の歌は、身の内に溜めたエアルを昇華するための魔術だった。光は、エアルが変換され結晶化したマナであり、魔術らしい“効果”も宿していた。
「どうやら、治癒術の一種ですね。少なくともこの結晶に含まれている力は……ですが」
シュヴァーンには使い方の見当がつかない機械をいじりながら、ウォクスはずっと結晶を調べていた。何処かに薬品でも溢したのか、部屋中につんとした臭いが立ち込めている。
一人ぶつぶつ呟くウォクスを、シュヴァーンはただ見つめていた。ウォクスに言われてこの部屋に来たものの、何かすることがある訳でもない。手持ちぶさたであった。
「シュヴァーン殿、アレクセイ殿に伝えて頂くことが沢山出来ましたよ! 明日までには何とか纏めます、いや、間に合うか……? うん、間に合わせますね」
ウォクスの笑いは、かつてカルボクラムで見たものに似ていた。子供のように無邪気でありながら、内なる狂気を殺しきれぬ眼差しがぎらつく。
らと接して、彼が親心に目覚めたのかと一瞬でも感じたのは間違いだった。
最初からこの男の頭には、自身の研究のことしか無いのだ。
「このマナ結晶を見て確信しました。の力があれば、私達は魔核を作り出せるかもしれない」
「魔核自体を? まさか……」
「現にこの結晶は、術としての力を持って存在しています。ただ脆く不安定で、魔核には及ばない。一度行使すれば消えてしまう……。あの子がまだ自覚して力を使えていないせいもありますが……。十分な兆しですよ」
古代の叡知、魔導器。器である筐体は現代技術でも生産は可能だ。だがその心臓部とも言える魔核は、発掘したものを流用するしかない――一応魔核の復元も可能ではあるらしいが発掘したものに性能は及ばないのだとか――。そうウォクスは話した。
「は無自覚のうちに、術式と共にエアルを変換させ、この結晶に閉じ込めた。とても難解で繊細な作業です。彼女が知識と経験を身につけたら、もっと効力ある結晶を作り出せるでしょう」
笑いを抑えることなくウォクスは続けた。
「“まずは”、に知識を与えてみましょうかね」
まずは。その前置きの裏に、シュヴァーンはおぞましいものが隠されているような気がした。しかし、洞察力の鋭いシュヴァーンにさえ、ウォクスはその正体を見せることは無かった。
少なくともアレクセイに仇なすような“裏”ではないことを、ひっそりとシュヴァーンは祈る。
この男を敵に回すと面倒そうだ。
◆◆◆
たちはシュヴァーンに懐いていた。自分たちを助けてくれた騎士に、無垢な信頼を寄せていた。その眼差しは、シュヴァーンの乾いた心をくすぐってくる。気持ち良いものでは無かったが、退けるのも気が引けた。
何せ当初、シュヴァーンは彼女たちを人間だとは思わずに迎えに行った。たちと対面してすぐに消え去ったものの、確かに抱いた先入観が彼の良心をちくりと刺す。自分はあんなに輝く眼差しを受けるべき人間ではない。
子供たちを見ているのは、なんとなく辛い。
ウォクスがアレクセイへの書簡を認める間、シュヴァーンは宛がわれた部屋に籠っていた。
(子供の相手も楽じゃない)
年端もいかぬ子供――というかの弟妹――は、無垢のうえ無遠慮だった。夕食の際も舌足らずの質問を絶えずシュヴァーンに投げ続け、にたしなめられるほどに。
「ごめんなさい、お兄さん。ただ、アルトもリィーナも、お兄さんが来てくれて、うれしいんです」
誰より先にはしゃいだ自分のことは棚に上げ、幼い姉は淑やかに話した。
「だっておねーちゃん~!」
「シュヴァーンさんあしたかえっちゃうの?」
「ふたりとも、お兄さんが困るからいい加減ご飯食べなさいっ!」
ふとシュヴァーンは、が自分を“お兄さん”と呼ぶことが気にかかった。彼女の弟たちは「シュヴァーンさん」と口にするのに、彼女はずっと「お兄さん」と言った。心中ではどう呼ぶのか知らないが、少なくとも口にする限りでは。
――客室のベッドに転がり、ぼんやりと考える。他愛ないことに思いを馳せるというのは、ひどく人間らしい行いだった。しかし。
「俺には、似合わないか……」
明日の出立に向け、シュヴァーンは思考を閉ざすと眠りについた。
次の日シュヴァーンは、ウォクスの纏めた書類を携えてすぐ帝都に向かった。何時かのように、たちは揃って騎士を見送った。
「よかったら、また来てくださいね」
再度訪れる保証はない。
も何処と無くそれを悟っているような、寂しげな声音でシュヴァーンに言った。
「……元気でな」
彼女の期待には応えず、ありきたりで無難な言葉を送る。
それでも嬉しそうには笑い、彼に手を振った。
「お兄さんも、お体気を付けて下さいね」
「きをつけてねー!」
「シュヴァーンさん、ばいばい!」
シュヴァーンが再度屋敷を訪れるのは、彼女たちがもっと成長してからのことになる。
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