「てめえ、なんのつもりだ!」

 突如として現れたイエガーらに、ユーリは苛立ちを隠すことなく怒鳴りつけた。〈海凶の爪〉は、ドンの仇と言っても過言ではない因縁の相手だ。たちも当然、警戒を強める。
 対するイエガーは、まるで此方の反応を意を介さず、気障ったく喋った。

「ミーのビジネスにとって帝国ばかりがパワフルになるのは、都合がバッドバッドなのでーす」

 肩を竦めたイエガーの元へ戻ったゴーシュとドロワットが一行へ告げる。

「アレクセイはザーフィアスにいる」
「帝都ザーフィアスの御剣の階梯に秘密があるのだわん」
「宙の戒典がキーとしてニードなはずだったのに、ユーたちのプリンセスで代用しようとしてマース」

 強大な力を秘める剣・宙の戒典。それの代わりにエステルの力を利用する……。想像しただけでぞっとした。確かにエステルに秘められた力は、あの剣に匹敵するだろう。だが全く異なる性質のそれを、何よりエステルへ大きな負担を強いるその行為を、冷静に聞いていられるはずが無かった。
 イエガーの言葉に、リタは目を剥く。

「なんですって!」
「エステリーゼ様をどうしようというんだ!」

 フレンも問い詰めるも、イエガーたちは答えない。
 そしてそれよりも目前に迫る危機に、窓の外を眺めていたジュディスが気付いた。

「話し込んでる場合じゃなさそうよ」

 たちも彼女に倣って外を見た。目視できる距離に、帝都ザーフィアスの姿がある。徐々にヘラクレスと帝都の距離は詰まって行っているようだ。
 ようやっと立てるまで回復したは、義眼に熱がこもるのを感じた。反射的に右目を押さえ、その原因を探る。義眼に異変が起きる時は、大抵エアルに関係した何かが起きている時だ。そしてこの熱の持ちようは、あまり良くないものだ。

「……エアルがざわついてる……?」

 その間、リタが制御盤を必死に操作していた。しかしザギの攻撃で大破した制御盤は、うんともすんとも言わない。どんどん近づくヘラクレスとザーフィアス。
 ユーリたちが急いているうちに、イエガーたちはさっさと部屋を出て行ってしまった。彼らが何をしたいのか、目的は何なのか、全く知れないままである。

「イエガーだけは、譲るわけにゃあいかないよね」

 イエガーの背を、鋭い決意を秘めたレイヴンの眼差しがじっと見つめていたことにだけは、何とかは気付いた。
 ――制御が効かないならば、大元である動力を何とかするしかない。弾かれた様に部屋を出たユーリらは、道中見かけた動力室へと向かった。
 動力室の前を固めていた警備兵の大半は、見慣れた女性騎士・フレンの部下であるソディアによって大半が倒されている。どうやら砲撃が止んだ隙を見て乗り込んできたらしい。
 ユーリとフレンは同時に彼女へ助太刀し、残った兵を片付けた。慕う上司の姿に一瞬安堵したものの、ユーリの姿を認めるなり、ソディアの表情は途端に険しくなってしまう。敵対心あらわにユーリへ剣を向ける彼女を、フレンが制した。

「よすんだ、ソディア。今はそんなことをしている場合じゃない」
「隊長! なぜいつもこんな奴を……」
「こんな奴呼ばわりはあんまりじゃないですか……?」

 思わずも口を挟んだが、ソディアの刺々しい敵意は収まる様子が無い。
 ユーリは嘆息した。

「何度も言わせるなよ。おまえの相手をしてる暇はねぇんだよ」

 今にも斬りかかってきそうなソディアへ、他の仲間たちも次々に口を開く。

「あなたがやるというなら、手加減はしないけどね」
「他にやることがあるのよ、こっちは。邪魔しないで」
「ボクたちはエステルを助けなきゃいけないんだ。だから、剣をおろして」
「そうそう。無益な戦いはやめにしようや」

