。
とにかくエステルとフェローを会わせたくないという思いが、言葉の節々から強く感じられる。一度殺そうとしてきた相手であることを考えれば当然だが、それでリタが怯むとは思えない。“エステルを守る”ぐらい言いそうなのだが、様子が少し可笑しい。
「だってほら、問題なのはヘルメス式魔導器ってわかったんだし。聖核も悪いこと企んでるヤツに渡さないようにすれば」
「わたし、フェローに会いたいです。そして話を聞きたい」
「でも……」
それでもリタが口を開こうとすると、エステルは彼女を遮り、
「行かせてください。わたしも自分のことを知って、それに責任を持てるようになりたいから」
しっかりした口調で、言い切った。
それきりリタは何も言えなくなってしまった。エステルに言えぬ何かを抱えているようにも見える。しかし、が聞いたところで話してもらえる内容でもなさそうだ。
一方、カロルもギルドのけじめ――ジュディスのことについて悩んでいた。少年は悩みに悩んだあげく、どうしようもない、といった風にユーリを見上げた。
「ごめん、ユーリ……。ジュディスをどうするべきか、すぐには決められないよ……」
それを聞いて、ジュディスはカロルたちに向き直った。
「あなたたちの言うケジメをつけないまま去ることはもうしないわ。私も責任もたないとね」
カロル、ジュディスの言葉を受けて、ユーリは決断した。
「――フェローに会いに行こう。オレたちの旅の最初の目的、それをこなしちまおう。後のことはそれからだ」
仲間の誰も、異論を口にはしなかった。
にとってもフェローと会うことは大きな目的であり、記憶の手がかりだ。反対するわけがない。万が一、エステルや仲間の身に危険が及ぶようであれば、力の限り抵抗し、守る。それだけだ。
ジュディスがバウルへ意志を伝える。言葉ではなく、直接意志を交わしているようだ。
彼女らクリティア族は、始祖の隷長の体の一部に特殊な加工を施すことで、ナギーグで感応し、対話することができるそうだ。テレパシーのようなものなのだろう。
バウルがジュディスの意志に応え、一鳴きする。そして、大きな鰭で空を掻きながら進み始めた。
砂漠の真ん中に聳える岩山……フェローの住処を目指して。
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