フェローが言う“罪を受け継ぐ者”について、ユーリたちは話し合った。
 言い伝えによれば魔導器を作り出したのはクリティア族。つまり今も伝承を受け継ぐクリティア族を探し出し、話を聞けばよいのだろう。
 ジュディスはそれらしきものに心当たりがあるようだった。仲間の言葉を受け、彼女はそっと口を開く。

「隠された街ミョルゾ。テムザよりずっと古い、クリティアの故郷。そして魔導器発祥の地」
「その名前に覚えがあるわ」

 ミョルゾという言葉にリタが反応した。アスピオに来ていたクリティア族が、その名を口にしていたのだという。まだその人物がアスピオにいるかどうかまでは、さすがの彼女も判らない。
 だがテムザの街が失われている以上、他の手がかりもない。
 そう結論に至ったユーリたちは、一路、アスピオを目指すこととなった。バウルの速度ならば、然程掛からずに到着するだろう。
 話が纏まるなり、はすぐに甲板に出た。仲間の目がないそこに来て、ようやく息をつく。ここでなら幾ら悩んでも、誰にも知られない。
 彼女が考えたのは、自分の力のこと。そして、力をどう使えばエステルを助けられるのか……。
 もどかしさに顔を歪めながら、は船の揺れに身を任せた。
 力の使い方を思い出すまでには至らなかったが、フェローとの対話はの記憶への手がかりを幾つも与えてくれた。
 魔導器が勝手にの力を制御しようとする現状を何とかすれば良いはず。その為には、この義眼を作り出した人間に会うのが一番だろう。の力を制御する魔導器を作ったということは、の力をよく知っているということだ。魔導器の制御術式や、世界のエアル暴走に関する手立てがあるかも知れない。
 しかし同時にフェローは語った。“そなたは多くのものを失った”と。
 記憶だけを指すつもりなら、フェローもそう言うはずだ。だがフェローは“多くのもの”と話した。
 つまり、が失ったものは“記憶だけ”ではない。

(それにフェローは、狭間の者の存在を良しとしない人たちが、私たちを追い詰めたって言ってた)

 フェローとの対話で、は痛感していた。
 魔導器の技師どころか、自分の家族さえ生きているのか怪しい、ということを。
 なにせ自分たち狭間の者は、疎まれる存在なのだから。
 自身の最悪の状況を覚悟しながらも、は絶望せずにいた。それもひとえに“エステルを守る”という想いからであった。
 傷つくもの全てを助けようと進んできたエステルが、犠牲になっていいはずがない。
 大切な友を、仲間を護りたい。
 諦めてはいけない。
 絶望してはいけない。
 これ以上何かを失うのは、もう沢山だ。
 は激情を押さえるように両手をきつく握り締めた。力のあまり、手の骨が軋んだ音を立てる。

「なんで、なんでまだ思い出せないの……!」

 考え込んでいるうちに、あっという間にアスピオへ辿り着いた。
 船から降りる仲間に続きながら、はひっそり呼吸を整える。そうして自分の葛藤や動揺を、一旦封じ込めた。万が一エステルに悟られでもして、これ以上彼女の心を削るようなことがあってはならない。
 疲れも溜まっていた一行が、ひとまず休息をとリタの家を目指しかけたとき――、

「先に話しておきたいことがあるんだ」

 カロルがそう切り出した。
 少年が何を語ろうとしていたのか、自ずと判る。ギルドのケジメ……ジュディスのことであろう。
 仲間たちが立ち止まり、振り返るのを確認すると、カロルは語り始めた。

「ボク、ずっと考えてた。ギルドとしてどうすべきなんだろうって。で、思ったんだ。やっぱりギルドとしてやっていくためにも決めなきゃいけないって」
「どうするか決めたんだな?」

 ユーリに問われ、カロルが頷く。

「言ったよね。ギルドは掟を守ることが一番大事。掟を破ると厳しい処罰を受ける。例えそれが友達でも、兄弟でも。それがギルドの誇りだって」
「ええ」
「だから……みんなで罰を受けよう」
「え?」

 それまで話に頷いていただけのジュディスが目を丸めた。
 驚き、言葉を失うジュディスに、カロルは微笑む。

「ボク、ジュディスが一人で世界のために頑張ってるの知らなかった。知らなかったからって仲間を手伝ってあげなかったのは事実でしょ。だからボクも罰を受けなきゃ」

 そう言ってカロルは、「ユーリ」今度はユーリを見た。
 まさか自分に話が振られると思ってもいなかった青年は、きょとんとしている。

「ユーリも自分の道だからって秘密にしてることがあった。それって仲間のためにならないでしょ」
「ま、まぁな」
「だから、罰受けないとね」

 ユーリは呆気に取られたまま、カロルを見つめ返すだけだ。
 横で聞いていたリタは、呆れたように肩を竦めている。

「ものすごいこじつけ」
「……掟は大事だよ。でも正しいことをしてるのに、掟に反してるからって罰を受けるべきなのか……。ホント言うとまだ判らない」

 なら、とカロルは顔を上げて訴えた。

「みんなで罰を受けて、全部やり直そうって思ったんだ。これじゃ、ダメ?」

 初めて出会った頃のカロルを思い返し、今目の前にいるカロルを見つめる。何にもおっかなびっくりだった少年が、こんなに逞しく成長し、自分の想いを仲間に語れるほどになったのだ。
 なんて優しい想いだろう。
 はひっそり涙ぐむ。
 そんなカロルの言葉へ、茶化すようにユーリが返す。

「オレ、また秘密で何かするかもしれないぜ?」
「信頼してもらえなくてそうなっちゃうんなら、しょうがないよ。それはボクが悪いんだ」
「またギルドの必要としている魔導器を破壊するかもしれないわよ?」

 ユーリに続いて、今度はジュディスがカロルに訊ねる。

「ギルドのために、という掟に反するわ」
「でもそれは世界のためだもん。それに掟を守るためにギルドがあるわけじゃないもん。許容範囲じゃないかな」

 これもまた、カロルが上手く返答してしまう。
 成り行きを見守っていたリタとレイヴンは思わず吹き出した。

「それって掟の意味あるの?」
「そんなギルド聞いたことないわ。おもしろいじゃないの」

 フェローとの対話以来強張っていたエステルの顔にも、穏やかな笑みが花開いている。その横でパティも深々と頷いている。

「型にとらわれることはないのじゃ。自由がいいのじゃ」
「パティに賛成。ね、ラピードさん」
「ワンッ!」

 カロルの頼もしさに余裕を取り戻したも、ラピードと目配せして微笑んだ。
 緊張続きだった仲間たちの輪に、和やかな空気が漂う。
 仲間やギルドの問題を丸く収めたカロルの手腕に、ユーリも感心したように笑ってみせた。

「カロル、おまえすごいな。オレは自分がどうするかってのは考えてたが、仲間としてどうしていくかって考えられてなかったかもしれない。オレには思い付かないケジメのつけ方だ」
「ボクはただ、みんなと旅を続けたいだけなんだ」

 ユーリに褒められ、照れ臭そうに頭を掻きながらカロルが答える。

「みんなの道と〈凛々の明星〉の道を同じにしたいだけなんだよ」
「そっか。そうだな。ジュディ、そういうことらしいぜ」

 楽しげな笑みのままのユーリに振られ、ジュディスも笑う。

「おかしな人ね、あなたたちホントに……。でも……そういうの、嫌いじゃないわ」

 今までの彼女ものとは違う特別な鮮やかさを持つ表情だった。
 本当の仲間になれたのだと、改めて実感する。
 ひっそりとは、彼女の笑顔を目に焼き付けた。

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