 忌々しそうに一行を見ていたソディアの目がレイヴンを捉えた途端、丸くなる。「シュヴァーン隊長……」髪型や服装をがらりと変えていても、やはり隊長主席は有名人だ。ソディアを一瞥しながら、レイヴンは手をひらひらと振って返す。

「俺様の名はレイヴン。ちゃんと覚えておいてね」

 フレンとシュヴァーン、もといレイヴンの説得に、ようやくソディアは剣を収めた。

「ユーリ・ローウェル。優先すべきことが片付けば必ずおまえを処罰する」
「それがあんたの仕事だもんな。好きにするさ」

 結局険悪さは収束しない彼らの元へ、ひとりの騎士が駆けつけてきた。隊服はソディアやフレンたちと同じ青色。味方のようである。伝令であろう彼は、現在進行形でヘラクレスと交戦中の艦隊の指揮を頼んできた。
 フレンは指揮へ向かうことを渋った。エステルの救出と騎士団の指揮、どちらを優先すべきか悩む彼の背を、ユーリとジュディスの声が後押しする。

「お前の部下のピンチだろ、行って来いよ」
「こっちは私たちで何とかするわ」
「……後で合流する」

 決心したフレンは、ソディアたちと共に騎士団艦隊へと向かって行った。彼らの為にも、一刻も早くヘラクレスの動力を止めなくてはならない。
 動力室の扉の向こうから、強烈なエアルの乱れが感じられる。は眉を顰めた。状況は思った以上に深刻そうだ。そしてそんな彼女の予感は、動力室へ入るなり的中する。
 動力室は、真っ赤に染まったエアルに包まれていた。ヘラクレスが巨大な魔導器だとしたら、此処は魔核。その魔核が、制御盤の破壊を受け、暴走してしまっていた。作り自体はシンプルな部屋の一番高い場所に、大きな透明の支柱が設置されている。その中心には大きな聖核が浮かんでいた。聖核を中心に血のように巡るエアルの流れが見えた。あれこそヘラクレスの“心臓”だ。
 暴走しながらも、エアルは一点へ向けて注がれている。

「このデカ物でこんなとんでもパワーが向かうとこなんて一つよ」

 呟くリタに、ユーリがハッとした。

「主砲か!」
「こんな状態で魔導器壊しちゃったら、ヘラクレスの動きは止まっても、主砲ぶっ放しちゃって目の前のザーフィアスは吹っ飛んじゃうわよ」
「えー! ど、どうしよう!?」
「何にせよ、このエアルの暴走を止めないと」

 慌てふためくカロルが部屋を見渡し、ジュディスが冷静に溢す。彼女の眼差しは、部屋の魔導器ではなく、ユーリの手にする剣へ向けられていた。それにレイヴンも気付く。

「宙の戒典か」
「そっか! デュークはそれでエアルに暴走を鎮めてたもんね」

 解決の糸口が見え、カロルはほっと胸を撫でおろした。
 しかし成功するかどうかは判らない。なにせこの規模だ。不安そうにリタはユーリを見る。

「できるの?」
「やるしかねぇんだ。やってみるさ」
「私の力でもちょっとは手伝えるかもしれない、とにかく聖核のもとへ向かおう」

 が言うと、ユーリは「そりゃ心強い」と小さく笑った。
 聖核の収められた支柱の目の前まで来ると、改めてその暴走ぶりが一行の心を苦しめた。聖核は始祖の隷長の魂。彼らが永い時の間、世界を守り続けてきた証だ。宙の戒典でヘラクレスの暴走を止めるには、この聖核を……消すしかない。
 カロルは悲しそうな顔で、宙に浮かぶ聖核を見上げていた。

「壊すしかないのかな……本当に」
「しゃあないわな。このままヘラクレスが突っ込めば帝都はぺしゃんこ。主砲も暴発するかもしれない」
「だな、迷ってられねぇ!」

 レイヴンの推測に頷いたユーリは、宙の戒典を高く掲げ、念じた。それに合わせて、も祈るように力を行使する。出来る限り暴走するエアルを吸い込むように。宙の戒典の手助けとなり、早く聖核を暴走の苦しみから救い出せるように。
 眩い発光と共に宙の戒典の力が発動した。光は暴走する魔導器を包み、エアルを本来の状態へと鎮めて行く。
 その最中、たちの耳に届く声があった。

『――ありがとう』

 誰の声でもない声。頭の中に直接響いて来た、感謝の言葉。
 光が収まると、聖核は消えていた。まさか今の声は、あの聖核を生んだ始祖の隷長のものだったのだろうか……?
 だがそんな感慨に耽る暇がには無かった。
 彼女がエアルを吸収せんと放った力は、いまだ発動したまま。動力室内のエアルの乱れは確かに鎮静化していたが、まだ全てが終わったわけではなかった。他の場所で……主砲で、まだ活性化したエアルが息づいている。一度火がついたそれは、止めようにも手遅れな段階まで進んでいたらしかった。

「収まった?」
「だめ! このままじゃ発射される!」
「そんな! 動力はもう止まってるのに!」

 仲間たちも主砲のことに気が付いた。
 は必死に主砲のエアルを取り込もうとしたが、許容量を超えたそれに耐えきれず、呻きをあげた。それでもは止めない。
 このままではいけない。早く残りのエアルを吸収しなくては帝都が――そこにいる人たちが――エステルが危ない。なのに。
 は唇を噛んだ。
 ――駄目だ、主砲のエアルを上手く捉えられない……!
 記憶を思い出し、以前より力の扱いを心得たとは言っても、完全にとまでは至らなかった。これがフェローの指していた“魔導器による力の制御”ということだったのだろうか。

ちゃん!」
「ごめんなさい、今の私じゃ、主砲のエネルギーをロクに奪えない……!」
「そうじゃなくて、無理に力を使っちゃ――」

 レイヴンがを止めようと手を伸ばした時、突然ヘラクレスが大きく揺れた。
 主砲が放たれてしまったのだろうか。いや、それにしては様子がおかしい。エアルの巡る支柱の向こうの窓から覗く景色がやや傾ぐ。また船が揺れる。フレンらの指揮のもと、騎士団が船ごと要塞にぶつかっていたのだ。僅かに傾いだまま、ヘラクレスは照準がずれたまま主砲を放つ。
 真っ直ぐ発射された図太い閃光はザーフィアスをぎりぎりで逸れた。帝都の向こうに見える山辺りで、ヘラクレスの主砲が被弾した。術式を纏った白く大きな光の柱が起こる。砲撃による爆発というよりは、強大な魔術のひとつのように思えた。
 何はともあれ、帝都直撃の悲劇は免れたのだ。
 ほう、とパティは大きく息を吐いた。

「どうなるかと思ったのじゃ」
「すごいわね、あなたのお友達」
「はは……まったくだ。無茶しやがる」

 笑みを滲ませたジュディスへ、流石に驚いたらしいユーリが力なく答える。
 カロルはおずおずと仲間たちへ尋ねた。

「ねえ、聖核を斬ったとき、何か声聞こえたよね?」
「ああ。聖核になった始祖の隷長の声、だったのかもねえ」

 力の行使で疲労したを支えながらレイヴンが頷く。
 は喋る気力が無いのか、黙して仲間の言葉へ耳を傾けるだけだった。

「聖核に宿っていた始祖の隷長の意志が、エアルを鎮めたようだったわ」

 ジュディスの推察を確かめる術も時間も、今の自分たちには無い。
 剣を下ろしたユーリは、すぐに踵を返す。

「もうここに用はねぇ。ザーフィアスにエステルを救いに行こう」

 当然、ジュディスたちも続いた。

「バウルを呼ぶわ。空の見えるところに行きましょ」
「ヘラクレスをオトリにされて、随分時間稼がれちゃったねぇ」
「急ごう!」

 そんな中、リタだけは思いつめたような顔のまま動けずにいた。
 ――意志がエアルを鎮める。
 ――聖核とエアル。
 ――リゾマータの公式とエステル。
 ――イレギュラーな存在、
 ひとつひとつへの思考を整理するように単語を呟いてみたものの、謎は深まるばかりで整理はつかない。
 リタは考えを中断し、ユーリを追う仲間の背中を追いかけた。
 ……艦の外に出ると、眼下にすぐ騎士団の船が見えた。先の体当たりのせいか、船の様子がおかしい。

「あー、あれはまずいの。あの傾きは浸水しとる。もたもたしてると沈むのじゃ」

 船に関しては随一の知識を誇るパティが、一目見るなり判断を下す。
 浸水する船の上で周囲の兵へ指示を送っているのは、見覚えある金髪の青年だ。レイヴンは瞬きした。

「あそこでなんか叫んでるの、フレンじゃないの?」
「ありゃ抜け出すって訳にはいきそうにねえな。フレンにゃ悪いがこのまま行くか」
「いいの? 後で文句言われるんじゃない?」

 カロルの疑問に、ユーリは涼しい顔で肩を竦めた。

「あいつの小言には慣れてるよ。ジュディ、頼む」
「ええ。……バウル!」

 ジュディスの呼び声に、バウルはすぐさま此方へ近づいて来た。「帝都に向かって……!」相棒の懇願に、バウルは“任せろ”と言うかのように大きく鳴いて応えた。

「うん……ありがとう。みんな乗って」
「追いかけっこもここまでにするぞ」

 意気込むユーリの言葉に頷きながら、は、バウルと話すときのジュディスは何だか幼く見えて可愛らしいな、などと場違いなことを思っていた。先の無謀による負担は大分和らいでいた。
 ヘラクレスで随分と接近していたこともあり、バウルに乗って間もなく、帝都が見えてきた。イエガーたちの話では、御剣の階梯とやらにエステルがいるらしい。

「……あれ?」
「おいおい、結界が無いぜ」
「アレクセイの野郎の仕業か」
「したい放題じゃの……アレクセイ」

 通常であれば展開されているはずの結界の消失。そして、帝都を中心に渦巻く嫌な色のエアルたち。遠目にも判る異変を前に、嫌な予感が増していく。街はどうなっているのか。住んでいる人たちは無事なのか。エステルはどうなってしまっているのか……。
 間に合うことを祈るしかない。

「このまま行くわよ?」

 ジュディスの問いに、頼む、とユーリが短く返した。
 帝都へ近づきながら、ジュディスとバウルがエアルの流れを追う。エステルと聖核の強大な力を辿り、エアルの乱れの中心を探る。
 間もなくして、彼女は低く呟いた。

「見つけた」

 帝都の中心、巨大な剣を模した建造物を抱え込んだ城の頂上部。そこにエステルの姿があった。

「あそこ!」
「エステル!」
「アレクセイもいやがる」
「ジュディ、近づけてくれ!」

 無言でジュディスが応じ、バウルは船をエステルたちへと近づける。赤く淀んだエアルが嵐のように吹き荒れる中を、バウルは果敢に突き進んでいく。周囲と眼下に広がるはずの城下町の姿を丸々覆うほど、エアルの乱れが酷い。アレクセイは容赦なくエステルを利用している。
 仲間たちと同じように、は憤った。
 ようやっとバウルとフィエルティア号は、エステルたちの目の前へ辿りついた。

「エステル!!」

 ユーリが叫んだのと同時に、アレクセイが不敵な笑みを浮かべて聖核を掲げた。
 力を行使されたエステルが絶叫する。彼女の喉も体も引き裂かれてしまいそうなほど大きく悲痛な叫びだった。エステルの力によって、ユーリたちはバクティオンの時のように動きを封じられた。ただでさえエアルの嵐で動きを制限されている中、かなり堪えるものがある。
 だが一番苦しいのは、エステルだ。
 リタは必死に叫ぶ。

「エステル!!」
「てめえ、アレクセイ!」

 ユーリは激昂していた。
 光の檻に囚われたエステルは、泣きながら首を振る。

「いや! 力が抑えられない! 怖い!」
「弱気になるな! エステル! 今助けてやる!」

 ユーリはフィエルティア号の甲板を強く蹴り、高く飛んだ。泣きじゃくるエステルを目指して、手を差し伸べる。
 エステルもまた、彼の手を掴もうとゆっくりと手を伸ばす。涙の零れる瞳がゆっくりと細められ、その顔に一瞬だけ、微笑みが戻る。
 しかし、タイミングを見計らったようにアレクセイが再びエステルの力を強制的に発動させた。
 放たれた衝撃がユーリを吹き飛ばす。間一髪で彼は船体の側面に掴まり助かったものの、何時落ちても可笑しくはない。

「ユーリ!」

 青褪めたカロルの叫び声を背に、は慎重に船から身を乗り出した。
 すぐにでもユーリを甲板に連れ戻さなくては。一か八かで狼へ転じた彼女は、船に爪を立てながらユーリの元へ向かった。「!?」口から心臓が飛び出すのではないか、と心配になるぐらいのカロルの声。は気休めにと自身の周囲に術を展開させていた。バクティオンでシュヴァーンと共に生き埋めになった時に咄嗟に出た、あの結界である。幸いなことに気休め以上の効果が出た。嵐や重力も無視して船縁を狼が駆けて行った。
 険しい顔で、ユーリはを見る。

、何してんだ! オレよりエステルを!」
「ユーリが死んだらエステルがもっと泣くでしょ!」

 有無を言わさぬ口調では叫び、ユーリの服を銜えた。

「これ以上……誰かを傷つける前に……。お願い……」

 ユーリを銜えたまま甲板へと引き返すの耳に、再び泣き崩れたエステルの声が響いてくる。
 何もかも諦めてしまった花色の少女は、まるで感情を失ったかのように虚ろな眼差しをしていた。
 一番見たくない顔だ。
 そして、一番聞きたくない言葉を、エステルは此方へ向かって溢す。

「殺して」

 の頭の中は、真っ白になった。心は冷たい針で貫かれたような鋭い痛みを持ち、今しがたエステルの溢した願いを信じられずに震えていた。
 呆然とするを覚醒させたのは、エステルの側で再び聖核を操り始めたアレクセイの姿だった。
 アレクセイが力を行使する直前、全力で船縁を駆け上がったは、寸でのところでユーリを甲板へ放り投げることに成功する。叩きつけられた衝撃で彼が顔を顰めた気がするが、落ちるよりはましだと思って許してもらえることをは祈った。
 ――瞬間、エステルの泣き叫ぶ声が響き、突風が起きた。

「エステル!!」

 甲板に投げこまれたユーリと、あと一歩船に届かなかったが、同時に少女の名を叫ぶ。
 バウルも流石に満月の子の力に耐えきれずに吹き飛ばされてしまった。船も、仲間も、一緒に嵐の向こうへと追い出されて行ってしまう。
 ひとり宙を舞いながら、はアレクセイを睨みつける。

『愚かな化け物め』

 アレクセイの口がそう動いたのを、は確かに見た。
 だがは希望を捨てず、叫んだ。届くかどうかは関係ない。破裂しそうな想いを吐き出さなくては気が済まなかった。

「エステル! 必ず行くから! 諦めないで!」

 狼が――が、無残に落下していく。
 エステルの虚ろな瞳に再度悲しみが満ちる。落ちて行く仲間の姿を見ていられなくなった彼女は、両手で顔を覆い隠した。
 エステルのすべてを、悲しみと絶望が覆って暗く染めて行く。

「ごめん……なさい……」

 少女の言葉を受け止める仲間の姿は、もうどこにもない。

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